第29話 開戦

 最後通告を送った大使が連絡を途絶えて二日。

 我が方はそれが大使を受け入れなかったドールの仕業しわざと断言し、軍を動かすことを決定。

 かつてないほどの緊張感の中、ドールへ向かう俺たち。

 武装をほどこした自走砲が二十台。戦車が八台。垂直離着陸可能な戦闘機が六機。

 と、この国最大級の軍事作戦が行われようとしている。

 ドールには軍用オートマトンが大量に配備されている。

 その首都に向けて、俺たちは侵攻を始めている。

 過日使った鏡面粉ミラー・ダストを使った作戦によりオートマトンの被害は最小限に抑えられた。

 続けて行われた戦闘機による爆撃により、敵戦線は壊滅状態に陥った。

 戦端は開かれた。

 その事実がドールにとっては信じられない出来事だったらしい。

 だがもう遅い。

 ドールの行った(正確にはメガホカルンルンの独断)がリリ王女殿下を拉致らち、そして暴行を加えたことになっている。

 そんな状況で、他の国が手を貸すはずもなく、さらには内部からも支持を得られずに崩壊していった、とはつゆ知らずに、俺たちは侵攻作戦を進めている。

 首都キールまで十五キロの距離に来ていた。

「まずは戦闘機による爆雷・ミサイル攻撃を加える。狙いは国会議事堂だ」

「そのあと、戦車部隊で包囲。自走砲による攻撃を加える」

「それが終わり次第、歩兵による掃討作戦を行う」

 俺はこの掃討作戦というのが嫌いだ。

 なんで罪もない人を殺す必要があるのか、理解できないからだ。

 命を奪い合う戦場において、真逆なことを言っているのも、自分が甘いのも承知しているが。

 だが、軍人として甘くても、人としては強く生きたつもりである。

 メイリスはこの考えに同調してくれたが、アーノルドは同調はしない。

 それも分かっている。

 アーノルドのやり方が正しいんだってことも。

 いや、もしかしたら正しさというのとも違うのかもしれない。

 正義なんて安っぽいセリフは誰でも言える。

 なら命を奪うことが正しいとも思えない。

 なにが正解でなにが間違いなのかは分からないが、俺たちに害を与えるものは間違いなく排除する。それは本能でもある。

 生き残りたい――。

 それは誰もが思っていること。

 だから、このいくさに勝てば、俺たちの命は守られる。

 それでいい。それだけでいい。

 それで平和になるのなら――。

 俺は戦う。

 戦い抜いて、未来を作り上げていく。

 平和な世界を。

 メイリスの言っていた、心豊かな世界を目指して。

 そのために生きる。

 爆音が鳴り響く。

「第一陣、成功」

 その言葉を聞き安堵する俺たち。

 となると戦闘機による二分間の爆撃のあと、照準をロックしたミサイルが国会議事堂を崩壊させた、と。

「第二陣、出立」

 戦車による三分間の飽和攻撃。

 これにより、警備兵及び護衛用オートマトンの掃討が行われる。

 弾倉を装備した戦車が排莢をしながら、放つ砲弾は敵兵を一掃していく。

 悲鳴と嘆きの轟く戦場。

 それがおかしいことには気がついている。

 だが、リリを誘拐したこと、後悔させてやる。

「第二陣、成功」

 その言葉を聞く限り、俺たちはこの戦争に勝ったと言えよう。

 あとは歩兵部隊による国会議事堂の占拠並びに周辺警備隊との戦闘、といったところか。

 俺たちはアサルトライフルを手にして車から降りる。

 国会議事堂は粉塵と瓦礫をまき散らし、ほぼ倒壊しかかっている。

 その周りをずらりと並ぶ俺たち軍人。

 ここからは持久戦か。

「ねぇ」

 メイリスが軽口を叩くように話しかけてくる。

「その――なんて言うか……」

「なんだ? 今話さなくちゃいけないことか?」

 占拠しているのだ。すぐに敵からの防衛行動があると見て間違いはないだろう。

「ううん。いいんだ。でも、わたしも頑張るよ」

「ああ。互いに健闘しよう」

 俺とメイリスが話を終えると、他の女子隊員がひそひそと話している。

「あれ。いつからからしら?」「さあ、でも羨ましいわ」「自分もお近づきになりたいわ」

 と言っても女軍人は計六人ほどしかいないが。

