第33話 嫉妬する斑鳩豪

 今日は斑鳩豪の様子が少し、というかかなり変だ。どこか虫の居所が悪いんだろう。


「斑鳩さん、何か都合の悪いことでもあるんですか」


 さりげなく訊いた舞に、不機嫌な顔を向ける。


「君は一体何を考えているんだ!」

「何をって……何の話ですか?」


 私が彼を怒らせるようなことをしたのだろうか。何も心当たりはないが。


「わからないのかい。君は、いろんな男に色目を使っているじゃないか。神崎に五本木、ひょっとして石黒にも言い寄っているのかもしれないな、そうじゃないのか?」

「えっ、わたし、そんなことしていませんよ。どうしてそんなふうに思われるのか、まったく心当たりがないです!」


 本当に何の心当たりもないし、彼の不機嫌さと怒りの表情が異様に見える。


「私、あちこち手当たり次第に男性と付き合う趣味はないし、本当に好きな人としか付き合いたくありませんから」

 これが本心だ。

「だったら……」


 斑鳩豪は、舞の手を引っ張り自分の方へ引き寄せた。まずい、ここは彼の部屋、全くの密室。声を出しても誰にも聞こえない。今になって彼を誘惑したことを後悔した。何をされるのだろうか、恐ろしい。だって、本当に愛してなんかいなかったんだから。


「僕とだけ付き合ってほしいな。浮気は禁物だ!」

「あの……斑鳩さん、それほどまでに私を思っていたなんて」

 

 としなをつくり上目遣いに甘えてみると、右手を顎に持って行き有頂天になる彼の顔があった。全然変わってないのね、彼って。

 

「……あっ、いや僕としたことが。そういうわけじゃないが、俺は愛想を振りまく女は嫌いなんだ、僕だけが好きだなんて言いながら、そんな態度をとる女は特に」


 はは~~ん、本音が出たわね。彼をだますのも、もはやここまでかもしれない。何事にも潮時というものがある。


 すると、彼は舞の体を引っ張り壁際に追い詰め、両腕をまるで腕立て伏せをするような体制で突っ張った。

「僕に任せておけばいいんだ。すべてがよい方へ動く」

「そうですね……わかりました」


 と返事はした。まだ、彼の心をつなぎ留めておくことにして舞は彼のそばを離れ自分の部屋へ戻った。


 一人机に座り、自分の気持ちを整理してみた。彼が自分に気があるのならと、こちらもそれに合わせて気のあるそぶりを見せると、どうやら彼は本気になりだした。だが、いつもの強気の態度と、鷹揚に自分の気持ちを押し付けるやり方は変わらない。


 やっぱり、私とはうまくやっていけない。


 それに比べて神崎は、自分の気持ちを押し付けるようなことはしない。まあ、自分のことは研修生の一人だと思っているからだろうけど。クールな横顔に対して、甘く心をとろけさせるような声。一緒にいると心地よくなり、周囲の空気までが変わっていく。


 ……あれ、いつの間にか彼と比較していた。ひょっとして私……彼の方を好きになっているのでは……いや、彼は自分とは違って何をやっても優秀、無職で無一文の私とは雲泥の差。まるで雲の上の人。


 ああ、これ以上考えたって自分にはどうすることもできない。舞は、ベッドに入り布団をかぶるといつの間にか眠ってしまっていた。


「あれ、今何時。眠ったのはいつだっけ」


 外を見ると、夕やみに包まれていた。夕食は、まだ食べていなかった。舞は慌てて飛び起き食堂へ走った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不器用な彼女は構いがいがあるのだが、実は自分の魅力に気が付いていない 東雲まいか @anzu-ice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