第11話「水曜日のパンケーキ」
「もっとお洒落なパンケーキ屋さんとかさ、なかったの?」
前の席に座る魔女は頬杖をつきながら、ストローの入っていた袋をくるくると遊ばせている。
「ないよそんなの。この町の限界がここ」
当然だろうという顔で僕は、客足も疎な店内を見渡した。小ぢんまりとしたログハウスで、老夫婦が細々と経営してる喫茶店。軋む扉と床が来店のベル代わりだ。一瞬、「君がいた古書店もこんなものだったろ?」と言いかけたが、すんでのところで思いとどまる。もっとも、それも魔女には筒抜けなのかもしれないが。
「だめな町だなぁ」
魔女はそう溜息を吐いた。さっきは「結構いい町じゃん」とか言ってただろうと、僕は心の中で異を唱える。これも魔女に届いているのかどうかはわからない。
先刻、強烈な上から目線でデートのお誘いを受け、僕が知り得る中で最もそれに相応しいであろう場所に案内したわけだが、どうやら魔女のお眼鏡には敵わなかったようだ。
「ふわふわのパンケーキが食べたい」と魔女はむくれっ面を作る。
「ツルツルのパンケーキならあるよ」と僕は即座に返す。
四角いバターが乗ったちょっとボソボソしたパンケーキ。昔、通っていたスイミングスクールの帰りには、母とこの喫茶店に訪れあのパンケーキを食べるのが週に一回、水曜日のお決まりだった。今になってみれば、あの硬いパンケーキの何が美味しかったのかはわからない。だけどあの頃の僕は、水曜日が来るの今か今かと指を折っては心待ちにしていたのだ。
そんな思い出の一品だが、魔女は「要らない」と切って捨てた。まあ、僕も今あれを食べたいとはやはり思わない。想起した思い出を飲み干すように、僕は目の前のホットコーヒーを口に運んだ。ほろ苦い味だ。
「そう言えば、君って僕以外の人にはどう見えてるの?」
舌にこびり付いた苦さを逃すように口を開きながら、僕は道中ずっと気になっていた疑問を魔女にぶつける。
「どうって?」
「その格好。この真夏日にコートとマフラーって。どう考えても不審者だ」
魔女はあの古書店にいた時と同じ格好をしている。ダッフルコートに赤いマフラー。蝉が轟音を響かせるこの猛暑の中では、見ているだけで汗が出てくるような不適当さだ。
「失礼だなぁ。こんな暑いのにホットコーヒーなんか飲んでる人に言われたくないよ」と魔女が不満を露わにする。
「それとこれとじゃわけが違うだろう」
魔女は少し考えるように手を顎に当てると、特別に教えてあげるよと言うように身を乗り出して僕に近づいた。
「どうって言われても自由だよ。私が見せたいように見えるんだ。私が不自然に見せたいと思えば不自然に見えるし、私が自然に見せたいと思えば自然に見える。つまり君には不自然に見えてるし、他の人には自然に見えてるってこと」
「随分都合がいいな」
超常的な存在なんて皆、都合がいいものかと自答する。魔女の答えは同じようなものだった。
「それが魔女だよ。例えば君以外の人には姿を認識されないなんてことだってできるよ? そうしたら君は一人で喋ってる不審者だ。もしかしたら今もそう見えてるかもね」
魔女の響かせるケタケタという声がいつもにも増して恐ろしく感じる。なんとも身の毛のよだつ話だ。
「絶対にやめてくれよ。そんなの」と心からの懇願をする。
「女の子の服装をとやかく言うなんてそれくらいされても文句言えないよ? まったく、こんなんじゃ明日のデートも失敗しちゃうよ」
女の子という可愛らしい形容は一先ず置いておくとして、唐突な魔女の言葉に僕は目を丸くして意思表示をする。
「してたでしょ、さっき。逢野さんとデートの約束」
「デートなんかじゃない。ただ明日時間あるか訊いただけ」
「デートじゃん。私たちと一緒」
「違う」
そもそも僕は、これもデートだとは思っていない。
