【改良版】異世界『配慮』マンザイ

久坂裕介

第一話

 異世界は、どこにあるのか分かりません。なので読者の想像力に、期待きたいします。異世界の木製もくせい舞台ぶたいと、そこに立つ一本のセンターマイクを、想像してみてください。


 そこに背中に白い羽が生えて天然パーマで、小さな目で丸顔の男が近づいてきました。更に背中に黒い羽が生えて短髪で、死んだ魚のような目をした面長おもながの男が、近づいてきました……。


「どうもー! 天使の天君てんくんでーす!」

「どうもー! 木村拓きむらたく(ピー)でーす!」

 

 天君は、木村拓(ピー)と名乗なのった者を、どついた。

「どこの世界に、そんなブサイクな木村拓(ピー)が、おんねん? どつくぞ!」


 大きくのけぞった、木村拓(ピー)と名乗った者は、反論はんろんした。

「もう、どついとるやーん!」

「うるさい! もう一回、いくぞ! どうもー! 天使の天君でーす!」

「どうもー! 福山雅ふくやままさ(ピー)でーす!」


 天君は再び、福山雅(ピー)と名乗った者を、どついた。

「だからどこの世界に、そんなブサイクな福山雅(ピー)が、おんねん? どつくぞ!」

 

 再び大きくのけぞった、福山雅(ピー)と名乗った者は、反論した。

「だからもう、どついてるやーん! それにブサイクなのは、おたがさまやーん!」

「うるさい! ちゃんと自己紹介しろ!」

「はいはい。どうもー! 悪魔の悪君あっくんでーす!」 


 天君は、った。

「さあ、そんなわけで、僕ら天使と悪魔が、マンザイしようと思うんですけど……。何や、悪君? 不満そうな顔して?」

「いや、さっきから、ピーピー、うるさくない?」


 天君は、説明した。

「ああ、あれか。あれは『配慮はいりょ』や。カクヨムWeb小説短編賞2022の、注意事項に書いてあるやろ。『特定の個人・団体を誹謗ひぼう中傷ちゅうしょうする作品は、選考対象外となります』って。つまり特定の個人・団体は『配慮』せえ、いうことや」


 悪君は、スマホを見ながら答えた。

「あ! ほんまや! なるほどなー……。でも、ちょっと待って。別に僕ら、木村拓(ピー)も福山雅(ピー)も誹謗・中傷してへんで?」


 再び天君は、説明した。

「ああ。これは、作者が『配慮』したんや」

「『配慮』?」


「ああ。仮にも、木村拓(ピー)や福山雅(ピー)を名乗る者をどつくとは、何ごとだ! っていうクレームが付いたら困るやろ? 作者は、ビビっとんねん。作者はこの作品で、G'sこえけん特別賞をねらっとったからな。クレームが付いたらこまるねん」


「なるほどなー」

「でも確かに、作者はビビっとるで。僕は悪君をどついてるけど、痛くないように優しく、どついてるやん?」


「まあね。ぶっちゃけ僕も演出で、痛くないけど大げさにリアクションを取ってるけどね」

「そやろ? でも作者はビビって、『暴力描写有り』にセルフレイティングしとんのや」

「なるほどなー」


 そして天君は、語り始めた。

「そう言えばカクヨムWeb小説短編賞2022では結局、G'sこえけん特別賞は取れんかったようやで。はしにもぼうにもからんかったみたいやでー」

「だろうねー。あれって、可愛かわいい女の子が主役ちゃうん? こう言ったら何やけど、僕らが主役じゃあかんやん」

「そうやなー」


 しかし天君は、最新情報を語り出した。

「でも作者は、こりんかったでー。第二回G'sこえけんコンテストがあって、作者はそれに応募したんやー」

「こりんやっちゃなー! で、どうなったん?」

「これが驚いたことに、何と中間選考を通過つうかしたんやー!」

「ホンマか?! やるな、作者!」


 だが天君は、怒りをあらわにした。

「でもそれで作者の奴、調子に乗ってしもうたんや」

「え? どういうこと?」

「ああ。受賞商品にはお金や声優さんの直筆じきひつサイン色紙があるんやけど、何と作者はどっちも欲しいって言うとんねん!」

「そら、あかんわ。作者、調子に乗りすぎやわ」

「そやろー。せやから審査員しんさいんの方々! どうか作者の作品を、落としてください! 作者に世の中のきびしさを、教えてやってください!」

「あかんあかん! そんなに作者をイジッたらあかん! 作者にも、『配慮』してー!」


 しかし悪君は、作者を切った。

「でも作者、ビビりすぎやろー」

「まあな。でもこのご時世じせい、いろいろなことに『配慮』せな、あかんのや」

「なるほどなー」


 天君は、気をなおした。

「さあ、それじゃあ自己紹介も終わったし、マンザイをやろかー」


 しかし悪君は、疑問だった。

「ちょっと待って、天君」

「何や?」

「根本的な問題で申し訳ないんやけど、何で僕ら悪魔と天使がマンザイしてんの?」


 天君は、これも説明した。

「ああ。これも作者の『配慮』や」

「え? どういうこと?」

「ああ、作者は最初、勇者と魔王にマンザイをさせようと思うたんや」

「それが何で、悪魔と天使になったの?」


「ああ。今どき異世界ファンタジーいうたら、勇者と魔王はズブズブの関係やろ? もう正義も悪も無いやろ。せやからもう、勇者と魔王がマンザイしてる作品があるかも知れんやん。そやから作者が『配慮』して、天使と悪魔がマンザイすることになったんや」

