第13話 氷嬢様と体育倉庫

主税「おい、ここを開けてくれ!誰か、気づいてくれ!」


主税は鉄の引き戸をドンドンと力強く叩いた。


鈴女「このまま誰も来なかったら私たち脱水症状に・・・・・・」


主税「ちくしょう!誰が閉めたんだ!?」


主税と鈴女が鉄扉の中、体育倉庫に閉じ込められたのには理由があった。放課後、主税たちリレーに選ばれたメンバーはバトンパスの練習を行う事に。


主税「じゃあ走る順番をどうするかだけど。」


咲「この中で一番足が速いのは鍛冶場くんかな?」


リレーメンバーで黒の短髪でサッカー部所属の「北条丹波「ほうじょうたんば」」が答えた。


丹波「鍛冶場が一番速いぞ。ホント何で運動部に入っていないか不思議なくらいだ。」


男子陸上部の「今川 泰造(いまがわ たいぞう)」も話に入って来た。


泰造「アンカーは鍛冶場でいいだろ。最初走るのは陸上部の俺か富士宮かな。」


丹波「問題は・・・・・・上杉だな。」


丹波の言った上杉とはクラスでもおとなしい文学少女の「上杉 小雪「うえすぎ こゆき」」のことである。眼鏡をかけたグレーの三つ編みの少女で運悪くリレー選手に選ばれてしまったのだ。


