第11話 氷嬢様とお父様

前回のあらすじ、主税と鈴女は倫と朱莉の4人で海へ遊びに行った。楽しい思い出になったのだが、帰って来た時に鈴女のドアの前に謎の男性が立っていた。その男性を鈴女はお父様と呼んだ。


鈴女「お父様・・・・・・」


その声に反応して男性は2人に向かって歩き出した。主税が身構えていたが・・・・・・


謎の男性「鈴女~どこ行ってたんだ~!!」


と鈴女に抱き着いた。主税はてっきり鈴女に手をあげるのかと思い拍子抜けした。


謎の男性「スンスン・・・・・・なんか塩臭いが。」


鈴女「えぇ、海に行っていましたので。」


謎の男性「海!?」


謎の男性は隣にいる主税を睨み付けた。


謎の男性「ところで、そちらの君は鈴女のなんだい?」


主税は鋭い眼力にひるみながらも自己紹介をした。


主税「俺、鍛冶場主税と言います。す・・・・・・鈴女さんの同じ学校で同じマンションの隣に住んでいます。」


謎の男性「本当に?」


主税「鈴女さんの左隣のドアです。」


男性は確認した。


謎の男性「確かに・・・・・・でもそんな話鈴女からは聞いていないぞ。まさか鈴女のストーカーとか・・・・・・」


鈴女「お父様、鍛冶場さんはそんな人ではありません。」


零司「うむ・・・・・・鈴女がそう言うなら。あ、自己紹介がまだでしたね。鈴女の父の氷堂 零司「ひょうどう れいじ」と申します。」


鈴女の父、零司は胸ポケットから名刺を取り出し、主税に渡した。


主税「(げっ!「氷堂グループ」って俺でも知ってる大手企業だ。氷堂さんてホントにお嬢様だったんだな。)」


鈴女「お父様。どうしてこちらにいらしたのですか?」


零司「仕事で近くにいたから足をのばして可愛い娘の様子を見に来たんだ。」


主税「(不思議だな・・・・・・氷堂さんは嬉しくなさそう。)」


鈴女「鍛冶場さん、少しよろしいでしょうか。」


主税「何だ?」


鈴女は主税に耳打ちをした。


鈴女「今、家散らかっているのでお父様を家に入れたくないのです。」


主税「・・・・・・なるほどな。だったら一度俺の部屋に入れてその間に・・・・・・」


主税は零司を鈴女の家に入れないよう、こう提案をした。


主税「あの・・・・・・今、鈴女さんの部屋入れる状態ではないみたいなのでとりあえず俺の部屋に入りませんか?」


零司「え、なぜ見ず知らずの人の部屋に入らなければならないんだ?」


主税「確かに・・・・・・そうですよね。」


鈴女「お父様、家に洗濯ものを置きっぱなしで・・・・・・さすがに女子の下着を父親に見られるのが恥ずかしくて・・・・・・」


零司「そうか、なら仕方ないな。」


主税「(いいんかい!?)」


主税の部屋に上がった鈴女と零司はダイニングテーブルの椅子に座っていた。


主税「コーヒーよければどうぞ。」


零司「ありがとう。」


零司はティーカップを持ち上げてコーヒーの香りをかいだ。


零司「この香り・・・・・・キリマンジャロだね。」


主税「分かりますか!」


零司「この芳醇な香り・・・・・・最高級ではないけど入れ方がうまいんだな。」


主税「父がコーヒー好きでいろいろな種類のコーヒー豆を持っているんです。」


零司「味も・・・・・・うまい。長年作らないとこの味にはたどり着かないよ。」


零司に褒められ口元が緩んでいた。


鈴女「私、部屋片付けに行くので父をよろしくお願いします。」


鈴女は主税の部屋を出て行った。


零司「・・・・・・出て行ったか。えっと・・・・・・鍛冶場くんだっけ。ちょっと座ってくれないかな。」


零司は真剣な表情をしていた。主税は言われた通り席に座った。


零司「鈴女・・・・・・教室では笑っているかい?」


主税「・・・・・・笑ってないですね。学校で氷の嬢王様と言われてるくらいには。」


零司「そうか・・・・・・」


主税「昔からそうだったんすか?」


零司「いや・・・・・・」


主税「何かあったんすか?」


零司「実はね・・・・・・鈴女が笑わなくなった原因は私の教育のせいなんだ。」


主税「教育・・・・・・」


零司「私は、会社の後継者として先祖代々厳しい教育をされてきたんだ。だから一番上の鈴女を後継者にするために勉強やマナー、帝王学などを叩きこんだんだ。初めは鈴女も嫌がっていたが無理強いして小学1年から5年間このような生活をさせていたんだ。」


主税「そんなことを・・・・・・」


零司「ひどい父親だろう。でもその時は何も思わなかった。私も同じことを親にやらされていたからな。でも、鈴女は私とは違った。それは鈴女が小学5年生のことだった。学校から連絡があってだな。飛び降り自殺を図ろうとしたんだ。」


