第30話 魔法と科学と。

 仲間の断末魔を聞き、俺は声を荒げる。

「場所はどこだ?」

『B3エリア!』

 今いるのがB2エリアか。すぐ近くである幸運に感謝すると共に亡くなった仲間を悼む。

 走り出して、敵兵のいる寄宿舎に向かう。

 五分後、俺は抑え込んでいた敵兵と顔を付き合わせる。

 筋骨隆々で大男と呼ぶにふさわしい男がいた。

 逆立った金色の短髪で、サングラスをかけている。

「紅蓮を纏え!」

 そう言うと、男から火球が生まれる。

 なるほど。魔道士か。

 俺は距離をとり、アサルトライフルを撃ち放つ。

「うら!」

 火球を撃ち放つ大男。

 よく見ていれば、火球の進路は想定できる。

 じりじりと後退しながら、アサルトライフルを撃ち放つ。

 火球で銃弾を溶かし、消し去るが、それでも攻撃は止めない。

 こちらがと気づかれないためにはこうするしかない。

 弾がなくなると、持っていた予備の弾倉マガジンを詰め替える。

 そしてまた撃ち放つ。

「その程度の砲撃ではこのボギー落ちぬは!」

 火球を盾にして詰め寄ってくるボギーとやら。

 撃ち放った攻撃は全て無へと返す。

 だから魔法は嫌われる。

 特定の人間がこのような力を持ってはいけないのだ。

 それもこれも、七十年前の核攻撃の影響だ。

 核による放射汚染は人の遺伝を変換させた。

 その影響で、人は〝魔法〟という異物を手に入れた。

 それまであった理屈や理論ではとうてい理解できない存在が、人を混乱させ、幾度もなく戦乱を引き起こしてきた。

 そこで産まれたのが魔法を、それを使う魔道士を讃える魔導教会と、封印するべきと考え魔法の事柄を全て葬り去る科学革命連合共和国の二つに世界は割れた。

 前年ではこの科学革命連合共和国――通称、連合が力を発揮し、科学的な力で魔法を退しりぞいた。

 それは各国首脳が同意したはず。

 ちなみにヘイリスは魔導教会側の人間であった。

 そんな相対する二つの派閥は世界に混乱と戦果をもたらした。

 人類は新王歴129年になっても未だ争い続けていたのだ。

 それも人の本能がそうさせているのだろうか?

