第12話 夢、村での出来事

 懐かしい。

 村での記憶。

 どうやら夢を見ているらしい。


 夢は朝飯を食べ終わったところだ。


「食べたのなら食器を洗いなさい」

「嫌だ」


 子供だった俺は家から飛び出した。

 この展開には覚えがある。

 そっちには行くな。

 頼む行かないでくれ。


 俺は村を出て小石を蹴飛ばしながら、道沿いに歩いた。

 向こうから商人風の男が歩いて来る。

 この後の展開は知っている。

 最悪だ。

 頼む、頼むよ。

 口を利くな。


「おじさん、村へは商売に来たの」

「そうだよ。坊主教えてくれるか。村にはどのぐらいの人が住んでいる?」

「変な事を聞くね」

「人数に応じて仕入れを変えるんだよ。坊主にはちょっと難しいかな」


「知ってるよ。人数が多ければそれだけ食べ物を沢山食う。服だって沢山要る」

「で何人だ?」

「成人してる大人が126人。子供は158人」


 ああ、言ってしまった。

 今でも後悔の念が押し寄せる。


「助かったよ。村に行く必要がなくなった。じゃあな」


 ああ、最悪だ。

 この後の展開を見たくない。

 俺はしばらく遊んで家に帰ると、怒られて床下の収納に閉じ込められた。

 そして惨劇が始まった。

 悲鳴がそこらかしこから聞こえる。

 俺はわけも分からず震えていた。


 そして収納が開けられた時に事態を悟った。

 そこにいたのは盗賊だった。


「お頭、最後の一人を見つけましたぜ」


 盗賊に縛られて村の広場に行くとみんな殺されてた。

 お頭は商人のあの男だった。


「ぎゃひっ」


 遠くから盗賊の悲鳴が上がったのが聞こえた。


「ちっ、まだ生き残りがいたか。それも戦える奴が。おい、お前ら加勢しに行け」

「へい」


 加勢しに行った盗賊は誰も帰って来なかった。

 そして、彼女が現れた。

 キュウティナだ。

 長い赤毛を後ろで束ねて、真っ黒な皮鎧を着て、長剣を手にしてる。

 長剣から血が滴り落ちるのが見えた。

 久しぶりに夢で会ったが、キュウティナは釣り目の美人だ。


「くそっ、冒険者か。それも腕利きの」

「あんた達に賞金が掛かっているといいね」


 キュウティナは目を細めた。


「先手必勝。【剛力】」


 お頭の剣が振り下ろされ、キュウティナは剣でそれを受けた。

 キュウティナの剣が真ん中でポキっと折れる。


 助けないと。

 俺は縛られていたので、足で石を蹴って、お頭に向かって飛ばした。

 石はお頭に当たり、一瞬気が逸れる。

 キュウティナはその隙を見逃さなかった。

 半分しかない剣でお頭の首を斬り裂いた。


 上がる血しぶき。

 俺は血を被って気絶。

 気がつくと盗賊の残党は全て死んでいた。


 生き残ったのは俺を含めて6人。

 俺以外はみんな年頃の娘だ。

 しかも器量良しばかり。

 今なら理由が分かる。

 売り飛ばすつもりだったようだ。


「俺のせいだ。俺が余計な事を言ったから、村が襲われた」

「何を言ったんだい」

「村人の人数を喋ってしまった」

「気にする事はないさ。坊主が喋らなくても偵察に来た男が調べちまうよ」


「俺のせいだ。死にたい。死ぬぐらいの罰を与えてくれ」

「まいったね。そうか、そうすれば。折れた愛剣の代わりが欲しい。坊主が作ってくれない」


 キュウティナは頬をかきながらそう言った。


「それが俺の罰」

「違う、罰じゃない。助けた私に対する恩返しだ」

「恩返し」

「そうだ恩は返さなきゃいけない。死んだりしたらいけないよ」

「分かった。約束は守る」

「私はキュウティナだよ。Cランク冒険者さ」

「クラフト。鍛冶師見習いのクラフト」


 キュウティナは俺の頭を優しく撫で、俺は泣きじゃくった。

 そして、抱きしめてくれた。

 俺はキュウティナの暖かさを忘れない。


 何とも言えない気持ちで起きた。

 顔が冷たい。

 泣いていたらしい。


 枕元がびっしょりだ。

 寝汗をかいたのか毛布も湿っている。


 俺の罪は消えるものじゃない。

 でもまずはキュウティナさんへ剣を届けないと。

 恩を返すまでは死ねない。


 キュウティナは俺の作った剣を喜んでくれるだろうか。


「おはよう」

「おはようございます」

「おはよう」


 プリシラとビュティーヌが俺を起こしにきた。


「ちっ、寝てたら悪戯しようと思ってたのに」

「目が腫れてますけど」

「懐かしい人に夢で会って泣いてしまった」


「あんたでも泣くのね」

「夢で会えるなんてロマンチック」

「そんな良いもんじゃないよ。苦い思い出さ」


 さあ、恩を返すために今日も頑張るぞ。

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