無能判定
とにもかくにも魔力を羊皮紙に流さなければならないわけだが…、まぁ悩んでいても仕方がない。いっぺん試してみよう。
まず体中に魔力が駆け巡っているのを想像して、そこに意識をゆっくりと……おぉ?なんか感じるぞ。これが魔力ってやつか?
んで、今度はその流れ方を少し変えて…、羊皮紙にも循環するように……、思っていたよりもすんなりといけたな。
羊皮紙に文字が浮かび上がってきた。あぶり出しみたいな現れ方だな。こっちのほうが断然早いけど。
すっげー緊張するな。頼むからここでスキルなしとかはやめてくれよ。……いや、待て。ここで俺が無能と判定されたら当然戦力は期待できないわけだからひょっとして自由の身になれたりとかは…、それは楽観視し過ぎか。必ずしもそうなるとは限らないし、どっちみちこの先生きていくためには何らかのアドバンテージがあったほうがいいよな。
まぁ、ほどほどであれば問題ないだろう。さて結果は……、
この一行だけが書かれていた。
……、……。
いやー、短くていいね。ラノベとかじゃご丁寧にびっしりと主人公のステータスとかいっぱい書かれてる場合があるけどあれまず読まんわな、少なくとも俺は。読んだとしても流し読みするぐらいだ。(※あくまで彼個人の意見です)
それに比べて俺のはわずか一行。とても見やすくて、い…い……、ちょい待て。これまさか一個だけってことか?
いや、でもあれだ。スキルは一個だけでもすっげーチートスキルって場合もある。右横に謎のクエスチョンマークとかあるし、結構高性能なんじゃないか?
……、どうでもいいけどスキルって紙に書くときは漢字二文字なんだな。って、あれ?この文章日本語じゃねーか。異世界でも日本語が使われるのか?
そういや今更だけど魔王たちともさっきまで普通に話ができたよな。
とりあえずこの件は後で検討するとして、今確認しなければならないのはスキルだ。
今度はスキルの詳細が浮かび上がるようにイメージして魔力を通すと……、おっ、さっきの文章が消えて新しい文章が現れたぞ。
さて、
例;回数限度が二回の場合
あるアイテムに二回使用したとしても、使用回数はアイテムごとにカウントされるため、別のアイテムに二回使用すること可能である。
その後、回数限度が三回に昇格した場合、すでに二回使ったものに対しても再び
現在の回数限度:一回
ふむ……、個人的には意外と悪くない効果だな。本来一度しか使用できないものが二回以上も使えることになるわけだから。うまく使えばかなり便利な生活を送れるんじゃないか?最終的に上げられる回数限度がどれくらいなのかは分からんが、上がっていく限りは一度限度に達してもまた使えるってことだし。まぁ一回でも十分儲けもんだ。
ちなみに横のクエスチョンマークについて調べようとした結果、「???……、」と文章すべてがクエスチョンマークだった。すっげぇ気になるな…。こういうのってかなり特別な何かを表しているのが普通だからぜひとも知っておきたい。
「ワタル殿、確認はできたのか?」
「……えっ?あっ、はい。こちらにございます」
あっぶねー。ちょっと自分の世界に入りかけとったわ。もう少しで無視するところだったぞ。……、ところで俺の敬語ってどこか間違ってたりするのかな。自信無いんだが。
羊皮紙がたぶん宰相だと思う男から魔王へと渡された。一体どんな反応をするんだ?
