第11話 湯上りは色っぽく
男湯の中でもこんな会話が交わされていた。
「石黒さんいいなあ、スタイルがよくて」
五本木が、感嘆の声を上げる。同性からみても、惚れ惚れするほどスタイルが良い。たくましい筋肉も魅力を倍増させている。
「モテるでしょうねえ」
「それほどでもない」
ということは、多少は持てるってこと。いや、多少なんてもんじゃないだろうな。
「だけどこの脚じゃな。我ながらがっかりだよ。おっ、そうだ。ここにいる間ダイエットしたらどう、五本木さん?」
「う~ん、ダイエットかあ」
「スタイルが変わると、自信もつくんじゃないの」
「大変そうだな~」
「そうでもないよ。かなり変われるんじゃない? おっと、言い過ぎだったかな」
そうなのだ。かなりぽっちゃりしているので、痩せようと思えば、かなり余分な肉は落とせそうだ。だが、本気で痩せようとすればの話だ。
「そこからだったら、食事に気を付けてどんどん動くようにすれば、簡単に痩せられるだろうな」
黙って聞いていた長澤が口をはさんだ。
「長澤さん、本当ですか!」
「ここでは食事もみんなと同じだから、ある程度までは簡単にできるよ」
「そうなんですか。う~むやってみようかな」
「じゃ、俺の言ったとおりに食事と運動してみる?」
「……できる範囲で。無理だったら、やめますけど。長澤さんもスタイルいいものなあ」
長澤の方は、それほど筋肉がついているわけではないので、石黒よりもほっそりして見える。二人のボディに近づけるように、頑張ってみようかなこの際だから。と五本木は、二人の間で考えた。
そんな話をしながら暖簾をくぐると、女性三人に遭遇したのだ。
「ああ、やっぱり女性陣も風呂に入ってたんだ。俺たちも食事の前に入った方がいいと思ってきたんだ」
長身の長澤航がいった。風呂上りで、一段とさわやかになった。
「温ったまったなあ。気持ちよかった~~」
ぽっちゃりとした顔の六本木の目が、さらに小さくなる。顔はゆでだこのよう。
「食事は何が出るのかしら、楽しみねえ」
舞がうっとりしながらいうと、すかさず石黒が首を横に振った。
「ここは日帰り温泉だ。ちょっとした昼食は出してるようだけど、宿泊施設じゃないから期待はできないよ。食堂のメニューを見たかい」
「見てなかったわ」
「定食やうどんにそばぐらいだった」
「そうなのか……」
流石、デリバリーの仕事をしていただけのことはあって、食べ物のチェックが早い。食事は期待しないほうがよさそうかな。
「でも温泉は気持ちがよかったなあ~~。家の風呂とは大違いだ」
六本木の丸々した体が、とっぷり湯船につかる姿が目に浮かび、舞は苦笑いしてしまった。まずは、体を引き締めた方がよさそうだ。
「六本木さんは、ご家族と一緒に住んでるの?」
穂香がいきなり突っ込んだ質問をする。こういうことを気兼ねなく聞けるのはすごい。
「はい、その方が楽ですから。っていうか、自宅から仕事に行けるので、出ていく理由がないからいるだけなんですけどね、へへ……」
意味深に笑った。同棲する彼女はいないってことだ。年齢も近そうだしいいかな、と穂香が訊いた。
「彼女はいるんですか?」
「残念ながら……募集中です」
ぐっと唾をのみ、女性三人は顔を見合わせた。
「それなら、ここで見つかるかもしれないわね。共同生活してるんだもの、親しくなりやすいわよ」
と穂香が返した。
ここにいる誰かと付き合うってことか。それもいいかもしれないし、恋愛禁止なんて言う決まりはないはずだ。
私とは、どうかなと心の中で付き合っている図を想像したがぴんと来ない。
六人が話をしていると、年のころ50代ぐらいで、合わせの上着に木綿のパンツをはいたはいた女性が近寄ってきていった。ここで仕事をしているような服装だ。
「あ~ら、皆さん。これからこちらで合宿なさる方たちね」
「はい、そうです」
「私は温泉の世話係をしている峰さくらと申します。よろしくお願いしますね」
六人は一斉に頭を下げたた。
「お世話になります。よろしくお願いします」
「受付やら脱衣場の掃除やら、その他もろもろな仕事をしてます。そんなにきつい仕事じゃないけど、お客さま相手なので、よろしくお願いしますね。あ、もちろん皆さんだけじゃなくてバイトの人たちもいるからご安心を」
と微笑んだ。お客さん相手というところを強調している。
「男性の方たちは絶対に女性が入浴中には入らないように、それだけはお気を付けくださいね。逆ももちろんですが」
「わかってますよ、そのくらい」
と石黒が返事をした。彼が一番危なそうだ。
「女性が入浴中に掃除しようとして、男性がうっかり脱衣所へ入ってしまい、大騒ぎになったことがあるんですよ」
「はい、了解です。私たちも男性が入浴中に入らないように気をつけます」
と穂香が答えた。この仕事も、意外と楽しそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます