第32話 プレゼント選び
俺はアーノルドと一緒にお店を回る。
「くそ。今度の日曜のリリ生誕祭には何をプレゼントすればいいんだ?」
「こういう丈夫そうな服なんかどうだ?」
「それなら防弾ジョッキの方がいいんじゃないか?」
「それだ!」
「『それだ!』じゃないわよ。それに衣服はあまりあげるものじゃないわ」
「おおー! さすが女の子」
「ふふーん。わたしにまっかせなさい」
ドンと胸を叩くメイリス。
「じゃあ、どういうのがいいんだ?」
アーノルドが
「ぬいぐるみ、とか?」
「でもリリの部屋には一個もぬいぐるみないけどな」
ぐさっという音が聞こえた気がするが、気にしない。
「ぬ、ぬいぐるみの嫌いな女の子なんていません!」
顔を真赤にして答えるメイリス。
そんなこんなでぬいぐるみの売っているファンシーショップに来たのだが、女子ばかりで屈強な男二人が入っていい雰囲気ではない。
なんだか店内がピンク色な気がするし。
「ほら男二人も入る」
「お、俺たちが?」
幾多の戦乱をかけてきた俺とアーノルドだが、ここまで尻込みをするのは珍しいだろう。
判断が鈍るのも無理はない。
脂汗を浮かべながらメイリスと一緒に店内に入る。
メイリスという仲間がいなければ絶対に入れないのだ。
そこで店内を探し回る俺たち。
すると店内奥にあるぬいぐるみエリアを見つける。
「……」
「これなんかいいんじゃない? ゼニチュウ。今人気の作品のキャラよ」
「……なるほど。これに監視カメラと盗聴器をつければ寝ている間も身辺警護に使えるな!」
「なるほど。効率的な護衛方法だ」
「わたしがバカだった」
項垂れるメイリス。
「これはギューッと抱きつくためにあるの!」
「なんで?」
「意味ないな」
「この二人、予想以上にバカだわ!」
メイリスが声を荒らげるものだから注目を浴びてしまう。
ぬいぐるみ選びは唐突に終わりを告げて、次を探し始める。
「無難にお菓子にしよう!」
メイリスの提案にコクリと頷く俺とアーノルド。
「あそこの苺のタルトが有名よ。今から予約しておかないと!」
「待て。毒見はどうする?」
「そうだな。毒でも混入されたらひとたまりもない。なら自作するか?」
「だめだ。あの品を完成させるまで何年かかる」
「ちょっと! なんでそういう話になるのよ!」
メイリスが泣きそうになりながら俺たちを引っ叩く。
「じゃあどうするんだよ」
俺は腫れた頬を冷やしながら尋ねる。
「むしろ、何なら喜ぶと思っているの!?」
「ミドリムシクッキーとか?」
「なんで非常食になるのよ」
非常食以外でもうまいと思うんだがな。
「何を言っているんだ、ブラッド」
突然の裏切りを見せるアーノルド。
「そうよ、アーノルドも言ってやりなさい」
「それなら昆虫食だ。今の時代はSDGs。コオロギなら繁殖も難しくない」
「あんたらバカなの!?」
今日何度目かの罵りを受ける俺たち。
「そんなに怒っていると血圧あがるぞ」
「誰のせいだ。だ・れ・の!」
メイリスはあからさまに怒っている。それもアーノルドが火に油を注いだからにほかならない。
「あー。分かった。手袋とかどうだ?」
「お。いいアイディアなの!」
俺の提案に乗り気なメイリス。
「防刃の! あれなら白刃取りができるぞ」
「一ミリでも期待したわたしがバカだった!!」
「えー。ロマンじゃん。白刃取り」
「知らんがな……」
まるで疲れたと言いたげなため息を吐くメイリス。
「なら指輪かな」
「え!?」
「どういうことだ? ブラッド」
「ルビーやサファイヤなどの宝石には魔力に反応するだろ?」
「なるほど。魔法の媒介として使えるな」
「そうだ。実用的だろ?」
「いい案だな」
「……ま、虫よけにはなるか……」
メイリスも渋面を浮かべならも一応は納得しているらしい。
「虫除け? 魔力の増大が目的だぞ?」
「あーはいはい」
めんどくさそうに振り払うメイリス。
王様の家系は魔法を使えることが多い。ならもちろんリリも魔法を使えるということだ。
使ったところを見たことはないが。
まあそれでも魔力探知になるし、防衛できる。
これは画期的なアイディアかもしれない。
脳が震えるほどにぴったし決まった!
