第14話 悪心を斬る

 街で歩いていたら、いきなり斬りかかられた。

 相手はダサックの甥だ。


 ろくに剣技など使えない俺は致命傷を負った。


「クラフト、しっかりして」

「今、治癒師を呼んで来るから」


 プリシラとビュティーヌの声が小さくなっていく。

 死ぬのか。

 村人の幽霊が見えた。

 楽になどさせてやるかと口々に言っている。

 剣を届けろとも。


 そうだ、剣を届けないと。


「斬」


 俺は傷と出血を斬った。

 怪我をした事実がなくなる。

 俺はすくっと立ち上がった。


「ひっ」


 甥が腰を抜かして後退る。

 こういう男を生かしておくと後々祟るのだろうな。


「斬」


 甥の悪の心を斬った。


「はへぇ、あっ、蝶々さん。まてぇ」


 善人の心が残ったがその大きさが少なかったらしい。

 3歳児ぐらいの子供の心になったようだ。


「あんた、平気なの」


 とプリシラ。


「傷をした事実を斬った」


「神のごとき力ね」


 目を丸くしてビュティーヌが言った。


「斬」


 角でパタリと男が倒れた

 念のため、俺への悪意と、それに結びつく悪心を斬った。


 ダサックの甥の手下だろう。

 街中での殺しは不味いから、それに留めた。


「ありさん、ありさん、どこ行くの」


 男はアリの行列を追って去った。


「人生をやり直して真っ当になるんだな」


「驚いた」


 そう言って女性が出てきた。

 俺への悪意はないから、敵ではないだろう。

 プリシラとビュティーヌが戦闘態勢をとる。


「一応聞いておく。誰だ?」

「パピヨラと呼んでちょうだい。それより凄腕の殺し屋を廃人にしてしまったのは驚いたわ」

「不意打ちでもされない限り俺は死なない。こっちが先手を取れれば、絶対に勝つ」

「あなたに横領の嫌疑が掛かっているけど、そんな感じじゃないわよね。これでも人を見る目はあるの」


「ダサックの奴。罪を俺に被せようとしたんだな。汚い奴だ」

「そうなの。ダサックの手口は分かる?」


「たぶんだけど、呪われた剣を捨てたと思う。俺がギルドを辞める時に剣を捨てたなと言っていたから」

「どこに捨てたのかしら」


「古戦場じゃないかな。それしか考えつかない」

「これは、後始末が大変ね」

「どういう事?」

「強大なアンデッドが生まれるって事よ。それで分かったわ。ドラゴン山脈がおかしいらしいけど、たぶんアンデッドがドラゴン山脈に攻め入ったのね。モンスターのアンデッドを量産してこの街に攻めてくるはずだわ」


「俺は何をしたら良い?」

「ドラゴン山脈を調査して頂戴。できれば殲滅してほしい。私は古戦場を調査するわ」


 パピヨラが去って行った。


「あの女のいう事を信じるの」

「そうよそうよ」

「俺は、自分で作った剣を信じる。悪意があればあの女の心は斬られていたはずだ」


「じゃあ、ドラゴン山脈に行くのね」

「私は資料を集めてくる」

「頼んだ」


 プリシラは遠征の準備に、ビュティーヌは情報を集めに行った。


 さて、俺はダサックの始末をつけるか。

 甥の事を知られれば、たぶん殺し屋の集団がくるだろう。


 俺だって油断する時はある。

 四六時中付け狙われれば死ぬこともあり得る。


 そう思っている矢先。

 ナイフが山と投げられた。

 殺し屋は一人じゃなかったのだな。


「斬」


 ナイフを斬って霧散させた。


「斬」


 悪意を持つ者の心を斬ったが、手ごたえがない。

 攻撃圏内にいないようだ。

 見切られている。


 鞘を抜けば、たぶん世界中の俺に悪意を持っている人間を始末できるだろう。

 それには村の生き残りも含まれるはずだ。

 きっと俺を恨んでいるに違いないから。

 そんな人達をどうこうしたくはない。


 とりあえず、空間を斬り位相ずらして、俺に攻撃が届かないようにしよう。


「斬」


 ナイフが四方八方から投げられるが、俺には一つも届かない。

 こちらからも攻撃出来ない欠点はあるので、まるで千日手だな。


 対策は分かっている。

 遮蔽物がない場所に行くことだ。

 そうすれば、射程に入ってこなくても、敵を目にすればやりようもある。


 ダサックは後回しにして、ドラゴン山脈の調査と共に殺し屋をなんとかしよう。

 街の安全も大事だからな。

 ダサックならいつでも斬れる。

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