第23話 奇妙な依頼

 どうしてまたここで会ってしまったのか。


 私と斑鳩とは、離れられない運命なのだろうか。


 まさかね。考えたって仕方がないから、もう考えるのはやめた。それよりも、まずいところを聞かれてしまったことが悔やまれるばかりだ。誰にも聞かれたことの無かった、私の呟き、そして心の声。


「ご、ごほん……」

 

 斑鳩豪の方は、面白いものを見るように舞の方を見ている。服の中を探られているような気妙な感覚。すう~っと深呼吸した。


「えっと、もう飲み終わったので、お先に失礼します」と立ち上がりかけると、

「まあ、そう慌てなくてもいいでしょう」

 といたって冷静だ。

「だって……私もう用はないし」

「僕の方は用があります。だから、まだここにいてもいいでしょう」

「しかし、なぜ斑鳩課長とこんなところで何度も会うのでしょうね。課長私のことをつけ狙っていませんか」 


 そんなはずはない。だって、彼は私を敵対視してるし、私の言動はすべて気に入らなかったんだもの。


「まさか……そんなことはないよ。勘違いしないでほしいな、僕はここへ用があってきたんだ。たまたま君がここにいたまでのことだ。しかも、君は僕の好みのタイプじゃない」


 と一息に言ってのけた。嫌な奴。


「ああ、この前一緒にいらした、秘書さんが好きなタイプでしたね」

「まあ、そういうこと。ところで八雲君、ここの生活は楽しいですか?」

「ええ、とっても。みんないい人ばかりで、これからいいことがたくさんありそうです」

「へえ、そんなにいいところなのか。君の場合、温泉に入れるのが一番の楽しみなんだろうけど、くっくっ……」

「う~んぐっ、それはっまあ、そうですが」


 もう、思い出させないで~~。敢えて露天風呂での独り言について弁解するのはやめておこう。見苦しくなるだけだ。


「それより、用があるって、何ですか?」

「簡単なことさ。所長の神崎にも許可を取っている。ここでいろんな仕事を覚えたいだろう。そのついでさ」

「だから、どんな仕事なんですか」

「それは……ゴホン。僕の部屋に来てくれればわかる」

「ええ~~っ!


 僕の部屋っていうことは、ひょっとして、ここに泊まるつもりなのか。課長の部屋なんてないはずでしょう。どうして


「でも、部屋は?」

「流石神崎、僕のために一部屋用意してくれてね、せっかく来たんだから今日は泊まっていったらどうだって言われてね。募る話もあるし、いい考えだろう」

「そんなのって……」


 ちっともいい考えじゃない。神崎所長。そんなにこの人と仲が良かったなんて、なんということ。


 


 いわれたとおりの時刻に部屋へ行くと、ソファに座ってコーヒーを飲む斑鳩がいた。


「君もコーヒー飲まない?」

「私は結構です。彼女を置いて一人で来たんですね」

「まあね。そんなにしょっちゅう一緒にいても刺激がないだろ」


 本当にそうなのか? 舞にはわからない。だが別の女を自分の部屋に呼ぶのはどうかと思う。


 私は危険じゃないのか! 


 その時舞に一つの考えが浮かんだ。彼の気持ちを試してみようではないか。

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