第7話 整形

「ねぇ、何でも切り取れるのよね」


 冒険の休みの日に、宿に訪ねてきたプリシラがそう聞いてきた。


「たぶん」

「お腹のぜい肉を切り取って」

「痛いかもよ」

「平気よ」

「じゃやるよ。斬」


「うわっ、腹筋が割れている。ねぇ、二の腕もお願い」


 ずうずうしい奴だな。


「1回金貨1枚な」

「ちょっと、パーティメンバーには無料にしなさいよ」


 それもそうか。

 仲間内から金を取るのもな。


「仕方ないな」


 色々な物を斬らされた。


「ねぇ、これを商売にしたら儲からないかしら」

「剣の秘密はどうするんだ?」

「衝立の向こうから斬れないの」

「斬れるかも」


 プリシラが冒険者ギルドの会議室を借りた。

 次にどうするか見ていたら、カウンターに行き話し始めた。


「見て、クラフトに魔法で施術して貰ったんだ」


 プリシラがシャツをめくり受付嬢に自慢する。

 受付嬢もだが、男達の視線も飛んできた。

 そしてなぜか、男達の視線が俺に来る。

 若干憎しみがこもった感じでだ。


 げせぬ。


「私にもやって」

「勤務中だけどいいの?」


「いま早退するわ」

「ずるい私もよ」


「じゃあ、会議室で待っているわ」


 衝立に囲まれ待機する。

 覗き穴は作ってあるから、プリシラと客の様子は分かる。


「じゃあ、あなたから。どこの肉を取って欲しいの」

「あごの下を少し」


「斬」

「終わったわ。鏡をどうぞ」

「やったわ。色々試したけど上手くいかなかったのよ」


「次の方」

「私はお尻が大きいのが悩みなの」

「ストップ、脱がなくて良いから」

「でも脱がないと確認が出来ないわ」

「家に帰ってからやって」


「斬」

「済んだわ」


 客の女性は、お尻を手で触って満足げに頷いた。


「次の方」

「おっぱいが大きいのが悩みなの。少し小さくして」

「あなた、ある一部の女性を敵に回したわね。そんな乳などもげてしまえ」

「斬」


 もちろん手加減はしている。


「軽くなったわ。とっても快適」


 プリシラの客を見る視線がきつい。

 今にも呪い殺しそうだ。

 まあ頑張れ。

 牛乳を飲むといいらしいぞ。


「次の方」

「私はほくろが気になって」


 客を待たせて、プリシラが俺の所に聞きに来た。


「ねぇ、ほくろも斬れるかしら」

「痣とか染みとかもいけると思うぞ」

「これで付けたりできると完璧なんだけどね」


「それは無理だ。剣は斬るのが仕事だからな」

「残念」


 プリシラが客の元に戻る。


「出来るそうです。場所はどこですか」

「あのね。ごにょごにょ」


 俺にはごにょごにょが聞こえない。

 プリシラの顔が真っ赤になった。


「出来ません」

「ええー、そこをどうにか」


 渋々、プリシラが承諾。

 俺に場所を伝えに来た。

 なんだどうってことはないな。

 太腿の付け根じゃないか。


「斬」

「終わりました」


 客が脱ごうとする。


「ちょっと、確認は家でして下さい」

「ええー、詐欺だったらどうするのよ」


 覗き穴を塞ぎ、俺は後ろを向かせられ、目隠しをされた。

 大げさだな。

 そこまでする事もないのに。


「素晴らしいわ」


 客の満足した声が聞こえた。


 そして、色々な物を斬らされた。

 儲かったが、こんなの鍛冶師の仕事じゃない。


 仕事が終わり、受付ホールに行くと、受付嬢の熱い視線が俺に注がれた。

 男からは殺気のこもった視線が。


 神剣がなんかやっちゃいましたか。


「クラフト様、プリシラ様、共にCランクに昇格です。おめでとうございます」


 さっきの色々と斬ったのは依頼扱いになってたらしい。

 掲示板を確認したら常時依頼で、整形の依頼がある。

 俺ってFランクだったよな。

 一挙に3つも上がったのか。


 整形のポイントって高いんだな。


「この後のご予定は?」


 受付嬢がカウンターの向こうから、わざわざ出て来て聞いてきた。


「予定はないが」

「あるわよね。パーティミーティングが」

「プリシラ、何言っているだ。そんな約束してなかっただろ」

「してたわよね。忘れたの」


 プリシラの鬼気迫る目。


「ああ、してたな。ごめん予定があるんだ」

「そうですか。残念です」


 俺は脇腹をつねられた。

 何するんだ、痛いだろ。


「さて帰るか」

「さっさと行くわよ」

「どこに?」

「私の家へよ。家族に紹介したいわ」

「どうして?」

「だってパーティメンバーじゃない。命を預けているって事よね」

「まあそうだな。行くか」


 プリシラの家に行く事になった

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