第2話「八月蝉い」

「だからさ、『うるさい』は『五月蝿い』じゃなくて『八月蝉い』にするべきだと思うんだよ」

 閑散とした昼過ぎの車内で飛び出した僕の四つ目の空疎くうそな話に、ボックスシートの向かいに座る逢野は「うん」と四つ目の生返事をした。先刻、電車に乗り込んでからずっとこの調子が続いている。気まずい沈黙に目を泳がせ、それに耐えられなくなっては中身のない思いつきの話を問いかける。このループの繰り返しだ。何か言いたげな逢野の視線を黙殺して、半ば無理やりここまで連れてきたわけだが、やはり逢野にはまだ思うところがあるのだろう。それは僕を巻き込んでしまったことなのか、それとも……。いずれにせよ、考えても仕方のないことだ。そう簡単に折り合いのつけられる問題なわけがないのだから。僕にできることはただ一つ。詭弁をろうし、この意味のない無駄話を続けることだけだろう。

 あれから結局僕たちは北へと向かうことにした。明確な目的地があるわけでもなく、ただ漠然と北へ。各駅停車タカサキ行き。昔はよく乗っていた電車だ。僕たちの住む町から八つ先の熊谷くまがや駅にあるショッピングモールに、以前はよく家族で出かけていた。この町に越してきてからの僕の世界はこの熊谷までで完結していたのだ。そこから先はわば未知の領域。幼い頃の僕は、この「タカサキ」という場所によく思いをせていたことを思い出す。電車のアナウンス音でしか知らないタカサキ。僕が知る熊谷から先にはどのような世界が広がっているのか。遥か先のタカサキにはどのような景色が広がっているのか。幼い僕にとって熊谷から先の世界は、未開のジャングルのような怪しげな魅力を放つものだった。そうやって僕は未だ知らぬタカサキに恋焦がれていたのだ。


 そうしてまた空疎な話を逢野に問いかけては、気のない返事を受けるスパイラルを繰り返しているうちに、気づけば電車は例の熊谷駅に到着したようだった。いつも——と言っても、もう何年も前の話だが——ならばここで席を立ち、電車を降りるところだ。しかし、今日は違う。今日はこの先の世界に用があるのだ。そのことにどこか奇妙な誇らしさを覚えながら、ドアが閉まるのを静かに見送る。電車が発車した瞬間、確かに何かが変わったのを感じた。風景は代わり映えのしない田畑が続いているだけだ。だけども、何か一つ、大きな線を越えたのだと、確かにそう感じた。高揚感が心臓を打ち鳴らし、動悸が早まる。僕は今、ずっと夢見ていた未知の世界に足を踏み入れたのだ。そう、ここから。ここから、僕たちの物語が始まるのだと、確信めいた何かが心臓を思い切り叩いた。


 *


 熊谷を越えてから少しした頃、七つ目の空論を空撃ちしたところで、逢野は生返事の代わりに「あのさ」と小さく声を出した。

「何も言わないで出てきちゃったけど……おばさんとか……」

「ああ、大丈夫だよ。書き置きしてきたし」

 目を伏せながら喋る逢野に僕はそう即答する。要するに逢野は、黙って家を出てきてしまっては母たちが心配すると言いたいのだろう。しかしそれは杞憂きゆうに過ぎないのだと、僕は二つ返事で答えることができる。

「ほら、部活の合宿に行ってくるって」

 当日に突然「合宿に行って来ます」など、普通なら通らない。誰もがいぶかしむであろうあまりにも適当な嘘だ。そう、普通ならば。

「部活って……」

「化学部。一度も行ったことないけど」

 自嘲気味に笑いながら僕はそう答えた。

 僕たちが通う中学校では必ず部活動に入らなければいけないことになっている。とはいえ、クラブユースやリトルシニアなど、学外のスクールに通っている人もいるのだから、そんなルールが成り立つわけもない。そうした部活動に所属できない、あるいはしたくない生徒の受け皿となっているのが、僕の所属する化学部ともう一つ、裁縫部なのだ。この二つは僕のような名目上の部員で溢れている。確か逢野も裁縫部に所属していたはずだ。一応、真剣に活動している人もいるようだが、僕には関係のない話。卒業前にアルバムの写真撮影で参加するのが三年間で唯一の活動だ。つまり僕は合宿どころか部員の顔すら知らないし、そもそも化学部に合宿があるとも思えないわけだが、母は僕が何部に所属しているかも把握していないだろう。

