第3話 不法投棄

Side:ダサック

「おい、新入り。呪われた剣だ。ちゃんと保管しておけ」


 私は呪われた剣が入った木箱を新入りに渡そうとした。


「あの、仕事辞めます」

「根性の無い奴だな。何が不満だ?」

「倉庫にゴーストが出るんですよ」

「何だって!」


 様子を見に倉庫に行くと、黒い霧の塊がいくつか浮いている。

 くそっ、僧侶に頼むと出費がかさむ。

 この倉庫は封印しよう。


「何でこんな事に」

「ほらゴーストいるでしょ」

「お前は首だ。回状を回すからな」

「横暴だ」


 もういい。

 呪われた剣は俺が何とかするしかない。


 クラフトも捨てたんだ。

 俺が捨てて何が悪い。


 どこに捨てる?

 穴を掘って捨てても、お札の効力が切れれば、アンデッドを惹き付ける。

 露見する可能性が大だな。

 そうだ古戦場だ。

 あそこに捨てれば呪われた土地だから、誰も気にしない。


「ダサックの旦那、今日はどんな汚れ仕事で」


 私は薄暗い酒場で子飼いのチンピラからそう尋ねられた。


「荷物を運んで捨ててくるだけの簡単な仕事だ」

「荷車が必要ですかい」

「ああ、用意しろ」


 荷車に呪われた剣を山と積む。

 布を掛けて見えないようにして、献上品と書いた旗を立てた。


 私は子飼いのチンピラと古戦場を目指した。

 古戦場近くの森に入る。


「薄気味悪いねぇ」

「仕方ないだろ。呪われた剣を捨てる場所はここしかないんだから。文句言わずに荷車を引け」


 森は静まり返って、不気味だ。

 積まれた呪われた剣がカタカタと音を立てる。

 揺れているから音がするだけだよな。


「道がありますぜ」

「ちょうどいい。あそこを通れば近道だ」

「へい」


 真っ直ぐな道を行く。

 灰色の骨のスケルトンが現れた。


「ひっ、来るな」

「旦那、スケルトンはこの道に入って来られないようですぜ」

「本当だ。この道から外れるなよ」

「わかってまさぁ」


 古戦場に到着した。

 古戦場は黒い霧で覆われていて、見るからに呪われそうだ。

 スケルトンが寄ってくる。

 だが、道はまだ外れてなかったようで、スケルトンは道との境界でカタカタと頭蓋骨を鳴らすだけだった。


「旦那、森なら道の区別がつきやすが、荒れ地ではさっぱりですぜ。どうしやす」

「こんな事もあろうかと、ビーコンの魔道具を持ってきた」


 古戦場の中は異界になっていて道に迷うと言われている。

 その対策のために持ってきたが、予想外のところで役に立った。

 やはり私は有能だな。


「どう使うので」

「まあ見てろ」


 道を少し退き返して、ビーコンを2箇所に設置する。


「こうして2箇所に設置するとだな。ずれた時に分かる。3角形になったら駄目だ。直線でないとな」

「賢いですね。でもこの方法だと離れれば離れるほど、効き目が薄くなりゃあしませんか」

「だから、少し進んだら設置する」


 ビーコンを設置しながら進んだところ、人型の黒い霧が寄って来た。

 呪いの余波が触れられていなくても分かる。


「ひっ」

「レイスですぜ。初めてみやしたが、おっかねぇことで」


 荷車に山と積まれた呪われた剣が、唸り声や泣き声を奏でてる気がした。

 だが、気のせいだよな。

 ローブを着たスケルトンが、こちらを見た。

 そのスケルトンの眼窩には燃え盛る青い火が埋まっている。


「ありゃなんです」

「知らん」

「恐ろしい奴ですねぇ」


 この辺で良いだろう。


「とっとと捨てて、ずらかるぞ」

「へい」


 荷車から、剣を投げ捨てる。

 私が呪われてないだろうか。

 帰ったら鑑定してもらわないといけないな。

 自分自身を鑑定出来ないのが恨めしい。


 呪われた剣を無事投棄して、鍛冶ギルドに帰って来れた。


「おい、私を鑑定しろ」

「はい、【鑑定】。スキルとレベルを読み上げますか」

「呪われているのか、いないのか、早く言え」

「呪われてはいないようです」


「シャワーを浴びてくる」

「書類が溜まってますが」

「うるさい。適当に判子でもなんでも押しておけ」

「できません」

「もういい。お前は首だ」


 後任は子飼いのチンピラを入れよう。

 奴にはこれからも廃棄に行ってもらわないと。


 仮眠室に併設されているシャワールームで汗を流した。

 ふう、さっぱりした。

 アンデッドの穢れが落ちたようだ。


 このビジネスは美味しいな。

 領主からは処分料を貰っている。

 呪われた剣を捨てるだけで、それがまるまる手に入る。


 高い金を出してギルドマスターの地位を買ったのだから、これぐらいの役得がないとな。

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