第4話 オリエンテーション

 入学初日早々に課外授業という奇妙な体験をした翌日、新入生たちは自教室にいた。昨日の珍事が忘れられないようだ。


 萌香もまた忘れられず、夜眠れていなかった。


(昨日先生が『この学校ではあべこべ遊びは日常』みたいなこと言っていたけど、先輩たちも毎年こんな思いをしていたのかな。この学校、ちょっとどころではなく変だもんね)


 などと思っていた。そこへ


「ねぇ、君昨日寝れなかったの?」


 声がかけられた。前髪の端をピンで止めたロングヘアの子だった。


「う、うん」


「昨日はなんかよくわからなかったもんね」


「そうだね」


(この子、クラスメイトかな。話しかけてくれるのは嬉しい。友達はほしいけど話しかけるの苦手なんだよね。友達になれたらいいなぁ)


「あ!私、佐谷玖実さたにくみって言うの。よろしくね」


「私は沙美原萌香です。よろしくね」


 挨拶をしていると布黒木先生が入ってきた。


「席につけ〜オリエンテーション始めるぞ〜」


 みんな各々の席に着いたのを見計らって


「それではオリエンテーションを始める。まずはこの学校についての説明だ。この学校は、何にでも負けない、動じない精神を養うことを教育の目標にしている。だから昨日の様にあべこべ遊びを取り入れている。あべこべ遊びって言葉、昨日説明したが、覚えていない奴いるか?」


 1人の生徒が手を挙げる。


「先生、質問いいですか?」


「いいぞ」


「昨日みたいなことをやって将来に本当につながるのですか?」


 尤もなことを聞いた。


「なるぞ。先輩に会う機会があったら聞いてみるといい。答えてくれるぞ。それまでお楽しみだ。他に質問ある奴はいるか?」


 誰も手を挙げない。


「なければ続けるぞ。この学校は基本的にはなんでもあり。だが生徒と同士で、怪我したり死んだりするようなことは絶対するなよ」


 なんでもありという言葉にみんな心当たりがあったのだろう。納得の表情をしている。


「次に紹介だ。まずは俺からやるぞ」


 担任が最初に紹介をすることはほとんどなかったのかみんな珍しいものを見るような、不思議なものを見るような、興味津々で布黒木先生のことを見た。


「俺は中学のときに車が電柱にぶつかる瞬間を見たな。その車の運転手は軽い傷で済んでいたと思うな。その事故以外は見たことないな」


 布黒木先生が急に自分が見たことのあるについて話始め、生徒たちは心の中で


(何で急に事故について話し始めてるんだ?)


 と思っていた。


「俺の事故紹介は以上だな。お⁉みんな何急に事故について話してんだ?みたいなこと思ってるだろ。これはあべこべ遊びだ」


 布黒木先生が黒板に大きく


 自己 事故


 と書いた。自己のほうに×をつけ、事故のほうに〇をつけ


「今俺が言った紹介はこっちだ」


 と事故のほうを指しながら言った。


「こんな風に急にあべこべ遊びが始まるから昨日も言ったようにいつでも頭をフル回転させておけよ」


 最初、生徒たちは布黒木先生が何を言っているのか理解できていなかったが、だんだんと昨日の最後のほうに布黒木先生が言っていたことを思い出したのか自分が思いあたる事故について考え始めた。


「でも、ちゃんとあべこべ遊びについては解説なり説明なりするからそこら辺の心配はしなくていいぞ。それじゃあ出席番号1番から始めよう」


「出席番号1番の――」


 あべこべ遊びが始まった。






 ほとんどの生徒がこれから始まる学校生活に少しの不安を抱えながらオリエンテーションを終えた。







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