「だからまあ、大丈夫だよ。とりあえず一週間くらいは」

 何の問題もないのだと逢野を安心させられるように、できる限りの余裕を持ってそう言うと、逢野はまた消え入るような声で「そっか」と発して目を伏せた。そんな逢野を見つめながら、僕はもう一度「大丈夫だから」と唱えるように呟く。それは逢野のためというよりも、自分に言い聞かせるように発したものだったのかもしれない。


 *


 程なくして、電車はタカサキ駅へと到着しようとしていた。子供の頃は熊谷駅までの時間すら、途方もなく長いものであるように感じていたが、今になってみると思っていたよりも遥かに近い場所なのだと実感させられる。あれだけ長い間夢見ていたタカサキも、いざ目指してみれば案外呆気なく、気づけばもう、すぐそこにあるのだ。しかしそれでも、幼い頃あれだけ空想していたタカサキに降り立つと言うのだから、やはりそれなりの感慨は持たざるを得ない。そうして車掌が特徴的なダミ声で「まもなくタカサキ駅」と告げるのを聞くと、逢野に電車から降りようと目配せをし、リュックサックを持って席を立った。


 車掌の声と共にドアが開く。拳を少し強く握りしめて僕はホームへと降り立った。フル稼働された冷房によってキンキンに冷やされていた車内から一転、生暖かい空気が頬を撫でる。ドアのこちら側と、あちら側は全く別の世界のようだった。先程、熊谷駅を通り過ぎた際に得た高揚感が再燃する。心臓が激しく脈を打ち、遂に辿りついたのだとしらせている。一歩、一歩と前に進む度に、まだ誰も足を踏み入れていない雪原に最初の足跡を残しているような感覚があった。周りではうんざりするほど沢山の人がせわししなく横行していて、茹だるような空気に包まれているというのに、確かにまっさらな雪原が見える。

 僕は今、「タカサキ」に降り立ったのだ。


 *


 僕はおにぎりを食べるのが上手い。これでは言わんとすることが伝わらないだろうか。正しくは、僕はコンビニのおにぎりを開封するのが上手い。真ん中から開いて、左右に引っ張るアレのことだ。海苔にひびが入ったり、おにぎりの形を崩すことなく素早く綺麗に開けることができる。毎日のコンビニ通いで身につけたものだ。自分で言っていて哀しくなるが、なんとも僕に相応しいささやかな特技だろう。

 つまり何が言いたいかというと、僕はこの陽の落ちかけた薄暗い公園でも、目の前の生たらこおにぎりを問題なく開封できたということだ。完璧な形で登場したおにぎりを、横に腰掛けている逢野に少し誇らしげに見せる。すると僕の奇行に困惑した表情を浮かべながら逢野は、「生もの食べられないんじゃなかった?」と、これまたささやかに声を出した。

 僕はまあ言ってしまえば偏食家だ。寿司や刺身に限らず野菜や果物も、火を通していないものは基本的に口にできない。生とつくものはほとんどだめ。それを咎められることも多々あったが、火を通せば野菜でもなんでも食べられるのだから、別に無理する必要などないだろうと都度不満を覚えたものだ。特定の何かでしか摂れない栄養素などほとんどないのだから。

