―08― 初めてのいちゃらぶデート
―0 まさか、このオレが女の子とデートする日が来ようとは。
もちろんデートなんて初めてだ。
幼なじみの寧々と二人っきりで出かけたことは幾度となくあるが、デートの定義がどうであれ、あれはデートに含まれないだろうしな。
「それで、どこに行くんですか?」
電車の中で椎名が話しかけてくる。
やっぱり、改めてみてもこいつってかわいいよな。電車に乗っているときでさえ誰もがチラチラと彼女のことを見つめている。こんな彼女を連れているだけで優越感で鼻が高くなりそうだ。
「まぁ、テキトーに街を探索しようぜ。海外にいたなら、この辺り詳しくないだろ」
「確かに、この辺りは幼い頃に一度来ただけなのであまり詳しくはないですね」
椎名のやつ、澄ました顔をしているが、くくくっ、うまく騙せたようだな。
テキトーに街を探索なんて言ったが、こんなの大嘘だ。デートプランは昨日のうちに分単位で予習済み。オレの完璧なエスコートで落ちるがいいさ。
『本日は品切れにより閉店させていただきました』
看板の前にそう張り紙が貼ってあった。
「あら、残念ですね。忠仲さん一押しのパンケーキのお店がどんなものか興味がありましたがこれでは仕方がありませんね。別の場所に行きましょうか。って、忠仲さん、なに頭抱えているんですか……」
オレの完璧なデートプランがああああ!!
◆
「ほら、これでも食べて機嫌を直してください」
オレの完璧なデートプランが……あ、このソフトクリームめっちゃうまいな。
「いくらしたんだ、これ? 金払うぞ」
「別にいらないですよ。私の家、お金持ちなので」
「いや、でも……男のプライドがな」
「親からもらったお金で奢ってもプライドなんて満たせませんよ。そのセリフはお金を自分で稼いでから言うんですね」
むっ、たしかに椎名の言葉は一理あるな。
「そういうことなら、ごちそうさま」
そう言いながら、残りのソフトクリームを食べてしまう。
「それで、このあとどうします?」
「どこかに行きたい場所とかないか?」
「……特に思いつかないですね」
一番困る返答だな。まぁ、オレも特に思いつかないが。
「それじゃあ、よさげなカフェでも見つけたら中にはいるか」
「いいですけど、カフェでなにをするんですか?」
「そうだな。せっかくだし、じっくりとお話ししようぜ。お前のこと、よく知りたいしさ」
謎の転校生、風不死椎名。
彼女がオレと結婚してくれるのかどうかはわからないが、どっちにせよ、オレはこいつと真剣に向き合わなくては失礼だと思った。
こいつと結婚したい理由が、借金帳消しという事実を変えることはできないが、それだけに目を眩ませて、彼女の内面を無視し続けたら、彼女はオレを拒絶するに違いない。
椎名を振り向かせるには、まずはオレが彼女のことを好きにならないとな。だから、彼女を好きなるためにも彼女のことをもっと知りたい。
たまたま中にはいったカフェは非常にオシャレな内観だった。こういうのをゴシック調と呼ぶとどこかで聞いた記憶がある。
ウエイターが「お待たせしました」と言いながら、机の上に二つのコーヒーを並べる。
すると、椎名は机に置いてあった角砂糖を、一個、二個、三個……四個、五個、けっこういれるな。そして、スプーンにかき混ぜてから口に含んでは満足そうな表情をする。お、このコーヒーめちゃくちゃうまいな。
「それで、私のなにを聞きたいんですか?」
コーヒーの入ったカップを受け皿に乗せながら椎名は言葉を発する。
「そうだな……。椎名って海外にいたんだろ。海外のどこで暮らしていたんだ?」
「小さい国なので、言ってもわからないと思いますよ」
「そう言わずにさ、教えてくれよ」
「まぁ、いいですけど」
そう言ってから、彼女は国名を告げた。確かにそんな国聞いたことがないな。ポケットからスマートフォンを取り出して調べてみる。うわっ、こんなところに国があったのか。
「やっぱり知らなかったじゃないですか」
口をすぼめて彼女はそう言う。
「まぁ、知らなかったけどさ。でも、聞けたおかげで椎名のことを一つ知ることができただろ」
「はぁ、そうですか」
「てかさ、やっぱり海外にいたのなら外国語ペラペラなのか?」
「そうですね、四カ国語しゃべることができますよ」
「マジか。やっぱ頭がいいんだな」
「ええ、あなたと違ってそうかもしれませんね」
椎名は上目遣いでオレのことを見ていた。ホント減らず口ばかり言うよな、こいつ。それさえなければ、こいつのことを好きになれるかもしれないのに。
「なぁ、椎名。オレと結婚したくないのは重々承知しているが、なにか特別な理由があったりするのか?」
「特別な理由ですか……。単に、よく知らない人と結婚したくないってだけですよ」
「それならよかった」
安堵すると、椎名は「なぜ?」と首を傾げる。
「あ、いや、結婚を拒んでいる理由が彼氏や好きな人がいて、その人と結婚したいからとかじゃなくてよかったなって」
そして、もし、そんな理由だったら、彼女の心を仕留めるハードルはものすごく高かっただろう。とはいえ、諦める理由にはならないが。
「私のお眼鏡に適うような人なんて世界中どこを探してもいないと思いますよ」
「確かに、世界一かわいいお前と釣り合う男なんて滅多にいないだろうな」
そう言うと、彼女はあからさまに不満そうな顔でオレのことをジト目で睨み付けてくる。
「忠仲さん、私のご機嫌をとって、あわよくば私に好かれようとか思ってます?」
「いや、オレは事実を述べただけだが。それともお前が世界一かわいいというのは流石に過大評価だったか?」
すると、彼女は呆れた表情でため息をしてからこう口にした。
「いえ、確かに私は世界一かわいいですね」
よく平然と肯定できるよな。普通だったら遠慮する。
とはいえ、彼女の性格はなんとなくわかってきたな。
自信過剰。
彼女の性格を一言で表すなら、そんなところだ。
彼女は恵まれていることをよく理解して、それを得意になってひけらかす。だが、そんな彼女を見ても、あまり嫌みに見えないのが彼女の魅力だろうか。
恐らく彼女は自分を中心に世界が回っていると本気で思っているに違いない。
ふと、ある人物が脳裏にちらつく。
七皆寧々、あいつもある種自己中なところがあったな。
さて、そんな彼女を落とすにはなにをすべきなんだろうな。
オレは頭の中でシミュレーションをしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます