第8話 合宿所の面々

 いったん部屋へ戻り、荷物をクロゼットにしまい、窓から見えるのどかな山の景色をひとしきり眺めると、舞は夕食までの時間を持て余し一回の食堂へ行った。すると、男女二人がソファに座っていた。


「こんにちは、あら、あなたもここの合宿に参加する人ね」

「はい、さっき着いたところです。よろしくお願いします」

 

 舞は自己紹介した。


「高坂さんから先ほど聞いたわ。今日もう一人加わって六人グループになるんだって。私は、田中恵(たなかめぐみ)です」

 

 ほっそりして大人しそうな人だ。小声で話す。


「僕は長澤航(ながさわわたる)、よろしくね。本当はこういう団体生活って苦手なんだけど、仕方ないな」


 とってもラフな雰囲気。ちょっと遊びに来たって感じ。


「わからないことだらけなので、いろいろ教えてください」

「あら、敬語なんか使わないでください。年齢も同じぐらいでしょう?」

「私は十九歳。あなたは?」

「あら、私も十九歳」

「俺は……もう二十代。なのでちょっとお兄さんか、アハハ」

 「私大人しいから、あと少しってところでうまくいかないの。もう面倒だし、自宅暮らしだからアルバイトでもすればいいと思ってたんだけど、親にうるさく言われて……。じゃあ、来てみようかなって。街でこんなところがあるって勧誘されてね」

「勧誘? 私もそうなの。一人暮らしだから、しょっちゅう親に何か言われることはないけど、最近失業しちゃったんで早めに何とかしたいと思って」

「へえ、どこの会社?」

 

 舞は勤めていた会社のことや、上司と折り合いが悪かったことまでを話した。おとなしそうだが、悪い人ではなさそうだ。


「そういう暴君みたいな上司っているよなあ。だけど、次は上手くやった方がいいよ。嫌な奴ってどこにもいるもんだから」


 あら、わかったようなことをいって。この人は大丈夫なのかしら。


 三人で話をしていると、男性二人と女性一人が現れた。恵が小声で言った。


「こちら五本木君に石黒君で、こちらは松永さん」

 

 足を引きづりながら歩いてきた、長身の男性が苦笑いしていった。


「俺は石黒隼太(いしぐろはやた)。二十三歳になった」

「脚はどうなさったんですか?」

「これね、最近ずっとニコニコデリバリーで働いていて、自転車を飛ばしすぎて、このありさま」

「大変でしたね。結構皆さん飛ばしてるものね」

「時間内に配達しなきゃならないからね」

 

 ぼさぼさの髪に手を当てた。みんなそれぞれ苦労してるんだ。なんか、自分だけが大変なわけじゃないことが、慰めだ。


 もう一人の男性はぽっちゃりした体形で、髪の毛はマッシュルームのよう。黒メガネをかけた少年のような男性がいった。


「僕は五本木健太(ごほんぎけんた)二十歳です。趣味はアニメとかゲーム、それから乗り物全般。一般的にはヲタクと呼ばれているけど、人から言われるのは好きじゃない。パソコンは結構得意です」

 

 舞は手を胸の前で組んで喜んだ。パソコンは舞の苦手分野だ。


「わあ、教えてくださいね。私超苦手なんです」

「僕がいうのもなんだけど、今時それじゃなかなか就職口は見つからないよ。色々覚えた方がいい。わからないことがあったら訊いてください」

「わあ、ありがとうございます」

 

 マッシュルームの下の顔が、少年のように照れた。


 ぽっちゃりした顔に黒縁メガネ、見るからにヲタクだわ。でも、彼にはいろいろ教えてもらえそうだから、仲良くしようっと。


 最後の女性は、メイクもしっかりして気合十分。っていうか、どぎつすぎなのでは。


「私は松永穂香(まつながほのか)、稲穂の穂に香るって書くの。21歳」


 うわあ~~。しかもつやのある声で、色気がある。


「クラブで働いてたんだけど、気分を変えて全然別の世界をのぞいてみたくなったの」

「クラブっていうと?」

「ああ、仕事内容?」

「大体、想像はつくけど」

「お客さんの話し相手になったり、一緒に踊ったり、お酒もちょっぴり……私のちょっぴりってのも当てにならないけど。まあいろいろ」

 

 凄い、体が震えてきた。社会経験が違う、私とは。だけど、どうしてそんな色っぽい人がここに来たの?


「私は不動産会社に勤めていたんだけど、退社してしまって……」

 

 すると穂香が片手を胸の前で振っていった。


「まあ、訳はいいから。みんないろいろ事情があって参加したんだから。これから協力し合って仲良くやりましょう」

「はいっ、頑張りましょう」


 舞は片手で握りこぶしを作った。自分が一番年下だったのね。年下らしく、可愛くいこう、っと心に決めた。

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