第11話 呪い斬り
カウンターに並んだ。
受付嬢はビュティーヌだった。
見知った相手の方が商談し易い。
「アイテムボックスが欲しい」
「在庫を調べてきます」
しばらくしてビュティーヌが戻ってきた。
「それで相場はいくらなの?」
「金貨90枚で良いですよ」
「聞いてたより安いけど」
「この間、レイスとゴブリンキングの魔石を売りましたよね。あの魔石から10を超えるアイテムボックス作られて、在庫過多なんですよ」
「なるほど。じゃあ買うよ」
「ほんとうですか? やったボーナス確定」
「まあね。ギルドの口座から引いてくれる」
「はい」
手続きが済んで、腰に着けるポーチ型のアイテムボックスが手に入った。
カウンターに呪われた剣が載っている。
ふと思った。
呪いも斬れるんじゃないかな。
「鍛冶師なんだけど、呪われた剣を売ってくれない」
「いいですけど。捨てないで下さいよ」
呪われた剣を買って、ギルドの部屋を借りた。
-99になるまで合成する。
「斬。【鑑定】」
呪いを斬られた剣は+99の名剣になっていた。
「プリシラ、使うか?」
「呪われたりしない?」
「鑑定したが+99の名剣だぞ」
「使って、いいの?」
「ああ、いつでも作れるからな」
「あの、浄化って呪われたアクセサリーとかも出来ます?」
部屋の使用時間完了を告げに来たビュティーヌから、そう尋ねられた。
会話を少し聞いていたらしい。
「出来るよ」
部屋にお札を貼ったアクセサリーが運び込まれ、呪われたアクセサリーが次々に名品に生まれ変わった。
「きゃー、ボーナス確定よ」
ビュティーヌが嬉しそうだ。
受付嬢の視線が、もはや獲物を狙う肉食獣のそれだ。
男達の視線は、呪いを掛ける邪神のそれになっていた。
「斬」
うっとうしいので視線を斬った。
「あんた、容赦ないわね。勿体ないとは思わないの」
「あんたじゃなくて、もういい。思わない」
「そうなの」
プリシラがちょっと嬉しそうだ。
「そろそろ引き上げよう」
「そうね」
帰り道。
「剣を渡しに行くと言ったよな。アイテムボックスも買ったし、路銀もある程度ある。旅に出ようかと思うんだ」
「いつ行くの? 準備しないと」
「お前も一緒に来るのか?」
「私の事お前って。あんたってもしかして私に気があるの」
「プリシラの両親を基準にするなよ。ところで一緒に来るのか」
「行くわよ。ついて行く」
「何で?」
「何でって気になるからよ。あんただけだと、糸の切れた凧みたいに飛ばされてしまいそうだから。私が糸になってあげる」
「しっ、つけられている」
俺とプリシラは路地に隠れた。
追ってきた人物がきょろきょろと辺りを見回す。
それはビュティーヌだった。
「ビュティーヌ、どうしたんだ。またストカに追われているのか」
俺とプリシラは路地から出た。
「旅に出るのよね」
「どうしてわかった?」
「アイテムボックスを買う冒険者は遠征するからよ。ただクラフトの場合もう帰って来ないような気が」
「ビュティーヌには関係ないわよね」
「私をパーティに入れて。お願い」
「話によっては受け入れるけど」
「ええと、守られる自分が嫌なの。でも受付嬢を辞めて冒険者になるのは勇気がいる。あなた達と一緒ならその1歩を踏み出せる気がして」
「私は賛成も反対もしないわ。あんたが決めて。リーダーの役目よ」
「うーん、正直戦闘力は足りているんだよな。でも、いま求められているのは戦闘力じゃない。知識のような気がする。その点、ビュティーヌなら補える気がするんだ。俺はありだと思う」
「じゃあ決まりね。歓迎するわ。同じ目的をもった同士で、ライバルよね」
「ええそうね」
プリシラとビュティーヌの視線が火花を散らしたように見えた。
同じ目的?
二人とも1歩を踏み出すための勇気として俺が必要なのか?
それでもって冒険者としてのライバルか。
「まあ二人とも頑張れ」
「うふふ」
「うふふ」
「何か変な事を言ったか?」
「分かってないようね」
「ええ、手が焼けそう」
「きっとまだまだ増えると思う」
「そうね」
なんなんだ。
火花を散らしたり、通じ合ったり。
仲間外れ感が酷い。
でもどこか笑いが怖いんだよな。
呪いより怖い気がする。
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