「……、ワタル殿、これはそなたの世界の言語か?」
そう言って羊皮紙の表をこちらに向けた。
「?はい、それは
「……、あぁ、我がうかつだったな。すまぬがこの国の言語に書き換えてもらおう」
えっ?いやいやいや。この国の言葉なんて知らないんですけど。
「召喚した者とされた者の間には一種の繋がりが生じる。ゆえに、少し刺激を与えれば我々が知る言語はすべて読み書きができるようになるはずである。…あぁ、心配は無用だ。刺激を与えるとはつまり、我々が使う文字を見せるということだ。実際そなたと我々は問題なく意思の疎通ができている。それはこちらが話しかけるという行為が刺激となり、ワタル殿が自然と我々の言葉で話すことができるようになったためである。…逆に、ワタル殿の言葉を見ても我々には全く読めぬようだが」
えっ、そういうことなの?そういわれてみれば確かにこのおじいさんの口の動きからして日本語はしゃべってないように見えなくもない。読唇術とかやったことないからあくまでそんな気がするだけだが。
で、一方俺の方は明らかに口と舌が日本語を話す時とは全く違う動きをしていた。違和感がなかったから全く気付かなかったんだよな。よくよく精神を集中させるとテレビの二か国語放送みたいに日本語と別の言語がほぼ同時に聞こえる。実際に口で発しているのは異世界の言語だが脳内では日本語に変換されていることによるものだな。
でもそれなら納得はできる。せっかく召喚しても意思の疎通ができなければ不便どころの話ではない。おそらく召喚の術式とか何かにそういった問題を解決するためのプロセスが組み込まれているのだろう。
なんてことを考えている間に、魔王が紙にさらさらと羽ペンで走り書きをし、それをさっきの羊皮紙と一緒に渡された。この宰相さん行ったり来たりで大変だな。距離的には別にそれほど遠いわけでもないが。
一瞬だけそこに何が書かれているのか分からなかったが、あっという間に読めるようになった。しかもここには載っていない単語でさえ、日本語のどれに当たるのかが理解できた。あたかも最初から知っていたかのように。
『ここに書かれている内容が理解できたら、右手で左耳に触れよ』
えーっと、これでいいのかな?早速その通りにし、すぐに手を離した。なるほど、本当に分かっているのか確認するには手っ取り早い方法かもな。
それにしてもこれは本当にラッキーだな。序盤で読み書きに苦しむ主人公とか割といるからひょっとしたら自分もって考えていたんだが。
再び羊皮紙に自分のスキルを浮かび上がらせた。今度はラプトレア王国の言葉でだ。のちに、これが他国でも使われている共通言語であると知った。うん、やっぱり何度見ても
それにしてもこれどういう仕組みなんだ?ちょっと魔力通しただけでスキルがわかるだなんて。いや、深く考えちゃダメだろってつっこまれるかもな。ちなみに偽装とかってできんのか?ちょっと試してみるか。
……、あぁ、やっぱり駄目みたいだな。《
「そろそろ文字が現れたのではないか?」
おっと、待たせてる。
「いえ、もうしばらくだけお待ちください」
とっさにそう言ってしまったが、もう特に確認したいと思っていることは特にない。多分この紙は自分が本当に持っているスキルの一覧やその詳細を知ること以外は何もできず、そう簡単に偽装できるようなものではないのだろう。
……、……ん?待てよ…。
俺は再び羊皮紙に魔力を流した。
おぉ!成功だ。
自分の仮説が正しかったことに思わず笑みがこぼれそうになったが、それを抑えながらずっとそばで待機していた宰相さんに渡した。お待たせしてすんません。
なんかこの人にはさん付けとかしたくなるんだよな。なんとなく苦労人って気がする。偉い人のそばに仕えてたら色々大変なのは当たり前だけど。っておいおい、見た目だけで親しみやすさとか判断したらダメだろ!世の中には見た目と中身がっまたく違うやつらなんてわんさかといるんだから。
この宰相は何が書かれているのかを見る様子はない。目上の人よりも先に読んではいけないとかそういうものだろうか。
さて、これは一か八かの大博打といっても過言ではないかもな。なんせさっき俺がやったことは場合によっちゃ自分の人生を終わりにしかねない。それでも……、俺は勝負に出ることにした。
魔王が再び羊皮紙に目を通し、今まで感情を読み取りにくかった表情から一転、明らかに驚きを隠せていなかった。
まぁそれも無理のないことだ。なぜなら……
「……、《
そう、それが答えだ。
勇者として召喚された男だ。一つぐらいチートなスキルを持っているだろうと期待していたのだろう。実際、チートかどうかは判断しづらいが少なくとも俺にとってはいいスキルが手に入った。
スキルを偽装することは少なくとも今の俺にはできないことは確認済み。…いや、これも十分偽装に入るけどな。
最初は『なし』にすることができなかった。これは事実と異なることを浮かび上がらせようとしたからなんじゃないかと思う。
じゃあ俺はいったい何をしたのかというと……、
横に【????】が付かないスキルだけ現れるよう念じた。たったそれだけだ。
俺は
正直うまくいくとは思っていなかった。(条件に一致する)という表記まで出てくる可能性もあったし。
ともかく、スキルだけで判断するなら俺は羊皮紙に無能判定されたということになる。これだけ見れば何も持っていないのだからな。
この結果を踏まえ、魔王たちがどのような判断に至るのか。
あとは期待通りの展開になるよう願うしかない。
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