第10話 ハゲタカ

 今日は街の西にある大草原に来ている

 いるのは主にホーンラビットとグラスウルフ。

 ホーンラビットは弱い。

 初心者でも楽々倒せる。

 だがいい気になって倒していると血の匂いでグラスウルフが寄って来る。

 Cランク推奨の狩場だ。


「私の活躍を見てなさい」


 プリシラは今日も元気だ。

 俺はこの狩場に魅力を感じない。

 神剣を使えば楽々倒せるが、肉と毛皮が採れないとうまみが薄いのだ。


 心臓だけを止めるなどという技は精神的に疲れる。

 プリシラの手に余るようならやるが、できるならしたくない。


 プリシラがジャンプして体当たりしてくるホーンラビットを剣で斬る。

 俺は周囲を警戒した。

 草原の草の中には背丈を超える物もある。

 見通しが良いようで悪い。


 グラスウルフは濃い緑色なので接近が分からない。

 注意してないと、不意打ちを食らう。


 グラスウルフの遠吠えが微かに聞こえる。


「来るぞ」

「任せなさい」


 見えない敵と戦うのは神経をすり減らす。

 どうやら囲まれたようだ。

 気のせいだろうか。


 草の間から、ちらりと動く物が見えた。

 白い色じゃなかったから、グラスウルフだろう。

 草原の草を神剣で全て刈り取ってしまいたい欲求に駆られる。

 そんな事をしたら、肉の供給が絶たれてしまう。


 俺はグラスウルフがいそうだなと思う空間めがけて、鞘付きの神剣で突きを繰り出した。

 草が飛び散る。

 闇雲じゃ駄目か。


「斬」


 回転斬りをして、周囲の気配を斬った。

 気配が斬れた所に敵がいる。


「突」


 突きを放つ。


「キャイン」


 当たったようだ。


「ずるい。なんで見えない敵をやれるのよ」

「気配を斬っている場所を確かめた」

「そんなの反則じゃない。その剣を私にも使わせてよ」

「駄目だ。この剣は彼女に使わせる為に作ったんだ」

「ケチ」


「場所を教えてやるよ。斬。そこの茂みに伏せている」


 プリシラが茂みに斬り込む。


「ウー」


 当たったが致命傷ではなかったようだ。

 グラスウルフが唸っている。

 プリシラは冷静に止めを刺した。


 俺が指示してプリシラが狩るという戦法は上手くいった。

 5頭のグラスウルフを狩ったので今日は終りだ。


「君達、ここは我々の狩場だ」


 冒険者に似つかわしくない服を着た男が現れた。

 ごろつきみたいな取り巻きを6人連れている。


「俺達の狩りは終わった。すぐに撤収するから、好きなだけ狩りをすると良い」

「では狩った獲物を置いて立ち去れ」

「何の権利があってだ」

「そうよそうよ。そういうのを横取りのハゲタカ行為って言うのよ」


「僕の事を醜い鳥扱いしたな。許さん。やってしまえ」

「へい。おう、やるぞ」


 取り巻きの6人が動き出す。

 殺すのはちょっとな。


「なに躊躇ためらってるの」


 殺されなければ死ぬか。

 命を捨てて生きているような俺だけど、こいつらにくれてやる義理はない。


「斬」


 俺は男達の気力を斬った。

 男達が呆けたようになる。


「おい、どうした。動け。命令に従え」

「無駄だよ。スキルで気力を奪った」


 スキルの仕業だという事にしておいた。


「降参する?」


 プリシラがわざとらしく構えを取る。


「ひっ。僕の叔父さんは、鍛冶ギルドのギルドマスターなんだぞ」


 ダサックの甥か。

 ろくでもない奴だな。


「腕の1本も貰っておくか」

「【霧爆】。後で覚えていろよ」


 霧が辺りに立ち込める。


「斬。どうやら逃げたようだ」


 気配を斬ってみたが、近くにはいないようだ。

 取り巻きの男達も後を追って逃げていく。


 早く皮を剥いだりしないと、グラスウルフがまた来る。

 5頭分の処理は時間が掛かる。

 俺は初めてなので悪戦苦闘。

 結局4頭の処理をプリシラがした。


「皮は全て持ってね」

「はいはい」


 水分が抜けてないので、5頭分の皮は凄く重い。

 街に帰ってこれた時にはへとへとになっていた。

 アイテムボックスの購入を考えるべきか。

 アイテムボックスは馬車1つ分の物が入る魔道具だ。

 金貨100枚ぐらいするはず。


 ゴブリンキングとレイスの魔石が金貨200枚ぐらいだった。

 整形で儲けた金が金貨30枚。

 俺の取り分でも買えるけど、路銀をまた貯めないといけない。


 プリシラに言うとどんな反応を示すだろう。

 そう言えば、剣を渡すとは言ったが、旅に出るとは言ってない。

 そろそろそういう事も、はっきりさせておくべだな。

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