第22話 風呂での呟きを聞かれた!

「ふう、大変だった」


 恵と穂香が心配そうに舞の様子をうかがう。ビップ扱いされている斑鳩豪とただならぬ関係にあるのでは、という勘ぐりもあり、穂香はしきりに舞の顔色を窺っている。


「舞さんと斑鳩さんって、前から知り合いだったんじゃないの? 二人の間には妙な空気が流れてる」

「……えっ、いいえ。そんなことはないわよっ。ここで初めて出会ったんだけど、あまりに言い方が変だから、びっくり仰天しちゃって、慌てちゃったのよ。私って初対面の人から気軽に声をかけられるの。まあ、いつものことだから」


 と弁解するが、勘が鋭いから、そんな言葉は到底信じられないと、さらに追及してくる。二人だけだったら、思い切り言い返したいところだが、他人のふりをして我慢するとなるとかなりの演技力と忍耐力が必要だ


 よ~し、私の演技力でピンチを乗り切らなきゃ。と思うがかなり心もとない。


 ようやく午後の時間は話をはぐらかしながら無事に乗り切った。


 

 さあて、温泉でゆっくりしよう。


 舞は一人風呂のある別棟へ向かった。


「この時間だけはだれにも邪魔されないで、心ゆくまでリラックスできるのよねえ。身も心もほっこりとあったまるわ……。今日はゆ~っくり、一人であったまろうっと。あの二人と一緒じゃ、休まらないもの」


 舞は広い湯船に首までつかり、外を眺める。すでに暗くなっている。森から吹いてくる風が心地よい。


 露天風呂もいいのよね、と外へ出ていく。


 そよぐ風やひんやりとした空気が、温まった体には心地よい。空気を体いっぱい吸い込むと、隅々まで酸素が行き渡り頭の仲もすっきりする。森林浴をしているような気分。外には誰もいないし、自分だけの世界に浸りながら……。


 私の裸体を見ているのは星だけ……。


 自然と声が出た。


「……ったく、あの斑鳩豪ったら、こんなところにまで来るなんて。何を考えてるんだか。所長と知り合いだったなんて、知らなかったよお~~。おお、よしよし、よく頑張ったね、舞ちゃん。お疲れ~~」


 とタオルを頭に乗せ、お湯を肩にかける。それからお決まりのマッサージ。足の指先からすね、太ももへかけて丁寧に押す。


 お疲れ様~~。お湯の中でもみほぐすと、じんわり疲れが取れる。次に腰のあたりをぎゅっと両手でつかむ。立ち仕事って疲れるよねえ。親指でツボを押す。う~~、これはきく。


 もんでいると、胸のあたりがゆらゆら揺れて湯船も揺れる。ほんのり赤らんだ乳首が湯の中で、つんと角のように立っている。


 ついでにふっくらした胸も優しく撫でる。湯の中で胸がゆらゆら揺れる。


「面白いわ……胸が泳いでるみたいで。静かだわあ~~」


「う~ん、脚の疲れが取れてきた。腰のツボにもきいてきた~~。うわっ、温泉の効果で、肌もすべすべになってきた。やっぱりいいなあ~~~、おっぱいも元気になるわ~~。温泉っていいなあ~~、ああ~~ん、うわああ~~~っ,最高~~~、幸せ~~~、むふっ」


 まるで実況中継のよう。だが、誰もいないから平気だ。


 体中を揉みほぐすと、額からじんわりと汗が滲んできた。誰もいないので、家の風呂に入っているようだ。


「うう~~ん、やっぱりいつみても素晴らしいプロポーションだわあ、我ながらうっとりしちゃう~~~」


 いつもながらの自己陶酔。


「これを見たら、誰でも私に参っちゃうわね。うふふふふふふ……」


 自己陶酔はいつまでも続く。


「ふわあ~~っ」


 だが、そういつまでも入っているわけにはいかない。だいぶ体が火照り、のぼせてきた。


「そろそろ出ようかな。露天風呂、また来るね~~~」


 と露天風呂にお別れの挨拶までしてお湯から上がった。


 着替えをしていると、恵が入ってきた。


「恵さん、これからなのね」

「今日は、部屋でゆっくりしてたから」


 私に比べると、恵ちゃんったら、凹凸のない体をしてるわね。肌の色も全然違うわ。私の美しい肌に比べたら。


「来るときに、斑鳩(いかる)さんに会ったの。まだ帰っていなかったのね。これからお風呂に入るっていってたわ」

「えっ、いつ?」


 体に鳥肌が立つ。


「あっ、ちょっと前にね。私は食堂でちょっとスマホをチェックして、そうね十五分ぐらい前だったかな」

「へっ……じゃあ、彼は」


 ひょっとすると、同じ時刻に入っていたのではないだろうか!


 冷や汗が出る。


 舞はそ~~っと暖簾をくぐって廊下へ出る。


「うわあっ」


 ベンチに腰かけて涼んでいる斑鳩と目が合った。彼の目は何やら面白いものを見たようにニヤついている。


「ここへどうぞ」

「私は……遠慮しておきます」

「冷たいものを買っておいたから、飲んでいくといい。そろそろ出てくるころだと思った」

「……へえっ」


 と冷たいお茶を受け取り、下を向きながら隣へ座る。


「温泉はいいな、体が伸ばせてゆったりできるからね」

「はあ……そうですね」


 お茶を飲みながら、ちらりと横を見ると、吹き出しそうになるのをこらえている。やっぱり聞いていたんだ。声ぐらい出せばいいのに。


「露天風呂っていいよなあ。八雲さんもリラックスできたでしょう。僕も露天風呂でゆっくり入りました」

「俺持って、まさか露天風呂に入ったんですか……」

「そりゃそうでしょ。悪いですか?」

「……」


 聞かれてしまった! 私の心の声を。


 絶対聞いてほしくない人に……。


 舞は黙ってお茶を飲んだ。体の熱が一気に引いていった。


お詫び

 21話が抜けてしまい、急いで追加しました。前回の投稿ではこちらを21話として投稿してしまいました。お詫びして訂正いたします。

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