第24話 リリを助ける。

 隣国ドールが見えてきた。

 国境線上には金網と有刺鉄線ゆうしてっせんが張り巡らされている。

 ここを超えるとドールだ。

 その手前には国境を警備する国境警備隊が詰めている詰め所がある。

 数は二十を超えており、増援したのか、仮設テントも見える。

「これより国境警備隊を強行突破する。繰り返す――」

 俺は無線機に向かって言い放つと、俺たちの車は国境を踏み越えていく。

 荷台に載せたミサイルや機銃が銃弾を散らし、あらゆる敵を退けていく。

 反抗を行ってきた国境警備隊だが、その攻撃はあまりにも遅い。

 電撃作戦の一種である、今次作戦だが、その成否は実働時間にあるわけではない。

 有効的に敵を制圧するのがポイントだ。

 銃弾の雨が各部の中枢を攻撃していく。

 ミサイルによる攻撃も有効と感じ、主要区画にダメージを与えていく。

「右構造物、ミサイルコリントス撃て」

 十五台からなるこちらの襲撃部隊は次々と沈めていく。

 攻撃を終えたら、そのまま通り抜けていく。

 俺たちの目的はあくまでもリリの奪還である。

 殲滅戦をしにきたわけじゃない。

 破壊工作でもなんでも使って、リリを返してもらう。

「この戦いはリリ王女殿下に捧げる戦いの狼煙である。俺たちは勝つためではなく、奪還するためにここにきた。精鋭である諸君はこれを無事完遂することで英雄となる。故に諸君らの命を賭けて頂く――」