 しかし、そんな僕の食生活に最近大きな革命が起きたのだ。それを「最近生たらこはいけることに気づいた」と、これまた少し誇らしげに告げた。逢野は少し呆れたような顔をすると、「そっか」と手に持ったBLTサンドを口に運ぶ。僕からしたら理解の外にある、おぞましい食べ物だ。人間は火を操ることで文明を確立し、文字通り動物から人間になったわけで、火を通さない食事など人類の歴史に対する冒瀆だろうと、いつもの調子で口をつきそうになるが、流石にこの状況でやることではないと自重した。

 

 結局、辿り着いてしまえば高崎たかさきは何の変哲もない町だった。僕らが住んでいるところに比べれば、まあ当然栄えてはいるが、ただそれだけのことだ。何か特別なものがあるわけでもない。しかし、そのことにがっかりするといったようなことも特段なかった。僕にとっての「タカサキ」は幼き頃の夢想で完結していたのだ。現実の高崎に特別なものは必要ない。それに、特別なのは僕たちが置かれている状況だけで十分だろう。

 それよりも、僕達が憂慮ゆうりょすべきは今晩の寝床に置いて他ならなかった。あと数時間もすれば陽が落ちてしまう。このまま夜まで中学生二人で移動を続けるというわけにもいかないから、今晩はここで過ごさなければならない。しかし、子供二人だけで泊めてくれるホテルなどないだろう。今日の夜をどう乗り越えるか。それが僕達が考えるべき最優先事項だった。

 そうして寝床を求め歩き回った結果、僕たちはこの名前も不確かなさびれた公園のドーム型遊具の中に辿り着いたわけだ。この暗がりで綺麗におにぎりを食べられるのは僕くらいだろう。僕じゃなければ、先ほどコンビニで購入したレジャーシートに海苔と米粒がトッピングされていたはずだと僕は誇っているのだ。


「わたしもエイビスみたいに飛べるのかな」

 僕が美しいおにぎりに思いをせている横で、突然逢野がそう呟いた。

「読んでたんだ」と僕は返す。

 ララ・エイビス。今朝、逢野が僕に返しに来た件の本、『ペンギンの飛び方』の主人公の名前だ。

「少し前にね。小学生には難しすぎるよあの本」

「そうかな」

「匂坂は難しい本を読むから、難しいことを言うんだよ」

 少し饒舌じょうぜつになった逢野がそう言って僕の方に目をやった。

「難しいことを言ってるフリをしてるだけだよ」

 言葉は僕を守る障壁だ。それが難解であればあるほど、距離を形成してくれる。


 『ペンギンの飛び方』の主人公はその名の通り一羽のペンギンだ。鳥の集まる町に住むペンギン。人間がいなくなった世界の話。

 鳥の町は三つの区域に分けられている。翼を広げて大空を自由に飛び回る鳥たちが住む東区域と、飛べない鳥たちが暮らす海岸寄りの西区域。そして乱気流に包まれ、誰も足を踏み入れることのできない北の谷の奥にある森。東西では特に移動の制限などがあるわけではないが、大空を飛び回る翼を持つ者と持たざる者で半ば暗黙の了解として棲み分けが行われており、それぞれの区域に暮らすものが反対の区域に踏み入れることはほとんどない。だからといって飛べない者が差別を受けているといったわけではないのがこの物語の肝要なところだ。ペンギンには空の代わりに海があるように、適材適所、それぞれにそれぞれの生きやすい場所があるというだけ。ペンギンもダチョウもドードーも元より空を目指さない。生まれ落ちた時から、自分たちには自分たちの生きるべき場所があるとわかっているからだ。

 しかし、そんな世界で空に焦がれてしまった者が一羽。それがエイビスだ。別段泳ぐのが苦手だったというわけでもない。むしろ同世代のペンギンの中でも一番得意なくらいだった。それなのに彼は、その矮小わいしょうな翼で大空に夢を見てしまう。与えられた場所で咲き誇ることに、どうしても満足できなかったのだ。