「そんな悠長でいいの? 明日がタイムリミットだよ」
逢野が父親を殺す日。それが明後日の早朝だとするなら、魔女の言う通り明日が勝負の日になるだろう。そもそも何故戻ってきたのが二日前なのか。何か行動を起こすには与えられた時間があまりにも少なすぎる。しかも、どうせその数字に明確な意味などないのだろう。「ただの気まぐれだよ」なんて言って退ける魔女の姿は想像に容易い。春は桜が咲き、夏は蝉が鳴いて、秋は空が高くなり、冬は星が燦々と輝く。そんな当たり前のことと同じように。それでも、ただ魔女の力を借りているだけの僕は、そう言われてしまえば何も言い返すことはできないだろう。だから僕は目の前の問いへの抗議だけをささやかに唱える。
「それとデートは関係ないでしょ」
「そんなことないよ。やっぱり大切な彼氏にはどんなことでも相談すると思うんだよ。だから君がデートをして告白すれば万事解決だ」
名案を思いついたとでも言うような顔で魔女は言い放った。随分と簡単に言ってくれるなと思う。だけど、そういう話ならば、僕は確信を持って否定できるだろう。
「僕たちはそういうのじゃない」
「なんで? 恋してるじゃん。君はさ」
「恋?」
降って湧くように出てきたその言葉はどうにも僕に馴染まず、そのままバウンドするように声に出してしまう。
「そう、恋でしょ。何年もずっと後悔に苛まれるくらい熱くて深い恋。いいじゃん。とても素敵だ」
熱い。深い。恋。何もかもが僕という人間にフィットしない響きだ。思わず顔が綻んでしまうくらいに。匂坂薫と恋。あまりにもかけ離れた言葉だ。水と湯のように正反対というわけでもない。水と油のように混じり合わないわけでもない。水と火のように打ち消し合うわけでもない。例えるなら水と赤頭巾。何もかもが違う。同じ土俵にすら上がらない、全くもって関係のない二つということだ。だから僕は笑いながら否定の言葉を口にする。
「恋なんかじゃないよ。だって僕は別に逢野のためにこの夏に戻ってきたわけじゃない。全部自分のためだ。僕のエゴと我儘で始まって終わった過去を、また僕のエゴと我儘で清算しに来たんだから」
確かに逢野昭は僕にとってどうしようもなく大切な人で、そしてあの夏から僕はずっと逢野ことばかり考えて生きて来た。だけどその根本にあるのは、やはり僕のエゴだ。僕はずっと僕自身のために行動してきた。だからこれが恋なんてそんな綺麗なものなわけがないんだ。
僕が話している間に魔女の視線は、自身の指にくるくると巻き付けたストローの包み紙に落とされていた。もう飽きたとでも言うように、巻いては解き巻いては解きと繰り返している。魔女の方から始めた話なのだから、興味を無くしたのならば別に僕としてはそれで構わない。しかし、魔女はわかりやすく音を立てて一つ息を吐くと、一言こう続けた。
「やっぱり恋じゃん」
僕の話をちゃんと聞いていたのかと疑うくらい、呆気なくそう言い放つ。その「やっぱり」は一体どこに繋がっているんだ。わけがわからない。それでも魔女は、間違っているのは僕の方だと言わんばかりに重ねる。
「匂坂くんは勘違いしてるよ」
「勘違い?」
「恋って自分のためにするものでしょ」
魔女はあのニヤニヤとしたいつもの顔つきも、ケタケタとしたお決まりの笑い声も発することはなく、至って真面目な顔つきでそう口にした。その不自然さに思わずどこか身構えてしまう。
「恋っていうのは利己主義の結晶だよ。自分がしたいからして、自分がしたくなくなったらやめる。どこまでも身勝手で、我儘で、エゴイスティックの象徴。それが恋でしょ? 相手のために——とか、そういうのは恋の形成条件とは全く別のものだ」
