第10話 氷嬢様と海水浴

鈴女「明日、海に行かないかと誘われました。」


8月上旬、晩御飯の冷やし中華を食べながらいっしょに食事をしている主税に伝えた。


主税「いいじゃねえか、行ってこいよ。」


と、そっけなく返すと


鈴女「いえ、実は鍛冶場さんも誘えと言われまして。」


主税「は!?何で俺も行かなきゃなんねえんだよ!」


鈴女「朱莉さんや倫さんにそう言われまして。」


主税「だからって、アイツら俺が男だってこと忘れてんだろ。」


鈴女「忘れてはいないと思います。男手が必要だと言っていたので。」


主税「いいよ。どうせ荷物持ちとか任させんだろ。」


鈴女「それもあると思いますが、倫さんが言うにはボディーガードが必要とのことでした。」


主税はその理由を聞いて納得した。


主税「水着とか準備できてるのか?」


鈴女は真顔でこう答えた。


鈴女「学校の水着ではだめでしょうか?」


主税は目が点になっていた。我に返った主税はスマホを取り出し、ある人物に連絡した。


主税「倫か、俺だ。海行くまでに氷堂さんの水着買うの付き合ってくれ!スク水で行こうとしてんだよ。分かったか!」


主税は電話を切った。


主税「明日、倫と水着買いに行ってくれ。」


鈴女「なぜでしょうか。」


主税「何でも!逆に海でスク水は悪目立ちするから。」


こうして鈴女を説得し、買い物に行くことになった。そして海水浴当日・・・・・・


倫「ごめん、遅くなった。」


朱莉「遅ーい。」


倫は周りを見回した。


倫「二人はまだ来てないよね。」


朱莉「うん。」


倫「だろうと思った。主税は遅刻の常習犯だから。」


朱莉「え、そうなの。」


その時、駅前に一台のタクシーが止まった。そこに降りてきたのはカバンを持った鈴女だった。


鈴女「お二人とも遅れてしまい申し訳ございませんでした。」


倫「鈴女ちゃんおはよう。」


朱莉「よかった。来ないかと思ったわ。」


タクシーから降りてきた主税は頭を下ろした。


主税「申し訳ない・・・・・・俺が寝坊して遅れた。」


倫「うん、だと思ったわ。」


甲府駅から熱海の海水浴場まで電車で移動した。その間女子3人のガールズトークで盛り上がっていた。ほとんど倫と朱莉が話す方で鈴女は聞く方だった。鈴女のとなりに座っていた主税はぐーぐーいびきをかいて眠っていた。

