第6話 先輩

 俺は紫乃杜しのもり夜月。阿部小部高等学校の2年。


 この学校に入ったとき、入学式初日に江戸城跡に連れて行かれたり、課外授業に連れていかれたりとよくわからない1日を過ごした。その日は結局担任から説明されても意味がわからなかったが、翌日のオリエンテーションのときにわかったことが1つある。それは


 この学校、途轍もなく変な学校だってこと。


 阿部小部高等学校に入って最初に気づきたことだった。それからの毎日は常に頭を働かせていないと、急にあべこべ遊びが始まるからついていけなくなる。


 まぁ、そのおかげで臨機応変に行動できるようになったんだけど。


 それで、今年俺の幼馴染の静海海浬ってやつが入ってくる。海浬とは昔から家族同士で仲が良かったからよく一緒に遊んでいた。


 一昨日入学式でやっぱり江戸城跡に連れて行かれたらしい。その後課外授業にも連れていかれたらしい。でも去年にはなかった高長先生の挨拶があったって帰ってきたときに言っていたな。俺のときは普通に校長先生が挨拶していたって言ったら『え?なんで今年はそんなことしてるの』って混乱してたなぁ。俺もそれについてはわからない。


「すみません、紫乃杜先輩いますか?」


 誰かが俺を呼んでるようだ。


「お~い、紫乃杜~」


「おう!」


 ドアの方に行ったら海浬と女の子2人がいた。海浬のやつもう女子と仲良くなったのか。入学3日で。しかも2人。


「よう!海浬!」


「夜月!やっほ~」


「こんにちは。佐谷玖実です。海浬とクラスメイトです」


 初対面の人に会ったときは挨拶から。


「こんにちは。沙美原萌香です。同じく海浬とはクラスメイトです」


「こんにちは。海浬とは幼馴染の紫乃杜夜月だ」


 玖実ちゃんと萌香ちゃんっていうんだ。今日は何しに来たのかな?


「今日はどうしたの?何か用事でもある?」


「そうそう、夜月。夜月が日に日に頭の回転が速くなってたのってこの学校に入ってからだよね。それってあべこべ遊びをやってたから?」


 あぁ、あべちゃんのことか。


「そうだな。あべちゃんはボケっとした瞬間に始まるからずっと頭を働かせてないといけないし、慣れてくると、ここであべちゃんがくるだろうなってわかるようになるんだ。そのおかげでなんでも予測する習慣がついたし、去年の家族旅行のこと海浬は知ってるだろ。ああいうことが出来るようになったんだ」


「へぇ〜。確認なんだけど、あべちゃんってあべこべ遊びのことでいいんだよね?」


「そうだぞ」


 そういえば俺もまどこの頃ってあべこべ遊びって言ってたなぁ。いつからかあべちゃんって言ってたけど。


「そうなんですか。先生があべこべ遊びがのことは先輩に聞けって言って教えてくれなかったんだよね」


 あぁ、今年もやっぱり教えてくれなかったのか。先生たち。


「それは多分毎年だな。俺たちのときも教えてくれなかった。先輩との交流も大事って言いたかったんだと思う」


「そうなんですか」


「海浬も玖実ちゃんも萌香ちゃんもこれからも気を抜くなよ。ついていけなくなるから。まぁ、慣れるまでの辛抱だ」


「「「はい!」」」


 元気に返事をして自教室に帰っていった。


 はぁ、やっぱり今年も先生たちあべちゃんのこと教えてくれなかったんだなぁ。海浬たちは先輩として知り合いの俺がいるから良かったほうだけど、俺のときは大変だったな。先輩に知り合いなんていなかったし。


 あ、でもあのときあべこべ遊びを教えてくれた先輩とは廊下とかで会ったとき今でもよく話しかけてもらっているし。やっぱり他学年との交流って大切なんだな。





 ***** 夜月の過去 *****

 夜月が1年だったとき





「どうしよう俺、先輩に知り合いいない!」


 結構大きな声だったのだろう。通りかかった先輩が話しかけてきてくれた。


「君、新入生?」


「は、はい!」


 優しそうな先輩だった。


「もしかして『あべこべ遊びのことは先輩に聞け』って言われた?」


「はい、そうです。でも俺、先輩に知り合いいなくて……」


「それなら僕が教えてあげよう」


「ほ、本当ですか!?」


 俺はその先輩からあべこべ遊びについて教えてもらった。あべこべ遊びの説明の他にもどういうときにあべこべ遊びあるかなんかも少し教えてもらった。


「本当はいつあべこべ遊びが始まるのかは内緒だけど少しだけ教えてあげるね」


 って言って。


「あ、あの。先輩の名前って何ですか!」


「あぁ。教えてなかったね。僕は宮古音弥みやこおとやっていうんだ。君は?」


「俺は紫乃杜夜月っていいます!宮古先輩!」


「音弥でいいよ。夜月くんね。これから学校で大変なことがあると思うけど頑張ってね。何かあったら僕のところに来てもいいよ。2年2組にいると思うから」


「はい!ありがとうございます!」


 これが俺の先輩との初めての出会いだった。

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