「で。どこで売っているんだ?」
俺たちはとても立派な外装をしたお店に辿り着く。
おずおずと店内に入ると、店員が話しかけてくる。
「いらっしゃいませ〜なにかお探しですか〜?」
ずいぶんと呑気そうな声音で尋ねてくるな。
「あールビーの指輪を買う」
「決定事項なんだ……」
メイリスは困ったように苦い笑みを浮かべる。
「こちらになります〜」
店員が実物を持ってきて受付の椅子に案内してくる。
「ほう、なかなかの上物じゃないか」
アーノルドがその宝石を見て呟く。
「そうみたいだな」
「お気に入りでしたらさっそくお買い上げしますか?」
店員はどこか不安げな顔をする。
実は俺とアーノルドが貧相な服で入ってきたからなのだが、気がついているのはメイリスだけ。
「失礼ですが身分証のご提示をお願いします」
「けっこうセキュリティに厳しいのか。良いポイントだ」
そう言いつつポケットから身分証を差し出す。
「……ありがとうございます。念のため番号を控えさせて頂きます」
ちょっと困ったように言う店員さん。
「では、金額がこれくらいで、何回ローンで組みますか?」
店員さんは電卓を差し出してローンの提示をしてきた。
「いや、一括払いで」
そう言ってブラックカードを差し出す俺。
「へっ!?」
店員さんは目を瞬き、次の瞬間には申し訳なさそうな態度をとる。
「か、かしこまりました! すぐに手続きをします」
店員は目を見開く。
「サイズはどうなさいます?」
「え。俺はわからないよ」
「だからアホなのよ。リリ王女殿下さまは八号だよ」
「王女殿下とお知り合い!? やはりお忍びで……」
店員さんの顔が青ざめていく。
カタカタとキーボードをたたきすぐに支払いと受け取り手続き、それに保証書などを用意する。
ルビーの指輪だが、丁重に箱に収められて用意する。
「どうもありがとうございました!」
そう言って店外まで出て頭を下げる店員さん。
「しかしブラックカードなんて持っていたんだな。ブラッド」
「ああ。生まれてこのかた、ずっと軍人だったからな。金に困ることはない」
「それもそうか」
柔和な笑みを浮かべるアーノルド。
ホッと一息つくメイリス。
「だが二人のおかげだ。こうして無事プレゼントが買えた」
俺は二人に対して頭を下げる。
「ありがとう」
「いいんだ」
「そうよ。わたしたち戦友じゃない」
アーノルドとメイリスは俺の肩をポンポンと叩く。
「そ、そうだな。ありがとう」
これから明後日にはリリ爆誕祭が行われる。
そこで十四歳になったリリを祝う式典がある。そこでプレゼントする予定だが、婚約者としての威厳を保てなくては終わる。
「じゃあこれで解散だな」
アーノルドがそういうと雑踏の中へと消えていく。
「ちょっと時間をもらってもいい?」
身長差のあるメイリスが上目遣いでそう尋ねてくる。
「ああ。構わないが……」
「ちょっと洋服選び付き合ってよ」
「いいぞ」
そう言って俺とメイリスが衣服店に入る。
そこには色々な洋服が売られており、それを試着するというメイリス。
俺は更衣室の前でスマホをいじる。
「じゃーん! 童貞を殺す服!」
そう言いながら際どい服を着るメイリス。
「そんなけしからん服はだめだ」
そう言いつつも胸元のハート型の切れ込みや背中が大胆に開いている姿を見て顔が紅潮する。
「じゃあお次はバニー衣装!」
うさみみと丸い尻尾が特徴のバニーガール衣装。
「けしからん!」
そのあとも巫女服やメイド、地雷系など、何枚か選び結局は白のブラウスと黒のスカートで落ち着いた。
だが少し残念な気持ちが残っている。
俺はやはり男らしい。
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