海水浴場に着いた主税たちは更衣室で別れ、着替えた人からビーチに集まることになった。

最初にビーチについたのは黒の海パン姿の主税だった。


主税「やっぱ俺が最初か……さて、シートとか準備すっか。」


主税は慣れた手つきでシートとパラソルを広げていた。その時、後ろから倫の声が聞こえた。


倫「お、さっすが主税。準備が早いな〜」


主税が振り返ると、黄緑色のフリル付きのビキニを着た倫の姿が。


主税「お前、そんな水着持ってたか?」


倫「これは、鈴女ちゃんと買いに行った時に一緒に買ったのよ。」


主税「お前がビキニなんて、随分気合い入っているじゃねえか。もしかしてナンパされるのを待っているのか?」


倫「な!?そんなわけないでしょ。」


主税「大丈夫、貧乳のお前じゃナンパ男も寄ってこないって。」


倫は持っているスイカのビーチボールを主税に投げつけた。


倫「主税、お前はここで殺す!」


主税は倫が投げたビーチボールをキャッチした。


主税「やべ……地雷踏みにじった……」


朱莉「今のは鍛冶場くんが悪いわよ。デリカシー無い男は嫌われるわよ。」


後ろから朱莉の声が聞こえ、振り返るとピンクレースのワンピース姿の朱莉と、水色のパーカーを着た鈴女の姿がいた。


主税「氷堂さん。なんでパーカー?」


鈴女「水着は、中に着ています。」


主税「いや、泳ぐときどうすんだよ。」


鈴女「このままで入ります。」


倫「せっかく買ったのにもったいないわよ。ほら、早く脱いで。」


倫が鈴女のパーカーに手をかけようとした。


鈴女「ダ、ダメです!」


鈴女は倫の手を掃った。


鈴女「その・・・・・・鍛冶場さんに見られると恥ずかしいので。」


倫「ふ~ん。」


倫は不敵な笑みを浮かべた。


倫「今だ!」


朱莉「隙あり!」


朱莉が鈴女のお腹を両手でホールドした。


鈴女「え、朱莉さん!?」


朱莉「倫ちゃん早く!」


倫「早く脱ぎなさーい!」


倫がファスナーに手をかけ、下に思い切り下ろし、パーカーを脱がした。そこから出てきたのは白ビキニの水着だった。鈴女は恥ずかしさのあまり胸を隠しながらその場にしゃがみこんだ。


主税「おい、大丈夫か。」


鈴女「み・・・・・・見ないでください。」


主税「悪い、でも・・・・・・すげえ似合ってんぞ。」


鈴女「え?」


主税「その、なんていうか分からないけどさ。でも似合っているのは本当だ。」


鈴女「そう・・・・・・ですか。」


鈴女はゆっくりと立ち上がった。


鈴女「ありがとうございます。」


主税「!?」


鈴女は優しく微笑んだ。しかし、その絶好のタイミングを主税の視線は鈴女の胸にいっていた。

準備運動を終えた後、鈴女と倫と朱莉は海に入り、水をかけあって遊んでいた。鈴女は慣れない手つきで少量の水をかけていた。そんなキャッキャウフフな様子を見ていた主税はパラソルの下のシートの上に足をくずして座っていた。


主税「しかしみんな楽しそうだな・・・・・・。まさか夏休みに女の子と海に行けるなんて思わなかったよな。」


主税が監視役として3人の安全を確認していた。そしてもう一つの役割は・・・・・・


男A「おい、あそこにいる3人可愛くね?」


男子B「俺、あの白ビキニの子狙ってみよっかな。」


男子C「じゃあ俺、あのワンピの子。」


男子A「なら俺はあの黄緑の・・・・・・」


男子3人は後ろにいる主税の鋭い視線に気づき・・・・・・


男子A「やっぱ別の子にすっか・・・・・・」


男子3人はその場を去った。主税のもう一つの仕事はナンパ避けである。主税は周りのチャラ男を追い返すために睨み付けている。そのおかげもあって鈴女たちがナンパに遭うことはなかった。

