第6話 所長はイケメン

「荷物を置いたら、所長の神崎さんに会いに行きましょう」

「神崎さん?」

「ここの代表で、温泉の管理者でもあります」

「じゃ、ちょっとだけ待っててください」

「はい、部屋の外でお待ちしています」

「すぐに行きます」

 

 クロゼットに荷物を放り込み、来た時と同じジーンズとパーカー姿で高坂の後に続く。廊下を戻っていくと、同じ間隔でドアが並んでいる。すでに滞在している生徒もいるのだろうかと舞は訊いた。


「あの、他の生徒たちは」

「もう到着しています。後で紹介しますね。六人グループで行動してもらいますので。八雲さんを含めて男性三人、女性三人になりました」

「どんな人たちなのでしょうか」


 同じような境遇の人達だろうが、これから一緒に生活するのだ。とても気になる。


「あなたと同じように、これからの仕事について真剣に考えている若者たちです。年齢も近いので話が合うかもしれません」


 年齢が近いからといって、話が合うかどうかは別問題なのだが。変人がいないことだけを祈りたい。一階へ降り、先ほど見た食堂、スタディルームを通り過ぎ廊下を進む。一番突き当りの部屋で止まった。


「こちらの部屋です」

 とノックした。

「どうぞ」

 と声がした。

「失礼します。講習生を連れてまいりました」

「ふむ」


 舞の個室に比べるとかなり広く、部屋の最奥に大きな机がありそこに一人の男性が座っていた。手前には座り心地のよさそうな大きながある。


「どうぞ、そこへお座りください」

 

 男性が言った。彼が神崎所長か?


 舞は驚いた。自分とそれほど年も離れていないようなのだ。しかも、イケメン。自分の評価が甘いわけではなく、多分誰が見ても正真正銘のイケメン。すっと立ち上がると、机のわきを歩いてきた。長身で、歩く姿も様になっている。おしゃれなスーツを着こなし、身のこなしもよい。合宿がさらに楽しみになる。


「僕の顔に何かついてますか?」

「いえ……」

 

 舞は言葉に詰まり、動作が止まってしまった。その雰囲気にも飲まれ……。


「どうぞ」

「あ……ああ、はい」

 

 わあ、ふかふか~~~。ソファの真ん中にちょこんと体を載せると、体ごと沈み込んでしまいそうだった。隣に座った高坂進が紹介する。


「今日から参加する八雲舞さんです」

「八雲舞さん。おお、あなたが八雲さんですか」

「はい、私が八雲舞です」


 何だろう、このリアクションは。彼は、舞の頭の先から脚の先まで視線を這わせる。


 この視線、どこかで見たことがある。


 うわあ~~~~、鬼上司斑鳩豪だ。まさか、性格がそっくりなんてことはないでしょうね。びくりと震える。


「さて、ここへ来たからには、目標があるはずです。ぜひ聞かせていただきたい」

「三か月後に、しっかりした仕事につきたいのです。何とか自分で生活できるように。私一人暮らしで、会社を辞めたことは親にも言ってないんで」


 と本当のことをいった。優し気な面持ちの中にも、視線は厳しくなぜか嘘をつけなかった。


「大丈夫、これから三か月後には大変身できるでしょう。だが、真剣に考えていますか?」


 うわっ、すごい発言。その言葉嬉しい!


「もちろん、真剣です! だから参加したんですから」

「そうですか」


 怪しむように、身を乗り出す。


「真剣みが現れていないよなあ、その服装、家の中でしか通用しないよ」

「ああ、これですか。だって、合宿なんだから体を動かしやすい方がいいんじゃないですか……」

「おお~~っと、それからその言葉遣い。友達じゃないんですよ、僕は。所長に会いに行くといわれたはずだ、高坂から。まずは社会人としてのマナー言葉遣いから直さねば!」


 おっと、そういうことだったか。ソファに沈んでいた体が跳ねる。


「そ……そうですね」


 油断していた。すでに講習は始まっていたということか。

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