第6話 査察
Side:ダサック
「ダサックどの、貴殿が横領していると通報があった」
執務室で仕事をしていたら、領主の使いからそう言われた。
くそっ、クラフトの奴、チクったな。
「何の事でしょう?」
私は惚けた。
「帳簿を見せて貰えんかね」
「分かりました。お持ちします」
帳簿を見せた。
証拠隠滅は完璧だ。
浄化したという僧侶にも金を掴ませているし、他所から買ったくず鉄を浄化した剣を潰した物だとしてある。
「済まなかった。不備はないようだ」
「いつでもお調べ下さい」
クラフトの野郎。
ただじゃおかない。
殺し屋を差し向けてやる。
私は繁華街の外れのあばら家に入った。
「殺しを依頼したい」
私は黒い衣装を身にまとった人物に話し掛けた。
顔も仮面で隠してある。
「ターゲットはどんな人物ですか?」
声を魔道具で変えているのだろう。
性別も不明だ。
「クラフトという名前で鍛冶師見習いだ。回状を回したから工房には入ってないはずだ」
「戦闘能力はどうです?」
「からきしだ。駆け出し冒険者にも負けるだろう」
「金貨10枚頂きます」
「高いな」
「値切りは受け付けません」
「仕方ない払おう」
「虚偽の情報があった場合はそれ相応のことをしてもらいます。よろしいですか」
「いいだろう。値上げでも何でもするがいい」
「では契約成立という事で」
Side:役人
ダサックが横領しているとの通報が入った。
査察してみると、帳簿上の辻褄は合っている。
僧侶に話を聞きに行った。
「ダサックの旦那の仕事ですか。もちろん受けてますよ。手が足らない時は仲間内に声を掛けて、浄化作業をしてます。何か?」
「いやなに。呪われた剣がどのような過程で、浄化されるのか気になってな」
「見ていきます?」
「見せてくれ」
木箱には、お札を貼った呪われた剣が無造作に入っている。
それを取り出すと作業台の上に置いた。
「いきますよ。【浄化】」
剣を光が包んだ。
黒い何かが出てきて身をよじった。
「しぶといな。【浄化】」
黒い何かは消えた。
「呪いの格が高いほど、手こずるんです」
「例えばだ。放置するとどうなる」
「呪いが染み出てアンデッドを引き寄せますね」
なるほど処理したと嘘を言っても、アンデッドの騒ぎでばれるわけか。
「邪魔をした」
次に行ったのは、鍛冶屋だ。
「ダサックの旦那からのくず鉄ですか? もちろん、買ってますよ」
「おかしくなかったか?」
「浄化してないのが混ざったりしてませんし、いい仕事してますよ」
「ほう、浄化してないのが混ざる事があるのか」
「ええ、呪われた剣に等級があるのは御存じで」
「知っている」
「浄化1回じゃ駄目な場合があるんです。途中で辞めると呪いが残る」
「ほう、そういうのが混ざるのが普通なのか」
「人間のやる事ですからね。ミスはあります。その点、ダサックの旦那は見事です。鑑定してチェックしているんでしょうな」
「参考になった」
次に行ったのはダサックが行く飲み屋。
「ダサックの旦那ですか。よくみえますよ。羽振りが良いんで助かってます」
「ほう、そんなにか」
「ここだけの話ですが、酌婦に金を払うといろいろと出来るんですよ」
「それぐらい知っている」
「ふつう値切ったりするものですが、ダサックの旦那はそりゃもう言い値で。その分サービスはよくしてるそうですが」
「邪魔したな」
色々ときな臭い事だ。
何かカラクリがあるようだが、分からん。
証拠はないし、逮捕する事も出来ん。
今は情報を集めるべきだな。
「影を呼べ」
領主の城に帰ってから暗部の人間を呼んだ。
「お呼びですか」
今回、手隙なのは蝶だったようだ。
蝶というのは仲間内の偽名だ。
本名は領主様以外、誰も知らない。
妖艶な雰囲気を身に纏っている。
「いつみても綺麗だな」
「御冗談を」
「冗談ではないがな」
「でも一度も夜の事で私を誘ったことはありませんよね」
「毒がある蝶だからな。私とて扱いは分かっている」
「仕事の話をどうぞ」
「ダサックという男を探れ。金回り良いのが気にやる。どうやって金を得ているか調べれば、ボロが出るだろう」
「では調べて参ります」
これで良いだろう。
何か掴んでくるはずだ。
叩けば、ほこりが出そうな奴だからな。
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