どこかの恋愛啓発本を齧ったような言葉を、やはり魔女は真剣な顔つきで連ねた。本当に面食らってしまうほど、シンプルな恋愛観をあの魔女が語るというのは、僕の想像の範疇外だ。と言っても、まだ数時間ほどの付き合いでしかないわけだが。やはりなんとも掴めない。本来であれば、こんなことをそのまま伝えるのは失礼に値するのだろうが、魔女に隠し事など通用しないのはもうわかっている。だから僕はそのまま、正直に思ったことを口に出した。
「君はロマンチックなんだか、哲学的なんだかよくわかんないね」
「一緒でしょ。どっちでもあるんだよ。魔女も人間も」
どうやら僕の正直さの発露は、魔女の機嫌を損ねることではなかったようだ。だから僕は一先ず安心して弁明をする。
「それで恋は自分のためにするもの、愛は相手のためにするものと続くわけだ。確かに、どこかの哲学者が言いそうな気がするよ。それで身勝手な僕がしてるのは恋だと。君はそう言いたいんだろうけど、やっぱりそれは違う」
そこで一息吐くと魔女は訝しげな顔を欠片ほど見せたが、僕は間髪入れずに続ける。
「僕は別に逢野昭を自分の手の中に収めたいなんて思ったことはないよ。むしろその逆。逢野昭はもっと自由でなきゃならないんだ。それさえ守られていれば別にどこにいたっていい。この世界のどこかで、逢野昭が生きてくれていれば僕はそれでいいんだ」
嘘偽りのない心からの思いだ。どれだけ僕から離れていたとしても、逢野昭が真っ直ぐで綺麗なままでいてくれたらそれで構わない。その事実を知っているだけで、僕はこの世界を美しいと思える。僕が隣にいなくたって、逢野昭は生きていけるし、逢野昭が隣にいなくたって僕は生きていける。ただ逢野昭がいない世界では僕は生きていたくない。それだけの話だ。
「だからこれは僕のエゴだけど恋じゃない」
それが僕の答え。一点の曇りもない、たった一つの答え。そしてこれが、僕がこの夏に戻ってきた意味なのだ。
魔女は「ふぅん」と一言だけ発すると、ストローでアイスコーヒーを口に含んだ。コースターも用意されてないこの店では、その黒い液体の入ったグラスに付着した結露は滝のように滴り落ちてテーブルをびしょびしょにしている。それは決して納得したような声色でもなかったが、かと言って何か不満がある様子でもなく、魔女の意図も僕にはやはりわからなかった。
そうしてしばらく何とも言い難い沈黙に包まれ、気不味さを誤魔化すようにコーヒーに手を伸ばす時間が続いた後、先に沈黙を破ったのは魔女の方だった。
「ねぇ、匂坂くんはさ、あの本の何が世界中の期待を裏切ったんだと思ってる?」
不意にそう口を開いた魔女の手には、やはりどこから取り出したのかあの本が握られている。『ペンギンの飛び方』。喫茶店という場所も含めてなんだか絵になる取り合わせだ。こうしてみるとやはり魔女は学校帰りの文学少女にしか見えないだろう。
だから僕は魔女のその問いを、単なる文学少女からの問いなのだと思うことにした。魔女からの問いならば、その単純な一言にも先ほどのように何か裏があるのではないかと勘繰ってしまうが、文学少女からの問いだと思えば、至ってシンプルに答えることができる。魔女との会話は疲れると、どうしようもなく痛感したばかりだ。せっかくの好きな本に関する話ならば、文学少女と愉快に興じた方がいいに決まってるだろう。
「何って、支離滅裂な結末だろう? それまで積み上げて来た期待を、最後の最後でふいにしたんだ」
それしかない。それがずっとこの本に押されて来た、決して消えない烙印だ。
「本当にそうなのかな」
「君は違うって言うの?」
「違うとは言わない。でも正しいとも思えない」
「同じことだ」
「違うよ。本質は全く別のことなんだ」
文学少女は考えこむように、一つ一つ丁寧に言葉を吐き出す。そこにいつもの芝居がかった様子はなくて、なんだか切実な何かを感じさせた。僕はそれを急かしたいとは全く思っていなかったし、むしろその一つ一つを僕もまた注意深く聞きたいと思っていたのだ。だけど、何故だか僕はこう訊ねるべきなのだという予感があった。だから僕はそれをそのまま口に出す。
