彼女と彼のレンタル事情

いちこ

彼女side

「君、可愛いね」


「今までレンカノ申し込んでたけど君みたいな子、初めて」


「レンカノじゃなくて普通に彼女にしたい」


「好きなんだけど」


「俺レベルでも付き合えるでしょ?レンカノやってるくらいなんだから」



今日も私は、会ったこともない幅広い年齢層の人にレンタルされている。


私は小野寺真紀。21歳。

どこにでもいる大学生。

大学生から晴れて東京に越してきて早3年。

実家暮らしだった頃は、おしゃれを楽しんだり、友達と学校帰りに人気のカフェに行ったりしていたのが当たり前だった。


でも今は違う。

お金がないのだ。おしゃれとか遊ぶためのお金はもちろん。生きるためのお金が。


え?親から仕送りしてもらえばいいじゃんって?

無理、無理。


え?親とは仲良くないのかって?

いや、普通に仲良いよ。毒親とかそんなんじゃない。


でも仕送りしてもらえない。

いや「してほしい」なんて言えないのが正しいかな。


だって、本当は、高校卒業後、実家の旅館を継ぐはずだった。

それをまだ【学生でいたい】

なんて言って勝手に地元を離れ、親に何も言わず、東京に来てしまったから。


ちなみに一般入試で入学。私って意外に頭いいのよ。

大学の入学金も今まで自分でコツコツ貯めた全額をつぎ込んでギリギリ入学できた。



そんなわけで入学してからは、授業、課題、節約、バイトばかりの生活。

最初はかなり苦労した。こんなにも大変なのかって思うくらい。

毎日、授業・大量の課題・バイトの繰り返し。

キラキラした毎日を思い描いてきていたが、全然そんなことはできない。


授業終わりは、必ず居酒屋バイトのシフトを入れているので、誰でも大歓迎のサークルの飲み会や同じ専攻の子たちとどこかご飯食べに行ったりする、楽しいイベントに参加したいのに毎回断るしかない。

その毎日を繰り返した結果、誘われることさえもうなくなった。


こんなんだから、東京に来てから一切友達もいない。

地元の友達もどうして東京に来たのかとかどうして旅館継がないのかとか、そういう煩わしい詮索もしてほしくなくて自分から断ち切ってしまった。

今思うと地元の友達くらいは断ち切る必要なかったのでは?と思ったり。


それに大学生になれば色んなときめきや出会い。

今まで以上、可能性が広がるチャンスだと思っていたけど、この状況。

できる、わけがない。


「おはよう」「またね」「課題教えて」とか最低限の会話のみ。

恋愛に発展することなんて、断じてない。


何か、私、色々しくじってない?


あれ?もしかして東京に来たこと失敗した?

旅館を継いでいればお金がないとか友達がいないとか恋愛したいなんて思うことなかったはずじゃ…?


あぁ…。

花の大学生なんだから恋したい。

できれば、彼氏が欲しい。

トキメキが欲しい。

とにかく男性と接したい!


そんな想いばかりが募り、遂には

【彼氏 つくりかた】【友達 同性 異性 つくりかた】

暇な時間はこんなワードでインターネットで調べまくるようになった。


調べる限り、手っ取り早いのはマッチングアプリだった。

でも私には何か違うような気がしてならなかった。


「確かに手軽だし、これにすがりたい気持ちはある。これに出を出せば、私も周りの皆と仲間入りできるんだけど、そんなことしていてもせっかくの時間が勿体ないし、お金も稼がないといけないし…。」