 彼は毎日崖の上から飛び降りて、空を飛ぶ練習をした。一向に成功する気配なんてないのに、何度も何度も。いくら海に打ちつけられても平気で戻ってきて、また飛び降りる。その繰り返し。一体、空の何が彼をそこまで惹きつけるのかは誰にもわからなかった。そうして他のペンギンたちは次第に彼を避けるようになる。自分の理解の外に在るものを恐れたのだ。彼を攻撃をする者も現れた。彼を見ているとやり場のない感情が湧いてくるのだ。だからそれをぶつける。全ては恐怖から生まれるのだ。それでも彼は毎日、毎日飛ぶ練習を続けた。

 また、彼は東区域へもよく訪れた。空を舞う鳥たちを観察し、自分も真似をする。そうやって、彼はとにかく空を目指した。飛べる鳥たちもそんな彼を見て最初は珍しい奴もいる者だと面白がっていたが、いつまで経っても諦めない彼を見て次第に恐怖を感じるようになる。そうしてまた彼を攻撃したり、揶揄からかう者が現れても彼の目は直向きに大空を捉えていた。

 彼を恐れわらう者たちにエイビスは真っ直ぐな目でこう言い放つのだ。

「いつか誰も想像の着かなかった方法で飛んでやるさ」と。

 エイビスが町の外れで人力飛行機というロストテクノロジーの産物を見つけるのはそれから数日後の話だ。


「僕たちも空を飛べたら一気に遠くまで逃げられるのにね」

 逢野が「飛べるかな」に込めた意を上手く掴み取ることができなかったので、僕は仕方なくそう切り出す。せっかく逢野が始めてくれた会話を途切れさせたくなかった。

「それじゃあ目立って見つかっちゃうよ」

「誰も追いつけないところに逃げればいいんだ」

「エイビスみたいに?」

「そう」

 物語の終盤、エイビスは人力飛行機を改造して大空へ羽撃はばたく。矮小な翼で飛ぼうとして失敗した。人力飛行機で飛ぼうとして失敗した。何千何万の失敗を、そのたった一度の飛行に繋げて彼は確かに飛んだ。

 そうして彼は翼を持つ鳥たちですら乗りこなせなかった乱気流が包む北の谷の向こうへと辿り着く。誰も想像できなかったやり方で、彼は誰よりも飛んだのだ。

「翼があればどこにでも隠れられるだろう?」と僕は言う。

「でも匂坂はかくれんぼ苦手だよ」

「そんなことないさ」

 息を潜めるように生きる毎日なんだから。

「嘘。匂坂はいつも自分から出てきちゃうの。隠れているのに我慢できなくなって」

「よくそんなこと覚えてるね」と思わず顔がほころぶ。幼稚園くらいの頃の話だろうか。

「せっかく隠れたのにもったいないなっていつも思ってた」

「不安だったんだ。僕が隠れてることを忘れてしまってるんじゃないかって。きっと」

 当時の記憶は曖昧だけれど、僕ならきっとそう考えるのだろうなと思う。

「寂しがりなんだ」と逢野の口角が意地悪そうに持ち上がる。

「少しだけね」

 そう言って逢野の方に目をやると、同じようにこちらを見ていた逢野と視線が合う。そこから三秒。顔を見合わせた僕らの笑い声が同時に響く。この暗がりでもわかるくらい、確かに逢野は笑っていた。

 そうして僕たちは本の感想や取り止めのない思い出話なんかをして。気づくと今朝逢野に出会ってからつい先ほどまで、ずっと張り詰めた重い空気は嘘のように溶けてなくなっていた。喉から滑るように次から次へと言葉が出て来る。今朝から今に至るまでの数時間分の言葉を、あるいはこの数年間の空白を埋めるように僕たちはとにかく話した。こんな風に逢野と顔を突き合わせて話すのは本当に久しぶりなのだけれど、それを感じさせないくらいの言葉が深い深い海のように底から溢れ出て来る。とにかく話して、とにかく笑って。僕たちが今置かれている状況なんて忘れてしまったかのように。僕たちに呼応するかのように時間も経過を忘れてしまっているのではないかと思うくらいゆっくりと流れる。月並みな言葉になるが、僕は本当にずっとこの時間が続けばいいのにと思っていた。

