第5話 護衛依頼

「ビュティーヌ、なんで昨日来なかったんだ」

「ストカ、私に近寄らないでって言ったでしょ。職場まで押し掛けて、迷惑だわ」


 受付嬢と男が揉めている。


「なんで僕の愛を分かってくれないんだ」

「始終付け回すような男は嫌いって、何度言ったら。それに私が他の男と喋ると、文句言ってたよね。受付嬢なんだから、当たり前でしょ」

「僕の方が当たり前だろ。君は僕だけに、微笑んでくれれば、良いんだ」

「とにかく、今日は帰って」

「分かった帰るよ」


 ストカは去って行った。

 ビュティーヌが凄い勢いで何かを書いた。

 そして、すくっと立つとカウンターの後ろか出て来て、依頼掲示板に紙を貼った。

 新しい依頼かな。


 みると『男につきまとわれています。護衛をお願いします。報酬は一日銀貨3枚。依頼人ビュティーヌ』とある。

 プリシラが依頼書を剥がした。


 俺がプリシラを見ると。


「なに、文句あるの。いいからやるのよ。女の敵は許せない」


 冒険者やるなら、護衛依頼もやらないといけないだろうし、まあ良いか。


「受けてくれるの。安いのに」


 依頼書をビュティーヌまで持っていったら驚いた様子でそう言われた。


「プリシラが許せないんだって」

「カップルの冒険者で助かったわ。男だとお風呂とか一緒に入れないし」

「プリシラよ。よろしくね」


 ビュティーヌの仕事が終わるまで冒険者ギルドで待つ。

 斬れぬ物なしの神剣だけど、守るのは苦手だ。

 不意打ちされたら、対応できない。


「お待たせしました」

「じゃあ、行きましょ」

「ちょっと待った。ビュティーヌ、そこに立って」

「これで良い」


「斬」

「ちょっと何を斬ったの」

「空間をちょっとね。プリシラ、ビュティーヌに何か投げてみて」


 プリシラが銅貨を投げる。

 銅貨はビュティーヌを突き抜けて床に落ちた。


「凄い。無敵じゃない」

「欠点があるんだ。ビュティーヌから攻撃が出来ない」

「些細な事ね」


「じゃあ行こうか」

「はい」

「そうね」


 下宿まで、ビュティーヌを俺とプリシラで挟んで、歩いていく。

 俺は後ろ歩きで、プリシラは普通に前を向いて歩く。

 これはプリシラに教わった。

 前後を警戒しながら歩くのが通なのだとか。


 どうでもいいけど、歩きにくくて疲れる。


 下宿までは何も無かった。

 この後の予定は風呂屋だけだな。


 風呂屋までの道も問題なかった。

 精神をすり減らす依頼だな。

 集中力との勝負だ。


 女湯には入れないので、男湯に入る。

 ふぅ、一息つける。


「きゃー」


 女湯から悲鳴が上がる。

 敵か。


 俺は神剣を持って女湯に飛び込んだ。


「きゃー、男よ」

「敵はどこだ?」

「ゴキブリ」


 プリシラが真っ赤になって言って、壁を指で差す。

 貧相な体だな、もっと食わないといけないぞ。


 プリシラは更に赤くなった。

 指の先には黒い奴がいた。

 俺はタオルで奴を叩いた。


「ちょっと、前を隠しなさいよ」

「斬」


 映像を斬った。


「これで見えないはず」

「見えないはずじゃないわよ。早く出て行きなさい」


 失敬な、たわわに実った果実などに興味はない。

 男湯に戻って、映像を斬った跡を斬った。

 元通りだ。


 帰り道、風呂場の一件からプリシラの機嫌が悪い。


「見た?」

「貧相な体だったら見てないぞ。あぶしっ」


 プリシラに叩かれた。


「見てるじゃない。忘れなさい、忘れろ」


 キュウティナさんの顔を思い浮かべる。


「ああ、忘れたぞ」

「ほんと?」

「本当だ」

「信じるからね」


「いちゃいちゃが羨ましい」

「「いちゃいちゃしてない!」」


「息がぴったりね。私も早く素敵な彼氏を見つけたいな」


 カードが飛んできた。

 いったいどこから。

 カードには僕がいるじゃないかと書かれていて、ビュティーヌの裸を見たお前は殺すとも書かれている。


 ビュティーヌが息を飲んだ。

 顔が真っ青だ。


「監視されている」

「そうね。たぶんスキルだと思う。千里眼かな」


「斬。千里眼の視線を斬った」


 そうこうしているうちに下宿についた。

 プリシラは一緒に寝るようだ。

 緊急の時に知らせる魔道具を渡して、俺は宿に帰った。

 俺の方に襲撃してくるかな。

 魔道具が光る。


 くっ、あっちに行ったか。


「斬」


 俺は距離を斬った。

 瞬く間に下宿に。

 そして、階段を駆け上がり、部屋に入る。


「何で僕を受け入れてくれない。こうなれば一緒に死ぬしかない」


 修羅場の真っ最中だ。

 それにしても気持ち悪い男だな。

 そうだ。

 神剣を試してみよう。

 ストカのビュティーヌとの繋がりを斬る。


「斬。斬」


 俺は神剣を鞘付きで2回振った。


「あれっ、僕は何で君を愛してたんだっけ。済まなかった。僕の愛が冷めたようだ」


 ストカは踵を返すとすたすたと歩いて出て行った。


「あんた何やったの?」

「あんたじゃなくてクラフトな。ストカの未練を断ち切ったのさ。それと千里眼のスキルを使えなくした」


 俺はプリシラに耳打ちした。


「そんな事も出来るのね」


「ありがと」


 ビュティーヌが俺に微笑んだ。


「何もしてないさ。ストカの気が変わっただけだろ。これで依頼達成だな」

「あんな男、始末してもよかったのに」


 憤慨した様子のプリシラ。


「殺しは不味いだろ」


「そうね。刃物でも出してくれば、正当防衛が認められるけど」


 とビュティーヌ。


 なんとなくすっきりはしないが、とにかく解決だ。

 ストカはまたやるような気がするが、その時はもっとキツイお灸を据えよう。

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