そうやって恋には疎い、自分の脳みそをフル回転し、私は一つの答えを導き出した。


「あ!じゃあ、自分が好きになれそうなタイプを探しながらお金を稼げばいいじゃん」

どうしてその答えに導き出されたのか私でも分からない。

多分、きっと、インターネットで色々検索した際に出てきた広告に【レンタル彼女】というワードを見てそう思ったんだろう。


レンタル彼女なら仕事なのでお金は得られる。

そして相手が男性だから。

自分好みの人が見つかれば、あわよくば本当の彼女に。

そんな理由。


レンタル彼女の仕事をしている女性の皆さんには理解できないことだろう。

だって、私自身も到底理解できないって思っている。

この時はきっと焦っていたんだと思う。

大学卒業まであと1年。

大学生ならではの青春を味わっていないから、レンタル彼女を通して少しでも青春を味わいたいんだって。


不純な動機からレンタル彼女として働くことになった私。


初めて指名された当初は、緊張で空回りばかりして新規のお客さんを増やすことは容易ではなかった。

お金を稼ぐこともできない。ましてや自分好みの人を見つける、それどころじゃなかった。

こんなにも男性とうまく話せないんだと少し惨めになった。


「…よし。ここで落ち込んでたら青春逃げるぞ、自分」

そう言いながら、まずは自分自身を変える方向にシフトした。


①毎日、鏡に向かって笑顔の練習。

②洋服やコスメ、節約するために最低限のものしか揃えていなかったが、プチプラのブランドでレンタル彼女用としてそれなりに揃えた。

③クマのぬいぐるみに向かって男性と話す練習。


今までの生活にプラスして日々自分磨きを必死に頑張る日々。



1か月後。

「孝弘さん、今日はありがとうございました」

「こちらこそありがとう、真紀ちゃん。今日も楽しかったよ。また来週予約するね」

「え!ほんとうですか?やった~また孝弘さんとデートするの楽しみにしていますね」


私は、レンタル彼女としての才能が見出されたみたいで、あれから自分磨きを頑張った結果、着々と固定のお客さん、新規のお客さんを増やしていった。

お給料も1日働いただけで5万円だった。

レンタル彼女を始める前、必死にバイトを週7で入れていた頃が馬鹿馬鹿しくなるくらい。

レンタル彼女、始めて良かったなとバイトを初めて経験した頃の新鮮な気持ちが蘇ってきた。

事務所の人にも良かったねと褒められるようになり、とてつもなく嬉しかった。

不純な動機で始めたこの仕事もなかなか悪くない。


そう思った矢先、「俺レベルでも付き合えるでしょ?レンカノやってるくらいなんだから」なんて失礼な言葉を並べるお客さんが現れるようになった。


噂では聞いていた。

レンタル彼女を利用するお客さんの中には、ガチ恋勢がいるって。

覚悟はしていた。だけど、やはりガチ恋勢の扱い方、分からない。


「ええと…純さんのことは好きですよ?付き合うとかそういうのは一旦忘れてデート、楽しみましょ」


「…そうだね。まぁ、今日は1日、真紀ちゃんレンタルしているから付き合っているみたいなものだからいっか」


「あはは」

渇いた笑顔を振りまきながら、【ちょっと何言ってるのか、分からない。】

と頭の中で軽くツッコミを入れる。


レンタル彼女として少しづつ収入を増やせるようになった一方、ガチ恋なお客さんが増えてきてしまい、少々めんどくさい。

確かに最初は、自分好みの男性がいれば、本当の彼女に昇格してもいいかな~なんて思ったけど。

この仕事をして分かった。自分好みの男性なんていなかった。

普通の人はもちろんいる。

傍から見ればこの人いいじゃん!って思う人はゴロゴロいる。

でも、やっぱり、初めての恋愛するなら妥協したくない。

別に最初に付き合った人と結婚までしなきゃみたいなルールなんてないし、そんなことは一切思ってない。それに結婚なんてまだまだ焦る必要はない。


自分の中で最初の恋愛が一番の思い出になる、そう思っているから慎重に大事にしていきたいって思ってるんだ。


「はぁ、そうは言ってもね~」

私はどうしても周りと同じようになりたくて、恋がしたい。好きな人が欲しい。出会いが欲しい。

なんて、最近はそればっかり考えてしまう脳になっているみたい。

そんなんだからまた、変なことを思いつく。


「よし、じゃあレンタル彼氏利用してみようか」















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