小雪「・・・・・・。」


小雪は日陰に籠って話を聞いていた。


咲「なら、最初は今川くん。2走者は北条くん。3走者目が私。4走者目が上杉さん。アンカーが鍛冶場くんでどうかな?」


丹波「いいんじゃないか?」


泰造「よし、じゃあ早速練習しようぜ。」


こうして5人のバトンリレーの練習が始まった。泰造と丹波は少しの練習で何とか出来たものの、咲の速いペースに小雪がついて行けずバトンを何度も落とした。


小雪「ハアハア・・・・・・」


咲「ハアハア・・・・・・もう一回やろう!」


主税「(富士宮さんと上杉さんのスピードが違いすぎる・・・・・・)」


結局、うまくできないまま練習時間が終わってしまった。主税は給水所で水を飲んでいた。


主税「うまっ、水飲んだら生き返ったな。」


主税が水を飲み終わりタオルで汗を拭っていると目先にある体育倉庫が少し空いていることに気づいた。主税が確認してみると体育倉庫の中で鈴女が探し物をしていた。


主税「鈴女さん?」


鈴女は主税の声を聞いて振り返った。


鈴女「主税さん。」


主税「お前こんなところで何してるんだ?」


鈴女「先生に頼まれてラインマーカーを取りに来たのです。しかし、どこにあるのか分からなくて。」


主税「確か奥にあったよな。」


鈴女「詳しいですね。」


主税「体育委員で倉庫の中にあるものを教えてもらったからな。」


鈴女「なるほど。」


主税「あった、これだ。」


主税は奥から青色のラインマーカーグラウンドを見つけた。


鈴女「ありがとうございます。」


主税「それにしてもここ暑いな。早く出ようぜ。」


鈴女「そうですn・・・・・・」


倉庫から出ようとしたその時、ガチャリとドアが閉まった音が聞こえた。


主税「ガチャ?」


主税はドアに向かい扉を開けようとしたが扉は固く閉ざされて開かない。


主税「あれ・・・・・・開かない・・・・・・」


鈴女「もしかして閉じ込められました?」


主税「ぐっ・・・・・・最悪だ。スマホは教室の中だし窓は柵があるから出ることもできない。このままだと・・・・・・おい、ここを開けてくれ!誰か、気づいてくれ!」


主税は鉄の引き戸をドンドンと力強く叩いた。


鈴女「このまま誰も来なかったら私たち脱水症状に・・・・・・」


主税「ちくしょう!誰が閉めたんだ!?」


鈴女はマット端に腰かけた。


鈴女「ここは影になっています。直射日光を避けて助けが来るのを待ちましょう。」


主税「体力を消耗しないためか・・・・・・」


主税は日陰のマットにあぐらをかいて座った。


主税「タイムリミットは長くて20分、それ以上は・・・・・・熱中症になるぞ。」


主税はポケットから塩分補給のタブレットを一粒鈴女に渡した。


鈴女「これは?」


主税「熱中症対策に富士宮さんに貰ったんだ。俺は水分補給したからこれは鈴女さんが食べてくれ。」


鈴女「ありがとうございます。」


鈴女はタブレットを受け取ると包み紙を破りタブレットを口に放り込んだ。


鈴女「・・・・・・しょっぱいです。」


主税「まあ塩分だしな・・・・・・」


それから10分が経った。


主税「・・・・・・あっちぃ。汗止まんねえな。」


鈴女は無表情だが顔から汗が噴き出ている。


主税「そうだ、鈴女さんは何の競技に出るんだっけ?俺、男子のを方決めてたから女子のは全然わからなくて。」


鈴女「球転がしと障害物競走です。」


主税「障害物か・・・・・・毎回どんな仕掛けがあるか当日まで分からないからな。」


鈴女「私にとっては好都合です。徒競走に比べたら1位になれる可能性は高くなるので。」


主税「そんなもんか。そういえば鈴女さんて体育の成績はどうなんだ?」


鈴女「5段階中の3です。」


主税「普通ってことね。」


鈴女「それで、一つ主税さんに聞きたいことがあるのですが。」


主税「なんだ?」


鈴女「風祭さんから話を聞いたのですが、中学の時バスケットボール部に入っていたのですよね。全国大会に行くほどだと聞きました。」


主税「アイツ、おしゃべりだな。」


鈴女「高校ではバスケットボールはしないのですか?」


主税「・・・・・・しないな。中学でやりたいことを全部やったんだ。」


主税はそう否定したが、どこか寂しげが表情をしていた。あれから20分経ったが扉が開く気配もない。そして二人の意識も薄れ始めた。


主税「ダメだ・・・・・・もう助けを呼ぶ気力も残ってない・・・・・・」


主税は体の熱を逃がすため上の体操服を脱いだ。鈴女はマットに横になっていた。


鈴女「(・・・・・・暑い。体操服が身体に張り付いて気持ち悪い・・・・・・)」


鈴女はゆっくり身体を起こした。そして主税にこう頼んだ。


鈴女「主税さん。お願いがあるのですが。」


主税「なんだ?」


鈴女「後ろ向いてもらえませんか?」


主税「ああ別にいいけど・・・・・・」


主税は鈴女に背中を向けた。鈴女が主税が背を向けていることを確認すると、服に手をかけ脱ぎ始めた。布の擦れる音が聞こえ、脱いでいることが分かった主税は動揺しつつも・・・・・・


主税「(何考えてんだ、生死にかかわる問題だからしょうがないことだけどでも・・・・・・想像してしまう。)」


主税は煩悩を振り払うように頭をブルブル振るった。お互い背を向けたままさらに10分が経ち、閉じ込められてトータルで30分が経った。その時、後ろからドサッと倒れる音が聞こえた。