「結局、君は何が言いたいの?」
決して結論を急いだわけではない。しかし、この言葉が今この場所には必要だと思った。
「がっかりしたんだよ」
文学少女はまるで思い出したかのような声でそう言う。
「読者が、でしょ? ずっとその話をしてるんだ」
今更確認することでもないだろう。『ペンギンの飛び方』は世界中をがっかりさせた。周知の事実だ。
「そうじゃなくて、エイビスが」
「エイビスに、じゃなくて?」
たった一文字の違いだが、その二つは全く異なるものを表しているだろう。
「そう、エイビスが」
「どうして?」
「エイビスはずっと夢見て来たから。大空を羽ばたいて、まだ誰も見たことのない景色をその目に映すことを」
「そうだね。だからエイビスは北の谷の向こうを目指したんだ」
誰に何度馬鹿にされようと、何度も何度も空へと挑戦した。その先に誰も足を踏み入れたことのない、未知の世界があると信じていたから。
「だけどそんなものはなかった」
凍てつくような言葉を文学少女が吐き出して続ける。
「誰も見たことのない、夢や可能性の溢れる未知の世界だと思っていた場所は、人間なんていう訳のわからない生き物の手垢に塗れた、開拓済の場所だった。夢も可能性も、未知なんてどこにもなかったんだ」
ここまで来る頃には、もう文学少女が言いたいことを頭の中で見つけていて、だから僕も後を追って続ける。
「そしてその人間なんていう生き物は、勝手にその開拓された世界に絶望して、勝手に脱出しようとしている」
「そうだよ。だからエイビスはがっかりした。トリカゴのような狭い町から見た谷の向こうには、果てしない自由が広がっているように見えていたのに。誰も知らないその大空を自由に飛び回りたいと、そう夢見てずっと挑んできたのに。それなのに、いざ辿り着いてみれば、そこには未知も自由も何一つなかった。自分と同じように窮屈な世界にうんざりしている人間がいるだけだった。それがエイビスにとって、何よりの絶望だったんだ」
文学少女はもう全て合点が言ったという様子で、ただ事実を確認するように言葉を並べていた。だからか、その言葉は脱脂綿に浸透する水のようにすんなり入り込んでくる。
「君が言いたいことは大体わかったよ。もちろん僕もほとんどのことで首を縦に振れる。君の言う通りだと思うってことだ。だけどそれはエイビスの話であって、読者の話じゃない」
僕たちはずっと、あの物語の何が読者の期待を裏切ったのかという話をしていたはずだ。
「一緒だよ。だって私たちもエイビスと一緒に夢を見ていたから。自由に向かって直向きに進んでいたエイビスに惹かれたんだ。エイビスと一緒に私たちも未知を期待していた。だから、がっかりしたんだよ。そんなものはどこにもなかったって突きつけられて。どうしようもなくがっかりしたんだ」
その言葉を聞いた瞬間、僕の頭をよぎるのはあの町のことだった。タカサキ。幼い頃ずっと夢見ていたそこは、逢野昭と過ごしたあの夏に、世界中にありふれているなんの変哲もない町の一つ高崎に変わった。それこそ未知も自由も一つもない、ただの一つに。だけど、あの時僕は特段失望や落胆といった感情を抱きはしなかった。焦がれ続けていたタカサキなどどこにもなかったと知っても、がっかりすることはなかったのだ。それはなぜか。今、この文学少女の言葉を聞いてはっきりとわかった。
知っていたからだ。僕はもう既に知っていた。未知や自由の溢れる場所なんてないのだと。窮屈な世界からずっと憧れ続けたその先にも、また別の窮屈な者が存在しているだけだと知っていた。トリカゴの外にはまた別のトリカゴがあって、結局どこに行こうがその檻から逃げる事はできないと、あの時の僕は既に知っていたのだ。だから、今更そんな当たり前の現実を突きつけられても落胆はしなかったのだろう。なぜなら、それより遥か前にそんなどうしようとない現実にがっかりしていたのだから。その現実を教えてくれたのがきっと、あの——。