「来たぞ! 対空砲火!」

 戦車と戦闘機による敵部隊の排除が始まる。

 敵は戦闘用ヘリ《エア・マスター》だ。

 16発の小型ミサイルポッドに、機銃、ミサイルが四機詰める。

「伏せろ――!」

 俺の叫び声に応じて歩兵隊は伏せる。

 機銃の雨が降り注ぐ。

 そのあとに爆発が起きる。恐らくはミサイルを使用したのだろう。

 味方戦闘機による機銃で敵ヘリは被弾し、空中で分解しながら爆破する。その火薬庫は近くの民間小学校にぶつかり、大爆破。

「あいつら、ここが首都だっての、忘れているのかね!」

 褐色肌のルナが大声で叫ぶ。

「く。俺たちも対空武装するぞ。地対空ミサイルの点検はどうなっている?」

 俺は自走砲にとりつき、ミサイルの有無を確認する。

「今度きたら撃てますぜ」

「ああ。みたいだな」

 仕事を終えた戦闘機は自国へと帰国する。

 燃料と弾薬が足りないのだ。

 しかし領空内を自由に行き来できるほどか。

 よほど手抜きをしているな。

 敵軍はどうなっている。

「伝令。メガホカルンルンの遺体を確認」

「そうか。どうやら交渉につく者が不在らしい。このまま待機せよ」

 アーノルドの命令で俺たちは待機することになった。

 この場合はどうするんだ。

 交渉ができないんだったら、この国は完全に崩壊する――のか?

「第一歩兵連隊へぐ。これより敵拠点に向けて侵攻を開始せよ!」

 なるほど。

 相手の軍事基地を攻撃するのか。

「了解しました!」

 俺はメイリスやルナを引き連れて敵拠点に向けて車を走らせる。

 武器はRPGやアサルトライフル、手榴弾などなど。

 拠点近くにつくと、車を自動で走らせ、茂みに身を落とし、身を隠す。

 車は自動で移動しながら、敵拠点の金網を突き破りつつアサルトライフルを撃ち放つ。

 それで拠点内の混乱を招くつもりだったが予想以上の戦果を上げた。

「突入する。今次作戦が終われば祝杯と休暇が待っているぞ」

 俺は全員を奮い立たせるためにあえて明るく務める。

 接近していくと、車に応射する敵兵が見えてくる。

「撃て」

 俺の短い言葉に応じたメイリスとルナは撃ち放つ。

 敵兵が倒れたのを認めて、俺はさらに接近する。

「散開! 敵歩兵隊を倒せ!」

 俺がそう告げると、全員が散らばる。

「了解」

 全員で八人か。

 みんな無事で終わってくれ。

 俺は敵兵に向けて銃弾を浴びせ続ける。

 格納庫ハンガーを見つけると、その制圧にかかる俺。

 乗り込もうとしているパイロットを撃ち殺し、俺が変わりに軍用ヘリに乗り込む。

「勝手が違うか。だが」

 俺はヘリの特性を理解し、運転を始める。

 バラバラと駆動音をならしながら、ミサイルを放つ。

 爆破。

 砕けたシャッターから、ヘリを発進させる。

 16発ある小型ミサイルをまき散らしながら、上昇する。

 機銃で隣にある格納庫も撃ち抜く。

 ボロボロになった格納庫の何かに引火したのか、爆発、そして爆炎を上げる。

 司令塔に近寄ると、俺はミサイルを放つ。

 塔が崩壊していくと、今度は地面にいる軍用車両を次々と撃ち抜いていく。

 いくつか取りこぼしたが、すぐに仲間が撃ち倒していく。

 連携はとれている。

『こちらブラッド。ドールの諸君は投降せよ。ただちに投降せよ!』

 呼びかけながらも、俺はミサイルを放つ。

 ミサイルも機銃も空になった。

 俺はヘリを管制官をとっている司令塔に向けて飛翔させつつ、俺自身はパラシュートで降下する。

 低い位置からではパラシュートはあまり効果がないと言われているが、噴射式のエンジンが搭載されている最新モデルだ。

 低空でも効果がある。

 着地に成功すると、俺は周辺を見渡す。

 そして、インカムに耳を傾ける。

『なんだ。こいつ、強い!』

『うわぁぁぁぁあ――っ!』

 仲間の断末魔を聞く。

「場所はどこだ?」

 インカムに向けて声を荒げる。

『B3エリア!』

 俺はそこに向かう。

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