第13話 講師登場

 そこへ見慣れぬ男女二人が入ってきた。六人とは少々年齢が上のようで、女性の方が片手を挙げていった。


「あら、皆さん。新しくいらっしゃった方たちねえ。私は綾部美玖(あやべみく)といいます。語学担当の講師なの。操れる言語は英語にフランス語ドイツ語、中国語も少々ね」

 

 と語尾を上げていった。舞は口の中に入っている煮物をごくりと飲み込んだ。凄いひと。英語も自由に操るのは難しいのに、しかもこの自信。


 石黒が素早く手を差し出す。彼は美人には目がないんだな。


「よろしくお願いします!」

 

 綾部もさっと手を差し出し、二人は握手する。しぐさが自然だし、指先がすっきり細く美しい。すらりとした体形に、ぴったりとしたスーツがよく合っている。化粧もばっちり決めて、存在感がある。場の雰囲気も一気に華やいでいる。


「三か月でも、何かが変わっているわよきっと」


 おお、そうなることが期待できそう。


 男性の方は、チノパンにカラーシャツを着てラフな感じだ。眼がぱっちりしていて髪を少し茶色に染めている。おしゃれでモテそうなタイプ。


「僕は成沢拓(なるさわたく)。コンピュータ関係の講師です。絶対必要な知識をたたき込むからそのつもりでね、皆さん!」


 わあ、たくましい。

 

 舞は反面どきりとする。だってコンピューターは苦手だからだ。そんなことでは今の世の中で人間扱いされないことぐらいわかってはいるが、どうも用語が理解できないし、別の世界の話をされているように聞こえてくるのだ。それ以前に、スマホを打つのも人差し指を使い一つ一つ打っているくらいで、今時の人間とは思えない程だ。


 だが、彼の発言で心を入れ替えた。素敵な人に耳元で指導されたら、きっと心に響くはず。いや、頭脳に入ってくるはず。


「ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」

「苦手なんですね。苦手意識を取り除くことが大切です」


 ほお、素敵な言葉。ここは正直に……。


「そうなんです。超苦手なんです。わかりますか?」

「顔に書いてありますよ」

 

 えっ、と顔を押さえた。どうしてわかったのだろう。やはり、相当困った顔をしてしまったのだろうか。


 成沢は舞の肩に軽く手を置きいった。


 わあ、体温が伝わってくる。パソコンをたたく指の動きまでが想像できる。


「あっ、失礼」


 といって、指先を元に戻した。別にいいですよ……。


「今日の献立は……焼き魚と煮物ですね。生野菜も欲しいところだな。まあ、こんな山奥だから仕方ありませんが」

「美味しいですよ」

「そうですね、味付けがいいですよね。調理場のスタッフが、週に数回山を下りて、食材を仕入れてくるんですよ」

「大変ですね」

「私は、フルーツ持参で来るわ」

「綾部さんは、フルーツだけじゃなくてお菓子も部屋に蓄えてるんでしょう。餌を蓄えるリスみたいですよ」

「あら、いいじゃない。成沢さんもカップ麺蓄えてるじゃない」

「そうでした。たまには食べたくなるから」


 食べ物を蓄えておくと安心する気持ち……よくわかる。私だって、おせんべいにちょこれーと、ポテチなどをたくさん持参してきた。


 成沢は、ニッコリ笑顔を見せ隣のテーブルに座った。笑った時に、えくぼが見えたのも魅力的だった。

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