主税「(もしかして、鈴女さん倒れたのか?でも今振り返ったら下着姿を・・・・・・いや、命が優先!ゴメン鈴女さん!)」


主税が振り返るも主税も意識が遠のき、その場で倒れてしまった。それからの記憶はない・・・・・・


鈴女「・・・・・・あれ?ここは・・・・・・」


鈴女はベッドに横になっており、ゆっくりと体を起こした。上半身には白のTシャツを着ていた。


?「氷堂さん気が付いたのね。」


白衣に身を包んだおばちゃん、保健室の「那須鷹子(なす たかこ)」先生に話しかけられた。


鈴女「ここって保健室ですか?」


那須先生「先生がラインマーカーを取りに行ったっきり帰ってこないって倉庫を探したらあなたと鍛冶場くんが倉庫内で倒れていたのよ。」


鈴女「あの、主税さんは?」


那須先生「鍛冶場くんなら隣のベッドで寝てるわよ。大丈夫、彼も熱中症で倒れたけど命に別状はないから。」


鈴女「よかったです。」


鈴女は胸をなでおろした。


那須先生「今日は遅いし、私が車で送るわ。」


鈴女「何時なのですか?」


那須先生「夜の7時半よ。」


鈴女「7時半ですか!?」


那須先生「鍛冶場くんの様子を見てみようかね。」


那須先生が隣のカーテンを開けるとベッドで主税がスヤスヤと眠っていた。


主税「ん・・・・・・ここどこ?」


主税は目を覚まし周りを見回した。


鈴女「主税さん・・・・・・」


主税「あ、鈴女さ・・・・・・」


鈴女さんは悲しげな表情に目が少し潤んでいた。


主税「鈴女さん。もしかして心配してくれたのか?」


鈴女「そんなことはございません。」


主税「日本語変だぞ。」


鈴女「今、夜7時半らしいので先生が家まで送ってくれるそうです。」


主税「ちょっと待て、さすがに同じマンションだってことバレるだろ。」


那須先生「あら、担任の先生に教えてもらったわよ。」


主税「な、那須先生!」


那須先生「大丈夫よ、他の人には言わないわ。プライバシーの問題でもあるからね。」


こうして主税と鈴女は那須先生に車で家まで送ってもらったのだった。

次の日、教室に入ると駿介に話しかけられた。


駿介「主税、お前大丈夫だったのか?先生から聞いたけど倉庫内で熱中症になったって。」


主税「あぁ、スポドリ飲んで休んだらもう大丈夫だよ。」


駿介「ならいいけど、この時期暑いからな。俺たちも気を付けないと。」


引き戸が開き、鈴女が教室に入って来た。


女子生徒A「氷堂さんおはよう。」


鈴女「おはようございます。」


女子生徒B「昨日、体育倉庫に閉じ込められたらしいけど大丈夫だった?」


鈴女「はい。心配していただきありがとうございます。」


女子生徒C「でも閉めた人もちゃんと中を確認して閉めてほしいよね。」


その話を聞いていた駿介は。


駿介「氷堂さんも閉じ込められたってことは・・・・・・」


駿介はジッと主税を見つめた。


主税「・・・・・・そうだよ。鈴女さんと共に閉じ込められたんだよ。」


駿介「なんだよ!体育倉庫に閉じ込められたってことは漫画ではよくあるお色気シーンだろうが!お前、なんかやましいことでもしたのか!?」


主税「バカ!するわけねえだろ!そんなことしたら今後の隣人生活が気まずくなるだろうが!」


駿介「まあそうだよな。主税はそんな度胸ねえか。」


主税「そういわれるのもムカつくけど・・・・・・まあそうだよ。」


そんな話を終えた後、主税のもとに上杉小雪が来た。


小雪「あの・・・・・・鍛冶場くん。」


主税「上杉さん。どうした?」


小雪「あの・・・・・・私・・・・・・」


小雪は何かを言いたそうにしているがもじもじしてなかなか言い出せない。その直後、チャイムが鳴った。


小雪「あの・・・・・・昼休み。一階の空き教室に来てください。」


そう言い残し小雪は自分の席に戻った。


4限目が終わり、言われた通り一階の空き教室に向かった主税。教室のドアの前には鈴女が教室に入ろうとしていた。


主税「鈴女さん?」


主税の声に鈴女は振り返る。


鈴女「主税さんも呼ばれたのですか?」


主税「ってことは上杉さんに呼ばれたのか?」


鈴女は静かに頷いた。主税は引き戸を引いて教室に入ると教室内に小雪がいた。


小雪「あ、二人とも来てくれたんですね。」


主税「当たり前だろ。それで、俺と氷堂さんを呼んでどうしたんだ?」


小雪「それは・・・・・・」


小雪は二人に頭を下げた。


小雪「ごめんなさい!」


突然頭を下げられて謝られたので二人は困惑していた。


主税「どうした急に!?なんか謝られることしたっけ?」


小雪「体育倉庫の鍵を中に人がいるのを確認しなくて閉めちゃったんです。先生に鍵を閉めるよう頼まれてそれで・・・・・・」


主税「そうか、あれ上杉さんがやったのか・・・・・・」


小雪「今日の朝、二人が倉庫内で熱中症になったって聞いて私とんでもないことをしたんだと・・・・・・」


主税「まあたしかに死ぬかと思ったけど、俺も氷堂さんもこの通り無事なんだからさ。気にすんなって。」


小雪「それと、鍛冶場くんに一つお願いがあるんだけど・・・・・・」


主税「お願い?」


小雪「私に、速く走れるコツを教えてほしいの!」


主税に小雪のランナーコーチをしてくれとのお願いだった。まさかのお願いに主税の返答は・・・・・・次回に続く。


第13話「完」











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