 しかし不意にその時は訪れる。完全に陽が落ちて、辺りもすっかり暗くなったその瞬間。思い出話に一区切りがつき、訪れたその一瞬の間。僕が次の話をしようと口を開くその一瞬前に、逢野がそう呟いた。

「お父さんがね……殴るの」

「え?」と行き先を失った言葉が、疑義ぎぎに変換されちゅうに放り出される。

「二年くらい前。お母さんが出て行って。最初は普通だったんだけど。段々おかしくなって」

 逢野は絞り出すような声でそう繰り返す。

「忘れていいはずがないだろ」と、どこからかそんな声が聞こえたような気がした。そうだ忘れていいはずがない。僕は何を勘違いしていたんだ。重い空気が溶けてなくなる? そんなわけがない。僕たちが今置かれている状況は決して忘れられるはずがないものなんだ。

 そうしてまた張り詰めた空気が戻って来る。僕を咎めるように、悠々の帰還だ。逢野は父親を殺して、僕はそんな逢野を連れて逃げようとしていて。忘れていいわけがなかった。

「もう仕方ないことなんだってずっとそう思ってて……それなのに……それなのに今日は……」

 逢野の言葉はもう止まらなかった。せきを切ったように溢れ出したそれは、切実で、痛切で、どうして僕はそんな彼女にかける言葉を持ち合わせていないのだろう。「匂坂は難しい本を読むから、難しいことを言うんだよ」。つい先程投げかけられた言葉を思い出す。違う。僕は何も知らない。目の前で涙を溢れさせている女の子一人にかけるべき言葉すら知らないんだ。

「匂坂に相談しようって。何回も思って。でも匂坂も受験とかで忙しそうで。だから……」

 逢野も自分の思考を上手く整理できていないのだろう。とにかく思いついたことを伝えなきゃと言葉にして。それはきっととても誠実なことだ。自分の気持ちを、しっかり相手に伝えようと言葉を尽くす。だからこそ、それができない僕には、逢野の言葉が鋭く刺さる。僕は逢野が苦しんでいたこの二年間何をしていたのだろう。何も知らないで。何も気づけないで。気づけないことと、傷つけていることに何の違いがあるというのだろうか。

 何も知らない僕は、ただ「ごめん……」と振り絞ることしかできない。すると逢野が慌てたように首を横に何度も振った。わかっている。逢野の言葉に僕を責める意など一欠片もないんだ。逢野はただ僕に伝えようと、誠実に言葉を尽くしているだけ。それがわかっているのに僕は、自分が楽になるために身勝手な謝罪に逃げたんだ。

 そして僕はまたあの言葉に逃げる。逢野の手を握って「大丈夫」と投げかけた。「もう大丈夫だから」と。ああ、どうして僕はこんなに狡いんだろう。大丈夫なわけがない。今も、昔も。大丈夫なことなんて一つもないじゃないか。起きてしまったことないもう変わらない。現状を変える手立てもない。それなのに僕は、こうしてこの言葉に逃げることしかできないんだ。

 それでも僕は逢野の手を握り締める。大丈夫、もう大丈夫だからと、うわ言のように繰り返して。何もできない僕は、ただ逢野を受け止めるクッションになりたかった。何も知らなくて、何もできない僕だけど、逢野から溢れる言葉を一つも放り投げたくはない。逢野が全てを吐き出せるように、ただ受け止めたかった。

 強く、逢野の手を握る。小さくて冷たい手が小刻みに震えている。その振動は僕の手にも当然伝わってきて。ほら、やっぱり何一つ大丈夫なことなんてない。僕には何もできない。それでも握るしない。大丈夫と虚勢を張って。逃げて。強く握る。

 そのうちに僕らの意識は眠りに包まれ、気づくと朝へと運ばれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る