第7話 これはメイド服のよう

「これからどうすればいいでしょうか……実は私、こういうラフな服しか持ってこなかったんです……」

「しょうがない人ですね。わかりました、心配しないで」


 神崎はポンと手をたたく。


「そんな人のために、服も用意してあるんです」


 へっ、なんと用意がいい。助かった。


「サイズが合うといいのですが」

 

 神崎はくるりと向きを変え部屋の隅にあるクロゼットを両手で勢いよく開けた。中には様々な衣類が詰まっていた」


 その中から物色して、ハンガーにかかったワンピースをに三点手に取り、体をひるがえし舞に見せた。


「さあ、これを着てみてください」


 むっ、近い。すぐそばに体がある。


 至近距離から話しかけられると、あまりに美しい横顔が迫ってきて、心臓が飛び跳ねそうになる。声も低温で、響くような素敵な声。だけどなんだ、この服は……。


「えっ、これですか……」


 色だけはブラックのリクルートカラーだったが、形はふんわりとしていて襟のついたワンピースだ。裾はふんわりしたフレア。しかもウェストにベルトがついていて。


 メイド服のようではある……。確かにそうだ。


「これを着るんですか?」

「そう、あなたの雰囲気にピッタリでしょう」


 この人、真面目なのかふざけているのかわからない。だって、これにエプロンを付けたらまさにメイド服。


「どれがいいか、試着してから決めてください」


 っていうか、どれも同じようなデザインでしょう。サイズが違うだけだと思うが。


「そこで試着していいですよ」


 と、つい立ての方を指さした。返す返すも、用意がいい。私みたいな人が少なからずいるのだろう。


「こっちから、見えませんか?」

「大丈夫、そこは暗くなっていますので、透けて見えたりはしませんので」


 といわれ、三着まとめて抱え、ついたての陰に隠れ試着した。サイズの合うものは一番メイド服のようだった。


「これでいいですか」


 と試着後の姿を見せると、神崎は口元をほころばせ、オーケーのサインを出した。


「素敵ですよ。良く似合います」

「そうですか。こういうの着るの初めてですが」

「仕方ありません」

「……そうでした」


 持ってこなかった自分が悪いのか。


「では、これから頑張ってください。期待していますよ。三か月後には大変身しているはずです」


 はあ、大変身ねえ。こんな服を着て、本当に変身できるのだろうか。しかも、あの笑顔はどういう意味。


「ちょっと変わった方ですね、所長って」

 

 と、部屋を出てから舞が高坂にいった。


「そうですか、所長はなかなかのやり手で、他にもホテルを営業していらっしゃいます。しかもあの若さで。こちらで講習された方の中には、三か月後には大変身された方もいます」

 

 彼の話もどこまで本当なのやら。だが、他に選択肢はないのだ。やるしかない。


「おいくつぐらいなんですか」

「まだ二十代ですよ」

「へえ、そうですか」


 私と大して年齢も違わないのに、すごすぎる。


「しかも頭の切れる方ですし、ああ見えて優しいところもありますよ」

 

 そうなのか。顔はいいし頭もいいし、優しいし。それが本当なら、いうことないほど素敵な男性なのだが。これから何が起こるのだろうか。低音の甘い声が耳元に残っている。彼のいうことを信じてみよう、舞は両手を胸に当てた。

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