第17話 温泉の仕事は五本木と

 午後は成沢拓のパソコンの特訓があり、終わると舞はくたくたになってしまった。五本木はあまりの舞のもたもたぶりに、呆れている様子。そのたびに、代わりに操作されてしまい、結局自分ではなかなか覚えられない。できないものの哀しい業だ。講師の成沢はそんな二人のやり取りを見ては、舞のそばへやってきた。


「まだまだ時間はあります。できるだけ、捜査の練習をすることです」

「はい。だけど、難しいなあ」


 五本木は「ほら、個々を押すんだって言っただろ。何度言えばわかるんだ。もう君は、パソコンを操作するのはあきらめた方がいいんじゃないのか。使わないでできる仕事はあるはずだ」なんて言う始末。


 パソコンは詳しい人にとっては、できない人がおかしいぐらいに思っているようで、舞は全く別世界の人間のような気分になってしまった。


「はあ、五本木さん教えてくれるって言ってたのに……」

「まあ、時間に余裕があったら教えてあげる。僕も今は必至だから」

 

 なんて言っている。教えてもらえる日は来るのだろうか。


 授業を受けるのが久しぶりの経験だったので、皆一様に疲れ切っていたところへ、温泉の仕事を監督する峰さくらがやってきた。


「皆さんお揃いのようですね。ちょっとこれから、温泉のお仕事を説明します。私の後についてきてください。ただし、お客様がいらっしゃいますので、失礼のないように」


 だらりとした背筋が伸び、色めきたったのが長澤だった。人間だれしも興味のあることには引き付けられるもの。この人、こういうことには興味があるんだ。


「お願いしま~す」

 と愛想よく返事をする。

 

 男女別に分かれて脱衣場へ入る。当然ながら女性三人は女湯へ行く。


 どこの浴場にもあるようにロッカーとかごが並び、洗面コーナーにはドライヤーや化粧水などが置かれている。脱衣所は広々している。使用後のタオルを入れる箱が隅の方に用意されているし、床はきれいに磨かれて清潔だ。これぞ温泉場の光景、と温泉好きな舞もテンションが上がる。


「営業時間内は、皆さんが入れるのはここまでです。湯船の方は終了後掃除をするときに入っていただきます」


 これを見れば、仕事の想像がつく。


「脱衣かごなどが乱れていたら並べていただくことと、箱の中に入れられたタオルを定期的に回収していただくこと。洗面コーナーの拭き掃除と、床のモップ掛けです」


 うわあ、結構あるな。


「どのくらい汚れるものなのですか」

「まあ、見てのお楽しみ……ですが、女性の方にはお判りになるでしょうが、髪の毛が結構落ちてるんですよ」

「ああ、やっぱり。そうでしょうねえ」

 

 と田中が言った。


「こんな仕事もあったなんて……知らなかったな」


 と不服そうなのは、穂香だ。掃除は……やっぱり嫌いなようだ。


「皆さんも、毎日入れますので、そこのところはご了承くださいね。所長の方針のようですから」

「ふ~ん、所長の方針……」


 男性の方の説明が終わり、一行は場所を移動した。


「さあ、それから休憩スペースです。ここではドリンクと軽食を出しているので、厨房から運ぶ仕事です。それから食器の片付けとテーブルを拭くこともお忘れなく」

 

 ここへ来た時に最初に目にした場所だ。穂香が、恵と舞ににっこり笑いかけた。


「私は接客は慣れてるから、大丈夫よ」

「そうでした。いろいろ教えてくださいね、穂香さん」


 舞は飲食店のバイトをしたことが無かったので、楽しみでもあった。客たちも寛いでいて、ゆったりと湯上りの火照った体に冷たい飲み物を流し込んでいる。


「さあ、説明は終わったので、これから二人づつに分かれて仕事をしてもらいましょうか。ローテーションを組みますので、今日から一週間はお店の方が八雲さんと五本木さん、お風呂場が松永さんと長澤さん、外の掃除を田中さんと石黒さんにお願いします」

 

 石黒がオーバーに驚いた。


「外の仕事もあったんだ」

「私はいいですけど……外はとっても気持ちがいいもの」

「落ち葉が多い季節は大変です……綺麗に掃いてくださいね」

「そういうことか」

 と納得した。

 

 そうだ、今は十月だからこれから紅葉して、そのあとが大変なんだ。

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