第13話 偽装

Side:ダサック

「ギルドマスター、風邪の欠勤が多くて、ギルドの業務に支障をきたしています。どうにかして下さい」


 部下の職員がそう言って頼み込んできた。


「そんなの風邪ひく奴が悪い。そういう奴らは軒並み減給だ」

「良いんですか。人がいなくなりますよ」

「構うものか」


 人なら、知り合いのチンピラに声を掛ければ、幾らでもいる。

 下らない案件を上げないでほしいものだ。


「それとこのギルドが呪われているとお客様が」

「それは心外だな。その根拠は」

「寒気が止まらないそうです」

「くだらん。それこそ風邪を引いたのだろう。そいつらが職員に移した元凶だ」


 寒気などしないぞ。

 呪われて寒気がするというのは、古戦場の奥のような場所を言うのだ。

 実にくだらない。


 そろそろ昼飯か。

 私は、チンピラがたむろしている酒場にくりだした。


「アンデッドが街に近づくようになったってよ」


 酒場からそんな声が聞こえた。

 ふん、アンデッドごときを恐れて、意気地がない事だ。

 古戦場に行けばもっと恐ろしい奴らがいるんだぞ。

 それを思ったら街に近づく弱いアンデッドなど屁でもない。


「ドラゴン山脈のドラゴンがおかしいって。叫び声を聞いた奴がいるんだそうだ。街まで来なければ良いんだが」


 ドラゴンの討伐隊を編制するには武器がいるな。

 大儲けの予感がする。


 良い事を考えた。

 呪われた武器の柄にお札を巻きつけて、鑑定偽装の札を重ねて、最後に革を重ねて巻こう。

 こうすれば呪われた武器を横流しできる。

 二束三文でしか売れないが、処理をしてくず鉄にするのより高く売れる。


 それに、呪われた剣にも名剣はある。

 こういうのは高値がつくだろうな。


「人を集めてくれ。計算が出来て文字が書ける奴にしてくれよ。なに、優秀でなくとも構わない」


 どうせ帳尻が合ったところで無意味な帳簿だからな。

 実態は裏帳簿にしか載っていない。


「声を掛けておきますぜ」

「上手くやったら、褒美としてムフフな酒場へ、飲みに連れって行ってやる」

「それは楽しみです」


「鑑定偽装の札を大量に欲しい」

「任せてくだせぇ。闇商人に調達させれば、ばっちりでさぁ」

「頼んだぞ」


 飲んで帰ると、部下が待っていた。


「飲んで来たのですか」

「昼飯のついでに1杯飲んだだけだ」

「新しく来られた方は、本当に有能なんですか。計算間違いが多過ぎて」

「良いんだよ。監査の元締めは私なんだから。私が許可すれば問題ない」

「帳尻が合いませんが」

「適当に項目をでっち上げて帳尻を合わせておけば良いんだよ」

「領主様の監査が入ったらどうするんですか?」

「心配するな。呪われた剣の処理に関係する書類は私が作成した。問題ない」

「そう言われるのだったら」


 どいつもこいつも使えない奴らばっかりだ。

 呪われた剣に偽装工作して、中古の剣として流した。

 かなり儲かったな。

 呪われた剣-50ぐらいの良い剣が入ってこないだろうか。


 私のやるべき事が多過ぎるな。

 ああ忙しい。

 これからは呪われた剣の偽装は、チンピラにやらせよう。


 今日はストレスが溜まった。

 仕事が終わったら、飲んで帰ろう。

 儲かったから、たまには散財もいいだろう。


 酒場に入った。


「旦那様、素敵ですね」


 際どい服装の酌婦が近寄ってくる。


「ちこう寄れ」


 酌婦を横抱きにして手を回した。


「まあ、手が早い」


 私は金貨1枚を酌婦の胸の谷間に差し込んだ。


「この後どうだ」

「性急過ぎますわ。少し話をしませんか。旦那様の職業を当てて見せましょうか」

「おう」


「お役人様ではないですか?」

「半分当たりだな。鍛冶ギルドのマスターだ」

「それは御立派な事で。さぞ仕事も大変でしょう」


「そうだな。クラフトという奴を使っていたが、こいつが悪党でな。使い込みが分かったので首にしてやった」

「そいつは悪党でございますね。それでどうしました」

「長年勤めた奴なんで首にして回状を回した」

「それは情け深い事で」


「奴は自分の罪を私になすりつけようとしたらしい。領主の役人が来て大変だった。もちろん穴埋めはしてある」

「盗人猛々しいですね」

「まったくだ。眠くなったようだ」

「まあ大変。旦那様がお疲れみたい。奥に寝かせてくださいな」


 私は夢現で奥の部屋のベッドに運ばれた。

 気がつくと朝だった。


 疲れていたんだな。

 眠ってスッキリした。

 近年ない目覚めの良さだ。

 女としっぽりとはいかなかったが、ストレスは取れたようだ。

 クラフトの悪口を言って少し気も晴れたしな。


 今日も元気に呪われた剣を偽装しよう。

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