第4話 セリフの棒読み、でも・・・。

 チラシもインストグラムも出来て宣伝を開始した。羽賀さんが主導でテキパキ進め てくれたので何の問題もなく宣伝をスタート出来た。

「・・・。」

 しかし問題がなくもなかった。

「あの、羽賀さん・・・。」

「何?」

「これやっぱり削除した方がいいと思うんですけど。」

「なんで?」

「僕が正座して部活のアピールを大声で喋ってるって効果あるんですか?」

「・・・分かんない。」

「え?」

「でも私が映るより創一が一生懸命アピールした方が誠実に見えるじゃん。」

「そうですか?」

「私でもいいけど演劇に興味ある奴がビビッて入ってこないかもしれないんじゃん。」

「・・・。」

「まぁ、でもそこら辺の訳の分かんないパリピな男子が入ってきてもいいんなら私がやってもいいけど。」

「いや・・・僕でいいです。」

「でしょ!」

 羽賀さんが自分の評価を正確に捉えていた事は驚きだった。

「あとは待てって感じ?」

「はい・・・。」

「じゃあ、部活しよう。なにやろっか?」

 嬉しそうな顔をする。

「それじゃあ、せっかくだから“ロミオとジュリエット”のワンシーンやってみますか?」

「やる!!どこやる!?」

 目を見開き顔を近づけてくる。近い・・・。

「えっと、それじゃあ・・・」

「あ!!私あそこやりたい!」

 びっと手を挙げる。

「はい、どうぞ。」

「ジュリエットが話すやつ。ああロミオ、どうしてあなたはロミオなの?ってやつ。」

「・・・。」

 少し戸惑った。全然やるのは構わないがこの場面はちょっと一人で話すのが長い。羽賀さんには耐えられないかもしれない。

「何?」

「いや、構わないけど。」

「どうすればいいの?」

「え?」

「どう読めばいいの?わかんない。」

「でも今やりたいって。」

「うん。やりたい。でもやり方は分かんない。」

「・・・。」

「とりあえず読めばいいの?」

「まぁ、そうだね。読んでみましょうか?」

 羽賀さんは咳ばらいを一つして、息を吸い込む。緊張の空気が流れる。

「ああ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの・・・?」

「・・・。」

 ほぼ棒読みでセリフを読んでいる。まさに“読んでいる”と言った感じだ。

「・・・。」

 ただ、不思議な感じがする。

クラスの時の羽賀さんとはまるで違う人のようだった。色んな人から声をかけられる人気者なのに、いっつも友達とクラスではしゃいでいるのに、今、目の前にいる羽賀さんは真っ直ぐ立ち、とつとつとながら懸命に読んでいる。

思わず見とれてしまった・・・。

可愛い、という表現があっているのかは分からない。

でもこの姿は僕しか知らないのだ。

ずっとこの時間が過ぎればいいと思ってしまう。

「ねぇ、どうだった?」

「・・・。」

「ねぇ!」

「あ、ごめんなさい。聞いてました。」

「どうだった?」

「えっと・・・始めはあんな感じでいいと思うよ。」

「なにそれ?全然ダメって事?」

「いや、そうじゃなくて・・・なんていうか、その、意外だなって。」

「・・・何が?」

「凄く綺麗な姿勢で読むんだなって。」

「何それ~、バカにしてるでしょ!」

「いや、そんな事ないって。」

「創一が教えてくれた発声の姿勢でやったんだぞ!!」

 そう言って羽賀さんは僕にヘッドロックをかけて来た。

「ごめんさい、ごめんなさい!」

「いや、ダメだね。しばらく痛がれ!」

 どんどん羽賀さんの力が強くなっていく。

「・・・。」

 ただ正直苦しくはない。反対に羽賀さんから発せられる良い香りが鼻に入ってくる。

「上手でしたって言え!」

「いや、それはちょっと・・・。」

「なに~、生意気!」

 ロックしている腕を大きく揺さぶる。

 羽賀さんは笑っている。

 僕も恥ずかしがりながら笑っている。

「・・・。」

 今、この習慣がとても幸せに感じられた。

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