第3話 ギャルと一緒に部員を増やす
学校でも相当目立つギャル。
それが「羽賀りおん」だ。
シャツの第二ボタンを開け、スカートはとても短い。髪は長くて茶色い。メイクも常にばっちり。いつも校舎を我が物顔で歩いている。
「りお~ん。」
「りおんちゃ~ん。」
「りおっち~。」
廊下を歩けば色んなクラスの人間が声をかけてくる。しかも全員カースト上位っぽい人間ばかりだ。
僕のような地味な学生は一生関わらないだろうと思われる種類の人間だと思っていた。
「でさ~。」
「まじで!」
「ありえなくない?!」
羽賀さんはクラスの同じようなギャル友達と話しをしている。教室にいる時は僕に話しかけてはこなかった。。
「・・・。」
やっぱり住む世界が違う・・・。
もしかしたらもう部活には来ないかもしれない。そんな不安にかられた。
これは陰キャの習性なのか、直ぐに物事を期待しない方向に考えてしまう。
「・・・。」
しかしこっちの心配をよそに羽賀さんは部活に来た。
「おつ~。」
「あ・・・。」
「あって何だよ。お疲れ~とか、おつ~とか、なんか返せよ。」
「お、お疲れ様です。」
「まぁ、最初はそれでよしとしよう。」
羽賀さんはニヤっと笑って椅子に座った。
「で、今日は何する?あ、それとこれ返す。」
そう言って『ロミオとジュリエット』の本を渡してきた。
「読んだ。でも半分以上わけわかんなかったけどね。」
「・・・。」
「あ!今泥棒だと思ったろ!」
「そんな事思ってないよ!でもまさか持って帰ってるとは思わなかったけど。」
「だって創一が戯曲に触れた方が良いって言うから。悪いと思ったけどこっそり借りた。」
「言ってくれれば良いのに。」
「なんか、初日に貸してなんて言うの悪いと思って・・・。」
気まずそうに羽賀さんが目線をそらす。でも何気なく出た“創一”という言葉に内心ドキッとした。
「でもありがとう。読んでくれて。」
「ん?何で褒められんの?」
「僕はこの本面白いと思ってるんだけどさ、文体も難しいしセリフ形式の本なんて普通の人はあんまり触れないでしょ。だから薦めても読んでくれる人は少なかったんだ。」
「ふ~ん。でも私もよく分かんなかったよ。でも何か綺麗な言葉だな~って感じはした。」
「本当!!」
「な、ど、どうした急に。」
「この本を翻訳してる人僕大好きなんだ!凄くリズムが良くて綺麗な言葉なんだよね!嬉しいな~、羽賀さんもそう感じてくれたんだね!」
「ああ、そうだね・・・でも内容は難しくてよく分かんなかったけど。」
「それでも嬉しい。ありがとう。」
「・・・。」
「あ!ごめんなさい!」
嬉しさのあまり羽賀さんの手を握っていた。慌てて手を放す。
「じゃ、じゃあ、今日は発声とかからやってみようか。」
「・・・ちょっと待って。」
「え?」
「その前に部員集まんないと“廃部”になるって言ってたじゃん。」
「そうだね・・・。」
「勧誘しなくていいの?」
「一応貼り紙はしてあるんだけど。」
「それで入りたいって言ってきた人は?」
「・・・まだ0。」
「・・・。」
羽賀さんが眉間に皺を寄せて黙っている。成果を出せていない貼り紙に怒っているのかもしれない。
「よし、じゃあ、校門で配ろう。」
「え?」
「だって部活に興味があった私ですら貼り紙の存在知らなかったんだよ。だったら直接配るしかないじゃん。」
「怒ってないの?」
「何が?」
「効果の出ない貼り紙を作った事に。」
「・・・意味わかんない。部活の問題でしょ。だったら私の問題でもあるんだから。」
「でも羽賀さんは昨日入部・・・。」
その言葉を言った瞬間に羽賀さんがこちらをキッと睨んだ。
「そういうの言わないで。部員は部員でしょ。」
「・・・ごめん。」
「あ、あとSNSもやろう。あんまり手広くやると訳わかんなくなっちゃうからインストグラムだけに絞って宣伝しよう。」
「・・・うん。」
「よし、じゃあチラシは創一にそのままお願いしていい?私はインストのアカウントと宣伝用の写真と動画を撮るから。」
「うん・・・。」
「なるはやで出来たら校門で二人で配ろう!」
「わ、分かった。」
「少しだけ写真と動画撮るから、それが終わったら発声?っていうのを教えて。」
羽賀さんはそういうとニコッと笑い、部室の中を物色し撮り始めた。
「・・・。」
僕はただ見ている事しか出来なかった。
けれど、僕は羽賀さんのその姿を見ながら胸の鼓動が高まって行くのを感じた。
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