 理屈は分からない。

 分からないが、それが事実だとしても、俺は理想を追い求める。

 人には平和を望む心があると信じて。

 パリンとガラスが割れ、降り注ぐ。

 俺は回避して建物から飛び出る。

 と、ボギーはガラスを火球で溶かす。

「今だ!」

 その隙を狙い、銃弾を浴びせる。

 が、すぐにかき消される。

「貴様の負けだ。大人しく投降しろ」

 ボギーは常人なら側頭そくとうしそうな強面こわもてな顔で睨んでくる。

「それはこっちのセリフだ。行け、メイリス、ルナ!」

 声を上げると、ボギーの後方高台三百の距離から狙撃するルナ。

 そして、脇腹を狙いマシンガンを撃ち放つメイリスの姿があった。

「ぐぁぁぁあぁ」

 ボギーはその銃弾をかわしきれずに肉体に浴びることとなる。

 くずおれるボギーは落ちていく火球と一緒に溶けていく。

 自分の顔面に火球が落ちたのだ。

 溶け落ちていく顔面。

 チリチリと肉を焼く匂いが辺りに立ちこめる。

「当分焼肉はいけないな……」

 そう呟き、ルナとメイリスに声をかける。

「ありがとう」

 目をパチパチと瞬くメイリスとルナ。

『あはははは、あんたが礼を言うなんて、明日は雨か、雪かもね』

「ルナ。黙れ」

『はーい』

「でもホント、どうしちゃったのよ?」

 メイリスは駆け寄ってくる。

「……いやなんとなく、な。こうして生きている間は言いたいことを言えるけど……」

 俺はボギーとやらに殺された二人を見やる。

 アランとビリーを見やる。

「あー。分かるかも。いつ死ぬか分からないから、余計に素直な気持ちを言わないといけない気がするんだよね」

「まあ、お前は明るいから言葉にできるのだろうけど……」

 俺は誤魔化すように笑みを浮かべ、頬を掻く。

「そういうところ、リリ王女さまに似てきたんじゃない?」

「どこが?」

 リリの行動を思い出しても、そんな場面はなかった気がする。

「それもそうね」

 クスッと笑うメイリス。

「さ、占拠するわよ」

「ああ……」

 まるでコンビニでも行くかのような軽やかな言葉に苦笑を浮かべて、本分へと戻る。

「軍関係の施設だ。なにがあるか分かったもんじゃない」

 第一ブロッククリア。

「気をつけろ」

 第二ブロッククリア。

「第三ブロック。異常を感知。撤退する」

『な、なんだ。バケモノだ!』

 第三ブロックに敵兵か。

 俺は前に出ると、第三ブロックに進む。

 そこには大型の人型兵器があった。

 足は履帯キャタピラ、手にはマシンガン。そして頭にはセンサーを搭載した新型とおぼしきオートマトン。

「くっ」

 手榴弾を投げつけて、通路を曲がる。

 爆発を確認し、再度敵オートマトンを見やる。

「まったくの無傷かよ!」

 見てとれるぶんには違いがなかった。

 せめてセンサーでも潰せたら――と思っていたのだが。

「プラスチック爆弾を使います!」

 後ろから飛んできたメイリスはプラスチック爆弾をオートマトンに貼り付けると、すぐさま退却する。

 俺も通路を壁にし、待避する。

 爆発音が再び鳴り響く。

 見てみると、未だ敵オートマトンは健在である。

 こちらに向けて銃弾を撃ち込んでくる。

「ルナ。コントロール室を潰せ!」

『あいあいさー!』

 こちらからの直接的な排除が難しいなら、コントロールしている本人を叩くしかない。

 そしてルナならそれができる。

 そう信じている。

「メイリス、できるだけ引きつけろ。俺があのセンサーを潰す」

「ええ! 無茶だよ!」

「やるしかないんだ!」

「わ、分かったよ。でも無理はしないで」

 無茶をしにいくのに無理をするな、か。メイリスらしいな。

 クスッと笑みを浮かべて、俺はアサルトライフルを撃ち放つ。

 そしてこちらに気を引いたら、俺は地を蹴り、跳躍。

 ナイフでセンサーを切りつける。

 ビシッとセンサーのガラスが割れる音がした。

 そしてアサルトライフルの銃床じゅうしょうで頭を殴りつける。

「いくら装甲が良かろうが!」

 両手を自身の頭に向けてくるオートマトン。

 こいつ!

 俺はすぐさまそこから離れた。

 発射された弾丸は球体の頭の上で跳弾し、四方八方に降り注ぐ。

「ちょ、ちょっと!」

 メイリスが慌てて回避する。

 こちらに向き直ると、その両手を向けてくる。

「ち。負けるかよ!」

 俺は通路を効果的に使い、銃弾を回避する。

「なんだよ。あいつは!」

『CS―01〝ネメシス〟。戦闘用オートマトン。らしいよ』

 ルナがボソッとインカムで伝えてくる。

「コントロールは潰したか?」

『ま、倒したのだけど。コントロールが半分AIみたいで……』

「なに?」

『今からハッキングしてAIを破壊する。ブラッドクンはそれまで逃げて』

 AIは滅びた技術じゃないのか。

 人よりも劣化したことしかできない無用の長物。

 AIが全てを解決してくれると思っていた時期もあったのだろう。

 だが、それらは妄想だった。

 AIは人以上に弱く、影響を受けやすい。

 様々なことを教えたが、それらを活かそうとすると、行動に移すことが不可能になった。

 教えたデータに矛盾があり、相互理解を図ろうとしたシステムはやがて暴走し、結論を出すことなくオーバーヒートした。

 だからAIに戦闘を任せるなんておかしな話だ。

 銃撃戦が止むと、俺はアサルトライフルを捨てて、ハンドガンを手にする。

 そして新型オートマトンを見やる。

『ふう。終わったよ』

「そうか。助かった」

 俺はそれだけ言い、新型オートマトンに縄をくくる。

「どうするの?」

 メイリスが不安そうに訊ねてくる。

「土産だ。ハカセが喜びそうなものではある」

「あ……なるほど」

 こくこくと頷くメイリス。

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