正午になりお昼ご飯を食べることに。お昼はバーベキューである。作るのはもちろん主税。そして、朱莉も手伝うことに。


主税「悪いな、調理するのに付き合ってくれて。」


朱莉「いいって、この前の料理のお礼と思って。」


朱莉も料理ができるらしく、トングを使って肉をひっくり返している。


主税「にしても山吹。もう猫被るのやめたのか?」


朱莉「もうやめたわ。自分を偽るのも結構疲れるのよ。むしろ本音でしゃべれる今この時が楽しいからさ。」


主税「確かに、今の山吹の方が喋りやすいな。」


朱莉「ゴメンね、最初に会った時鍛冶場くんに強く当たっちゃって。」


主税「もう忘れたよ。俺、バカだから。」


朱莉「確かに。」


主税「おい、そこは違うだろってツッコむところだろ!」


朱莉「アハハ!」


と調理組は楽しそうにしてるなか、鈴女と倫はラムネを買って席に戻ってきた。


倫「やっほ~買ってきたわよ。」


鈴女「お待たせいたしました。」


主税「サンキュ。てかよく瓶ラムネなんて売ってたよな。」


倫「今時珍しいよね。それと、鈴女ちゃん。ラムネ飲んだことないらしいのよ。」


朱莉「そうなの!? でも、中身はサイダーと同じなのよね。」


主税「マジで!?」


倫「知らなかった・・・・・・」


そんなラムネの雑学を知りつつ、紙皿に料理をよそって近くのテーブルで食べることに。


主税・鈴女・倫・朱莉「いただきます。」


4人は箸で肉をつかみ口に運んだ。


主税「うんめ!」


倫「うん、いつものフライパンで焼くより香ばしくて美味しい!」


朱莉「うん、これぞバーベキューならではの楽しみね。」


一方、鈴女は黙々と肉を食べていた。


朱莉「あれ、鈴女ちゃん・・・・・・もしかして美味しくなかった?」


主税「大丈夫、あれは美味しいってことだから。」


倫「本当に美味しいものは喋るのを忘れてしまうということだね。」


主税はラムネのフタを開けた。ポンッという音が響いた。


倫「ねえ主税。開けてくれない?」


主税「はあ?そんぐらい自分でやれよ。」


倫「ブ~ケチ~」


鈴女はフタのところを回して開けようとした。


主税「氷堂さん!?ビー玉をピンで押して開けんだぞ!」


主税は鈴女にラムネの開け方を教えた。ポンッといい音が聞こえた。鈴女は開いたラムネを口に運んだ。


鈴女「・・・・・・!」


鈴女は初めて味わったラムネの味をしっかりと噛みしめていた。

主税は鉄板であるものを作っていた。


主税「まだ入るか?今から焼きそば作るけど。」


倫「食べる~!」


朱莉「私も!」


主税「氷堂さんは?」


鈴女「はい、いただきます。」


主税は笑顔を見せた。


主税「よっしゃ!準備すっべ!」


主税の作った焼きそばは3人から高評価をいただいたとのことだった。

昼食を終え、後片付けを終えた後。主税はバーベキューセットを施設に返していた。


主税「よし、片づけ終わり!後は夕方まで俺も遊ぶか・・・・・・」


主税が背伸びをしていると遠くに鈴女が男二人に話しかけられているところを見つけた。


主税「あいつ、すぐ男が寄って来るよな。さすがは氷嬢様・・・・・・。」


主税は鈴女のもとに急いで向かった。一方その頃鈴女は男子二人に話しかけられてどう対処していいか分からず黙り込んでいた。


鈴女「(どうしましょう・・・・・・)」


男子D「さっきから黙り込まないで俺たちと遊ぼうぜ。」


男子E「ねえねえ何か話してよ。」


鈴女「・・・・・・。」


鈴女は悲しげな表情をしていた。しかし・・・・・・とある男が鈴女の手をつかんだ。


主税「すいません、こいつ俺の連れなんで。」


男子D・E「!?」


主税「いくぞ、鈴女。」


鈴女「え・・・・・・」


主税は鈴女を手を引っ張ってその場を去った。


男子D「んだよ彼氏持ちかよ・・・・・・」


男子E「いいな~俺もあんなカワイイ彼女欲しいわ~」


主税は鈴女の手を引っ張って主税の立てたパラソルの所まで戻ってきた。


主税「ハアハア・・・・・・わりぃ、無理矢理引っ張っちまって!」


鈴女「いえ、助かりました。ありがとうございます。」


鈴女は主税に握られた左手をジッと見た。


鈴女「あの・・・・・・今名前で。」


主税「いやだったか!?苗字だと親しくないみたいに思われるかと思って。」


鈴女「いえ・・・・・・男性に名前を言われるのはお父様以外初めてで慣れていなくて・・・・・・」


鈴女は主税から顔を逸らした。人生初の赤面顔だった。

夕方になり、4人は帰りの電車に乗っていた。


倫「楽しかった~!」


朱莉「でも、日焼け跡。お風呂に入ってしみるやつだよね。」


主税「氷堂さんはどうだ?楽しかったか?」


鈴女「はい、とても楽しかったです。また一緒に行ってみたいです。」


倫「主税、鈴女ちゃんのおっぱい見てたでしょ。」


主税「バッ!なわけねえだろ!てか本人いる前で出すワードじゃねえだろ!」


倫「ほんと男っておっぱい星人よね。」


主税「それは・・・・・・否定できねえけど・・・・・・」


鈴女「そ、そうなのですね・・・・・・」


主税「いや、違うって!ああもうどうすりゃいいんだよ!」


こうして女子3人との海水浴は終わった。甲府駅に着き、主税と鈴女は一緒に帰ることに。


主税「どうすっか、晩飯食ってないし今日は出前でも取るか?」


鈴女「そうですね。鍛冶場さんも疲れていると思いますし。」


主税たちは今日のご飯の話をしながらマンションに入っていった。2人の部屋の階に着くと鈴女の部屋の前にスーツ姿の男性が立っていた。


主税「誰だ?こんな夜遅くに。」


鈴女「・・・・・・。」


鈴女は思わず固まっていた。


鈴女「・・・・・・お父様。」


第10話(完)


















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