第2話 課外授業

「教員紹介を行います」


 入学式は一波乱あったが無事に終わった。しかし、この後も恙無く終わる保証なんてない。しかし、新入生の中で誰一人そのことには気づかない。もちろん萌香も。


(そういえば入学式のときにしてなかったなぁ。私は3組。どんな先生かな)


「1組担任、藍川先生。2組担任、嘉味田かみだ先生。3組担任、布黒木ふくろき先生。4組担任——」


(布黒木先生だ。見た目は普通の先生だ。よかった〜。怖かったらどうしようかと思った!)


「——以上教員紹介でした。次に案内です。移動するので、各自担任の先生に従ってください。」


 次なる波乱が押し寄せてきた。そんなこと知らずに新入生たちは担任について移動する。


 担任たちが止まったところは学校から離れた一つのとても大きな建物の前だった。中にはたくさんの人がいた。


(え?なにこれ、これから何するの?案内じゃないの?)


 新入生たちが困惑していると


「これから案内をする」


 布黒木先生が言った。そう、校舎案内ではなく講社案内だ。この阿部小部高等学校では発音は一緒でも漢字が違い、意味が違うということを実際に行動に起こしてやり、何にでも負けない、動じない精神を養うと同時に頭を日常的にに回転させる、という訓練をしているのだ。


「新入生の諸君、混乱しているところ悪いが入学式早々、課外授業だ。他の組も他の講社に行っているはずだ。この学校では毎年行なっている。先輩たちも同じ道を通っている。安心しろ。」


 担任からその都度説明がされる。されないときもあるが。


 こうして、初日早々課外授業というビックイベントの講社案内を終えると、学校に帰る。






 『帰るところまでが課外授業だ』と布黒木先生に言われた新入生たちは大人しく従い、学校まで無事に着いた。


「はい、お疲れ様。入学早々課外授業で驚いたと思うが、この学校では当たり前だ。入学式でも言われていた様にこんな感じで何にでも負けない、動じない精神を学んでいく。いつも頭をフル回転しておけ。そうすれば、多少は予測しできるだろう。」


 布黒木先生が忘れず解説をする。


「あと、入学式で発音は同じだが、意味が違うということがあったが、気づいた奴いるか?」


 みんな一斉に静かになる。入学式のことを思い出そうとしている様だ。もちろん萌香も。


(入学式?江戸城跡にいきなり連れて行かれて、そのあと帰ってきたら普通に入学式したよね。なんか異様に背の高い先生が話をして、誓いの言葉言って終わったなぁ。他になんかあったけ?)


 他の新入生も同じの様だ。みんな首を傾けている。


「皆わからない様だな。正解は先生の話だ。校長先生は他にいるぞ。奥海おくみ校長先生だ。壇上に上がって話をしていたのは普通の先生だぞ。」


 布黒木先生が阿部小部高等学校のパンフレットを取り出してみんなに見せた。そこには校長の写真があった。校長の顔は『ザ・校長先生』という顔をしている白髪頭のおじさんだった。


「「「あっ!」」」


「皆わかったようだな。そう、ここに載っているのが校長先生だ。さっき話していた先生と違うだろ?こんなふうに日常的に発音は同じだが意味が違う、ということを体験してもらうからな。あと、いちいち『発音は同じだが意味が違う』って言うのは面倒くさいからこの学校ではあべこべ遊びと言っている。他の先生が『あべこべ遊び』って言ったらこのことだからな。それでは改めて入学おめでとうと言っておこう。これで今日は終わりだ。」


 やっと本当に入学式が終わった。みんな疲れた顔をしながら帰っていった。


(なんか意味がわからない入学式だったけど、明日も頑張ろう)


 新入生たちも萌香と同じ様に考え帰宅した。

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