「なるほどなー。でも異世界ファンタジーいうたら、チートスキルがお約束やくそくやん。僕らも何か、チートスキル持ってんの?」


 天君の説明は、続いた。

「ああ。僕らはチートスキル『絶対にスベらない』を、持ってるらしいで。そう、タグに書いてるわ」


 悪君は、青ざめた。

「あかん、あかん! そんなにハードル上げたら、あかん! ハードルと物価ぶっかは、低い方がええでえ」


 天君は、悪君の頭を軽くたたいた。

「何、上手うまいこと、言うてんねん。とにかく、マンザイをするぞ! うん? 何、マンザイ中にスマホを見てんねん!」

「うん。今、『メギド7(ピー)』っていうゲームを、やってんねん」


 天君は、少しイラついた。

「だから、固有名詞こゆうめいしを出すな! それに何、マンザイ中にスマホのゲームしとんねん?」


「いやいや、このゲームは、おもろいでえ。人間と悪魔が協力して戦って、世界の終末しゅうまつ『ハルマゲドン』を食い止めるっちゅーゲームなんや!」

「ふーん、何か、面白おもしろそうやん」

「そやろー。実際じっさいこのゲームは、二〇一九年の日本ゲーム大賞で、優秀賞を取ったんや!」

「へー、そうなんやー」


 悪君は、力説りきせつした。

「そうなんです! 今や人間と悪魔が、協力する時代なんです! みなさん、ついてきてくださーい」

「お前、誰に向かってアピールしとんのや?」

「誰って、皆にやん!」

「あ、そうか……」


 悪君の力説は、続いた。

「だいたい人間と悪魔は、すでに協力してるんや! マンガやアニメの世界でもな! 古いモノだと、『デビルマ(ピー)』。新しいモノやと『チェンソーマ(ピー)』。『ワンピー(ピー)』には、『悪魔の実』ちゅうもんが、出てくるしな!」


 天君はマジギレして、悪君の頭を強くなぐった。

「だから、固有名詞を出すな! ピーピー、うるさいねん!」


 悪君は、殴られた頭をなでていた。

いた! 今のは、ほんまに痛かったでー! あー、『暴力描写有り』にセルフレイティングしといて、良かったー!」

「うるさいねん!」


 悪君は、気を取り直して告げた。

「しかし人間と悪魔の協力ゆーたら、デーモン閣下かっかを忘れるわけには、いかんなあ。デーモン閣下は人間の厚生労働省こうせいろうどうしょうに協力して、『かかりつけを、見つけましょう』っていうCMに出たことがあるんや!」


 天君は、聞いてみた。

「あれ? デーモン閣下には(ピー)を入れなくても、いいんか?」


 悪君は、マジギレした。

「どアホ! 天君こそ注意事項を、ちゃんと読め! デーモン閣下は悪魔やでえ! どこに『悪魔に配慮』せえって、書いてんねん?!」

「いやまあ、それはそうやけど……。でもデーモン閣下って結局けっきょくは、にんげ……」

「アホなこと、ぬかすなあ! デーモン閣下が人間なわけ、あるかあ?! 

 人間が十万六十歳まで生きられるわけ、あるかあ!」


「いやまあ、それは、そうなんやけど……。でもそれは、みんな気づいてるやん。気づいてて、生温なまあたたかく見守みまもってるやん。ほら、あの、『こりん星から、いちごの馬車ばしゃできました!』ってってる、あのアイドルも……」


 悪君は天君の口を、両手でふさいだ。

「あかん、それはあかん! 本人ももう、『こりん星は爆発ばくはつしました!』って言うてるから、ゆるしてあげて!」


 天君は、しぶしぶ納得なっとくした。

「ああ、まあ、そうか……」


 すると悪君が、切り出した。

「それにしても『表現ひょうげんの自由』は、どうなるんやろなー?」

「『表現の自由』?」

「そうや。世界には、外部に向かって思想しそう・意見・主張しゅちょう・感情などを表現したり、発表する自由があるんや」

「なるほどなー」


 悪君は、力説した。

「まあ、このご時世、いろいろなモノに『配慮』せな、あかんことは知っとる。そやけど、作者やて男や。本当は女子高生の(ピー)ックスを書きたいはずや!」


 天君は、あせった。

「ちょ、お前。いきなり何、言うとんねん!」

「え? 天君。何、焦ってんの? 女子高生のソックスの話やで。こんのハイソックスも良いけど、ルーズソックスも書きたいなあ、いう話やで?」


 天君は再び、マジギレした。

「ややこしいこと言うな! 焦って作者も、(ピー)を入れてもうたやないか! 更にあわてて、『性描写有り』にセルフレイティングをするところやったでー!」


 悪君は、あやまった。

「そうか。それは悪いことしたなあ……。でも天君、最後に一つ、聞いてもいい?」

「何やねん?」

「『配慮』って、何だろうね?……」

「うっさいわ!」


 そして天君と悪君は、頭を下げた。

「「どうもありがとうございました!」」



                              完結

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