第30話 ファーストキスは突然に

 そして、あっという間に彼の唇が舞の唇に……。 


 うわああ~~~~、これはファーストキス! 


 しかもこんなシチュエーションで。


 わああああああああ~~~~~~~!


「……唇……柔らかいな……」

「……うぐ」


 心臓がバクバク鳴っている。


 すると、唇はあっという間に離れ、体も元の位置に戻った。顔を見られているきっと。だが、舞は顔を上げることができない。ものすごい気持ちの高揚、空に舞い上がりそうなほどの浮遊感。これはいったいどうしたことか。


 彼が耳元でささやいた。謎めいた微笑みを浮かべながら。


「君が本気じゃないことぐらいわかってる。でもいいよ、許してあげる」


 斑鳩の片手がすっと舞の頭に乗り、髪の毛を優しく撫でる。弄んでいるのは一体どちらなのだ、私だったはずなのに。いけない主導権を取るんだわ、と舞は余裕ある態度をとる。


「そんなことない、私は本気よ」

「……む、そうか。それならそれでいい」


 これはまずい。


 斑鳩豪のことを好きになってしまったのか、焦りまくる舞のことなど知らん顔の斑鳩豪……。


 舞は彼の胸に軽く手を置き、顔をうずめた。


「こんなにあなたが素敵な人だとは思わなかった。今まで気づかなかったなんて、私ったらどうしようもないですね」

「今頃そんなことがわかったのか。でもいいよ、気が付いてくれて」


 と彼は、優しく髪を撫でてから抱きしめた。


「嬉しい……」

「そうか……」

「今まで冷たくしていたのはどういうわけ、会社で。私いつも辛かったのよ?」


 真剣なまなざしで舞の方を見ていった。


「冷たくしていたわけじゃない、君がつれない態度をとるからついついいじめたくなるんだ。ようやくわかってくれたのかな」

「あなたの気持ち、よ~くわかる」


 私が可愛すぎたのかな、と舞は一人納得する。私って罪な女。


 再び彼は舞の紙を撫でる。


「シャンプーを変えたのかな?」

「いえ、前と同じですよ。どうしてそう思うんですか」

「だって、前と違う香りがするから。ああ、温泉の成分が混じっているのか」

「そのようです。良い香りですよね、温泉の香りって」

「気に入ったらしいね。それならずっとここにいればいいよ」

「そうね、それもいいかもしれないわ」


 それじゃ、デートはしばらくここでするってことね。


「鶴を折るのが終わったら、また別の仕事もあるし」


 舞は、斑鳩豪の顔をまじまじと見た。


「ああ。他にも仕事があるんだ。だから、まだまだここへ来てもらう」

「……他の仕事って?」

「それは、また後で説明する」


 そんなに用意周到に私を囲い込もうと準備していたなんて、それほど私に夢中だったなんて……。だが、他の仕事って何だろうか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る