それでも、僕は今ここでそれを認めるわけにはいかない。だって、僕はもう一つ知っている。あの一羽の鳥は、最後まで空を目指していたことを。
「だけど、エイビスは宇宙を目指した。がっかりしたからこそ、また次の世界を夢見たんだ。そうやってエイビスは飛んだ。自分だけの飛び方を見つけたんだ」
もう僕に残されていたのは、縋るようなそんな思いだけだった。だけど、これに文学少女がどう答えるかもきっと僕はもう気づいている。
「そうだね。だけど読者は知っている。宇宙にだって遥か昔に旅立った人間がいるだけ。結局、そこにも窮屈な世界に絶望している人がいるのだろうと。だから、がっかりしたんだ。エイビスが見た夢の世界なんてものはどこにもなくて、どこに行こうがエイビスは救われないのだと気付かされてしまったから」
それはもうどうしようもないくらい真実だった。一分の隙すら許されないほど、精巧に完成された真実。そこに反論の余地など残されてはいない。
「だけどね、匂坂くん」
そうして文学少女は一つ息を吐く。
「君はそれでもエイビスは飛んだんだって言うでしょ? エイビスは確かに自分だけの飛び方を魅せたのだと。エイビスのことを信じているんでしょ? 私も同じだよ。君のことを信じてる。だからさ、がっかりさせないでね、私のこと。君の物語を最後まで楽しませてよ」
その声は既に魔女のものへと変わっていた。
「少なくとも今日は楽しかったよ、デート。ありがとう匂坂くん」
そうして魔女は終わりを告げるように不意に立ち上がった。目の前に置かれた真っ黒なアイスコーヒーはいつの間にか飲み干され、結露で水たまりのようになっていたテーブルの水滴も嘘のように乾いている。
「だから、これはお礼。あげるよ」
そう言って魔女は僕の方に何かを放り投げた。それは物理法則を無視しているのではないかというように、ゆっくりと引き寄せられるように僕の手に着地した。
「かっこいいでしょ。魔女限定モデルだよ」
自慢気に語る魔女の前で、僕の手の中に収まったのは腕時計だった。文字盤を木と
「何これ?」
「時計だよ。見たらわかるでしょ? きっとこれから君に必要になるものだよ」
「時間を止める時計とか?」
時間を巻き戻せる上に、止めることまでできたらもう無敵と言っていいだろうか。
「ないよ、そんな不思議な力。言ったでしょ? 魔女なんてほとんど普通の女の子と変わらないんだ。ただのセンスがいい素敵なプレゼントだよ」
魔女は呆れたような口調でそんなことを言う。時間を戻すのも止めるのも変わらないだろうと思ったが、魔女が僕にそんな力を授ける気など微塵もないようだから考えても仕方がない。
「じゃあ何に使うんだこの時計は」
「何って、時間を見るときに使うんだよ。知らないの?」
腹が立ってしまうくらい至極真っ当な意見だ。しかし釈然とはしない。
正論をぶつけて満足したのか、魔女が用を終えたと言わんばかりに、ポンっと手を鳴らす。
「それじゃあ、またね匂坂くん。今度は君から誘ってよ、デート」
そうして魔女は霧のようにどこかへと消えてしまった。比喩ではない。本当に目の前から忽然といなくなったのだ。しかし、周囲の客たちは今ここで起きたことを気にする様子も全くなかった。これで普通の女の子だなんて、本当にふざけた話だ。
そんなことをボヤきながら僕は、すっかりぬるくなってしまったコーヒーを一気に飲み干した。
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