 繰り返し声を届けると、車をリリが運び込まれたとされるアイギス城に向かう。


 アイギス城。

 世界最高峰の防御壁を持つ要塞である。

 機銃座やミサイル、さらには魔法障壁、アンチマテリアルシールドなど、様々な武装や防御システムを持っている。

 特に防御システムが優れており、その難攻不落さから、〝鉄壁のアイギス〟と知られているほどだ。

 七十年前に起きた世界崩壊記念日からずっと保ててきているというのはその最たる例だろう。

 優れた要塞として有名だが……。

「鉄壁のアイギス。そろそろ沈んでもらおうか」

 もともと隣国であるドールとは仲良くしてきた。そして同盟国でもある。

 だから、戦時中でもお互いに武器や食糧といった輸送を行ってきた。

 お互いに支え合ってきた国なのだ。

 それを今更、手のひらを返してくるとは思いもしなかったのだ。

 だが、それでもリリの居場所は衛星写真に収められている。

 俺たちはそのアイギスの有効射程圏外から眺める。

 そこで改めて武装を確認しつつ、敵勢力に向かう。

 十五分の休息をとってから俺たちは侵攻することにした。

 作戦司令部を立ち上げて、アーノルドが本部にとどまる。

 味方歩兵隊は鏡面盾を構えつつ前進。後方からアサルトライフルで銃弾を浴びせる。そしてオートマトンに囲まれたさいには鏡面粉ミラー・ダストで敵部隊を混乱させる。

 混乱したところに第二遊撃部隊を突入させる。

 そして遊撃隊の侵攻具合を見て第三部隊が侵入。

 敵歩兵隊を倒しながらも、対象を救出する。

 これは人質救出作戦だ。

 俺が司令本部から出ようとすると、裾を引っ張ってくるメイリス。

「なんだ?」

「……いや、ええっと……」

「話しづらいことなのか?」

 俺が戸惑っていると、メイリスは目を泳がせるばかりで、何も応えてくれない。

「あー。場所を変えるか……」

 俺はメイリスを連れて、誰もいない裏庭に来ていた。

「そのごめんなさい……」

「どういうことだ?」

「わたしの部下がこの件に介入していたの。だからあんなに早くリリ王女さまをさらうことができたのよ」

 部下……あの二人か。

「そうか。あとの処理は任せる。だが裏切り者を許すほど、俺たちは呑気じゃない」

「はい……」

「で、お前は何者だ?」

「わたしはブラッドの味方よ」

 メイリスはサファイヤの瞳をこちらに向けて真剣に訴えてくる。

「今回は部下が暴走しているだけなの」

「その言葉いったん信じよう。だが二度はないからな」

 俺はメイリスの肩にポンッと手を置き、すぐに離れる。

 休息も終わり、全員を集めると、俺は声を張り上げる。

「これより、第一陣出発! 敵勢力を削り取れ!」

「「「「「はい!」」」」」

 第一陣の五名が鏡面盾と鏡面粉を持ち出してアサルトライフルを手にする。


 第一陣がアイギスに向かって歩を進める。

 撃ち放たれた銃弾が敵歩兵部隊を攻撃する。

 籠城戦を仕掛けようとする敵兵団だが、こちらの方が優れた武器を持っている。

 鏡面盾は銃弾を浴びてもなお、健在である。強固に作られているのだ。

 盾の隙間から放たれるアサルトライフルも効果的に敵を倒している。

 そんな中、敵軍に動きがある。

 軍用オートマトンの使用だ。

 小さな戦車のような形をしたそれは、人を視認すると銃弾を撃ち放つシステムになっている――が、鏡面盾の影響か、敵兵を視認できなくなっている。

 そして鏡面粉を振りまくと、オートマトンは近くにいるオートマトンに向けて銃弾を放つようになっていた。

 仲間割れだ。

 予想通り敵兵力はそぎ落としている。

 と、オートマトンの様子がおかしい。

 お互いを攻撃するのをやめて、鏡面盾に向かって銃弾を放つのだ。

「隊長!」

「ぐっ……。恐らくは敵兵による手動マニュアル操作に切り替えたな」

 自動で敵兵を追尾・銃撃するオートマトンだが、遠隔操作で操作する方法もあるのだ。

 こちらの攻撃が見透かされていた。

 もしくは想定していたのか。

「第二陣を向ける!」

「は!」

 十人の兵士がその侵攻を開始する。

「いいのか。アーノルド」

「第二陣でオートマトンの部隊を削り取る」

「できるか?」

 俺はアーノルドのやり方に疑問を覚える。

「何か問題でも?」

「あー。俺は俺で別のやり方をとらせてもらう」

 俺はバイクを一台借りて、近くの山の上を目指す。

 しかし、これを使う日がこようとは。

 ――軍用ウイングスーツ。

 ムササビのように手足、股間の間に膜があり、飛翔させるためのジェットエンジンも積んである。

 俺は望遠鏡で辺りを見渡す。

 下で戦っている第一陣を援護する第二陣だが、プラスチック爆弾で敵オートマトンを削り取っている。

 だが、爆弾がいくつもあるわけでもない。

 しかしまあ、消耗戦にならないといいが。

 この様子を見ていると、侵攻はあまり進まないだろう。

 そしてアイギスの六階にいるリリを見つける。不安そうな顔をこちらに下を見つめる。

 ジェットエンジンに火を入れて、山道を走り出す。

 頂上から飛び出し、ジェットエンジンのスロットルを最大にする。

 下からの浮力を受けてふわりと飛び立つ俺。

 アイギスの城壁に向けて飛翔する。

 風を切って、空を駆け、そして城壁にとりつく。

 そしてリリのいる五階を目指す。

 それも手足にある吸着シートにより、壁につくことができるのだ。


「くそ。第三陣を切り出せ、退路を作るんだ」

 アーノルドが必死で呼びかける。

「退却するの?」

 メイリスが不安そうにアーノルドを見つめる。

「しかたないだろう。オートマトンの数が多すぎる。すぐに本部に応援の部隊を」

 さらに増強し、正面突破。

 それでうまくいくのだろうか。

 ああ。ココにブラッドがいてくれれば……。

「どこいっちゃたのよ。ブラッド」

 メイリスはそう口走るが、ブラッドが城壁にとりついたのに気がついた者はいない。

 疲労で目がチカチカするが、メイリスは退却してきた軍人の手当をしなくてはいけない。

 とはいえ、鏡面盾のお陰で被害は少ない。

 それもこれも、ブラッドのお陰。

 ただ鏡面粉はもう品切れ。

 やられる心配は少ないものの、それでも怪我や死人はでるもの。

「三名、やられました」

 そこの逼迫した様子で告げる軍人は悲しそうに目を伏せる。

 これ以上傷つけてはいけない。

 この戦い早急に片付けねば。

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