第20話 舞、秘書の仕事を命じられる

 そのころ所長の神崎からあるミッションが言い渡された。


「君の得意なことって何かな?」


 返答にぐっと詰まる。即答できない。すぐに答えられるようなことが無い。


 だが、考えに考える。


 私にだって、得意なことは必ずあるはず……なのに思いつかない。哀しい。


「困っているようだね。思いつかないのかな」

「……ええっと、明るくて、元気で、前向きで、いつでも頑張っているところとか、ええと……それから」

「高校を卒業してから受付をやっていたそうだが、これといってないようだね。パソコンや外国語が苦手のようだし、メカに強いわけでもない。力も……」


 じろりと体つきを見て、

「あまりなさそうだな」


 こんなことを言うために呼び出したのか。


「で、そんな君だが僕の秘書として、数日間ここで手伝いをしてもらおうと思う」

「秘書の仕事……というと……どんなことをするんですか?」

「それは、これから説明する。僕のスケジュール管理、と言いたいところだが、必需品の補充や発注、お客さんが来た時の対応、電話番、その他いろいろ、まあ雑用が多いけど、できるよね」

「……それは、どうでしょうか」

「そんな気弱な返事では困るよ。とにかく、どんなことでもまずはやってみないとね。そういう心構えが大事なんだ」

「そうでした」


 神崎は、腕を組み合わせてじっと舞を見た。


「では、さっそく今日から、講習が終わったら勤務してくれ。ところで、コンピューターのテクは上達したかね?」

「まあ、それなり、でしょうか」


 と答えると、くすっと笑われた。


 一時間ほど書類の整理を手伝ったのだが、叱られてばかり。事務の仕事もやったことが無かったっけ。受付って電話番や、どういうお客さんが何時に来るかチェックしたり、不動産屋で仕事をしていたので見学の申し込みを取り次いだりとか、そんな仕事だった。


 ここでは、在庫が足りなっていないか物品を調べて回り補充する。クリーニング店へ出すタオルのとりまとめもする。シャンプーやせっけんも補充して回り、結構体を使う。あちこちバタバタと動き回った。


「思ったより疲れるでしょう」

「はい、体を動かすので……」


 でもいい気晴らしになる。最後に、発注品の確認をし仕事は終了となった。


「秘書といっても、今日はほとんど雑用でした。他にも仕事はありますので、また明日、仕事を覚えてください」

「そうですね、でも私体を動かすのは平気です。意外と体力はあるほうです」」

「それはよかった。八雲さん、ここでの生活には慣れましたか?」

「はい、なんといっても、お風呂が広いのが最高です。私、大のお風呂好きなので、温泉に毎日入れるなんて幸せです。ず~っといたいぐらい」

「それはよかった」

「こういうお風呂に毎日入れるんだったら、ここで働くのもいいですね」

「そうか……今のところ人では足りているんだが」


 再び神崎は苦笑いした。


 舞はいったん部屋へ戻り、恵と穂香と合流して温泉に向かった。


「舞さん、秘書の仕事を任されるなんて、素敵ねえ」


 恵が羨ましがっている。穂香は違う意味で好奇心をむき出しにした。


「まあ、舞さん、秘書なんて聞こえはいいけど、いつもそばにいて欲しいんじゃない。言い寄られないように、注意した方がいいわよ。神崎さんって、結構自分の容姿がいいことを鼻にかけてるから」


 彼女のアドバイスも心にしまっておこう。


 その日の温泉でのトークは、イケメン神崎の噂でもちきりになった。 

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