主税「自殺!?」


零司「先生が言うには学校でも一人で相談できる相手もいない。鈴女の身も心もボロボロになっていたことを初めて知ったんだ。」


零司の右手が小刻みに震えていた。


零司「そのことは今でも鮮明に覚えているよ。私は娘にとんでもないことをしたのだと・・・・・・あの子の事を何も考えてられていないと。その日から私は鈴女にすべてを辞めさせた。学校も転校して東京から山梨の小さな学校に通わせたんだ。でも5年の刻まれた傷は簡単には消えない。親の言いなりにただ従った私とは違う。アイツは単なる操り人形ではなく一人の女の子なんだ。そのことを知らず私は・・・・・・」


主税「・・・・・・確かに零司さんのやったことは取り返しのつかないことかもしれないっすけど。鈴女さんは少しずつ変わっていると思うっすよ。」


零司「変わっているって、何を根拠に・・・・・・」


主税「鈴女さんと2年生で初めて同じクラスになったんすけど、クラスメイトから最近、鈴女さんの表情が豊かになったって話をよく聞くんすよ。俺も、一度だけですが微笑んだ表情を見たことがあります。だから、心配しないでください。鈴女さんは一歩ずつ前進してるっすよ。」


零司「そうか・・・・・・よかった。鈴女が楽しそうで本当によかったよ。」


零司の表情が緩やかになり、目には涙を滲ませていた。安堵の表情を浮かべていたのだ。その時、玄関のドアが開き鈴女が入ってきた。


鈴女「あの・・・・・・どういう状況ですかこれは。」


主税「あ、鈴女さん。」


零司は振り返り、鈴女のもとに寄った。


鈴女「お、お父様?」


零司「話は鍛冶場くんから聞いたよ。鈴女が学校楽しんでいるって。」


鈴女「はい、毎日充実しています。」


鈴女はいつもの無表情だが声色は明るかった。


零司「そうか・・・・・・お前にはいろいろ辛い思いをさせてしまった。だから、今はどうなのかを聞くのが怖くなった自分もいたんだ。本当にゴメン。」


零司は鈴女に頭を下げた。その姿に鈴女は珍しく慌てていた。


鈴女「頭を上げてください。それに、お父様には感謝しているんです。私のことを気遣って本当にありがとうございます。」


鈴女は優しい微笑みを零司の前に出した。


零司「・・・・・・今日、ここに来てよかった。」


その時主税は2人の邪魔をしないようと廊下に隠れていた。その後、零司は部屋を出ることに。


主税「いいのですか?もう出て行って。」


零司「あぁ、鈴女の元気な姿を見れただけで来たかいがあったから。」


零司は鈴女の頭を優しくなでた。


鈴女「お父様。」


零司「今日はありがとう。学校頑張ってな。」


鈴女「はい、お父様もお仕事頑張ってください。」


零司「それと、鍛冶場くん。」


主税「はい?」


零司「娘を、鈴女のことよろしく頼むよ。」


そう言うとエレベーターに向かって歩き去っていった。


鈴女「鍛冶場さん。父と何を話していたのですか?」


主税「えっと・・・・・・」


主税は鈴女の昔話を聞いたなんて言えなかった。


鈴女「私のことは気にしないでください。昔の話をしていたのですね。」


主税「・・・・・・やっぱわかるか。悪い。」


鈴女「いいのです。父がそのことで苦しい思いをしていたのは感じていたので。」


主税「鈴女さん。自殺未遂をしたって聞いたけど・・・・・・」


鈴女「実はその時の記憶がないのです。」


主税「記憶がない?」


鈴女「私も気が付いたら教室の窓の淵に立っていて担任の先生に止められていたのを覚えています。でも、考えたらその時から世界が灰色に見えて何をしても楽しくなくて、体が死ぬ方に無意識に動いていたんだと思います。」


主税「鈴女さん・・・・・・」


鈴女「でも、もう大丈夫です。今はすごく楽しいですし、相談に乗ってくれる友達もいます。それに、頼れる隣人もいますしね。」


と、チラッと主税を見つめた。


主税「そ、そりゃあどうも・・・・・・」


鈴女「それと、一つ気になっていたのですが。下の名前で・・・・・・」


主税「やべっ、零司さんと喋っていた時と同じ感じで・・・・・・イヤだったか?」


鈴女「いえ、そのまま下で呼んでいただいて大丈夫です。」


主税「じゃあさ、俺のことも主税って呼んでもいいんだぜ・・・・・・」


鈴女「え?」


主税「やっぱ今のなし!」


鈴女「・・・・・・主税さん。」


主税「!!」


鈴女に初めて名前で呼ばれて主税の耳が真っ赤になっていた。


主税「(今更ながら馬鹿だオレ~~~!!)」


第11話(完)














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