そういえばそんな話してたわ

「どういうことだ教授!」


 そうだそうだ

 第三次世界大戦とか、そんなに話が大きくなる要素、このシナリオにないぞ!


PL1:そもそものプロローグ、それを思い出してくださいですぞ、皆さん。


PL3:プロローグですか? たしか人狼の話をされていたかと……?


PL2:そうだぜ教授、特に妙なところはなかったと思うぜ。


PL1:いえ、GMはしっかりプロローグに「伏線」を張り巡らせていましたぞ。フフ、流石はGMですな。このような作劇をするとは、ニクイ演出ですぞ。


 褒められるのは嬉しいが、全く見に覚えがないぜ!

 プロローグ? プロローグになんか伏線っぽいのあったかなぁ……?


PL1:基本、プロローグの内容は前提知識としてキャラクターが持っているものを、プレイヤーに持たせるためのものです。なので教授もこの事を知っているはずです。もちろん皆様も。


PL2:もったいぶりすぎだぜ教授、一体何の話なんだ?

PL3:そうですわ、早く教えて下さいまし。


 そうだそうだ。GMも何のことだか、サッパリわからんぞ!


PL1:ホッホ!つまりですな、シナリオの概要の「この部分」ですぞ!!


 PL1は、オレが用意したシナリオの概要を印刷したA4用紙に書かれている文章の一部分を指差した。


★★★


 この村はリトアニアの僻地、森林で隔絶された地域にあり、ウォッチャー3のような中世を題材にしたゲームに出てきそうな、歴史的な風景が広がっている。


 しかしこの地には、そういったフィクション作品に見られるごく一般的な、狂暴で邪悪な狼男とは、すこし異なった伝承がある。


 この地では狼男は恐怖や禁忌の対象ではなく、むしろ農民たちの味方であり、収穫の実りを狙う悪魔や魔術師と戦って豊穣を取り戻す、狼男、狼女の伝説があるのだ。


 これは古来の農耕儀礼の伝承であると同時に、この地に北方十字軍を名乗り侵攻し、植民地化を行った、「サヴォイア騎士団」らに対する文化的抵抗でもあった。


 彼らは支配者であり、魔女狩りの執行者でもあったからだ。


★★★


PL2:これが何か……ハッ!?


PL1:どうやら気付いたようですな。


PL3:さすがですわね、ここに気がつくとは。


 なんだなんだ、みんな先にわかってずるいぞ!!

 俺にも教えて!!


PL1:二重の説明になってしまうので、ここからはキャラのセリフとして喋りますぞ


GM:どうぞ。


「ここリトアニアは、北方十字軍により植民地化が行われ、サヴォイア騎士団による支配が行われた地域でもあります。つまり、今この村に住んでいる人々は、古来よりのリトアニア人にとっての『よそ者』なのであります」


「教授、つまりそれって、人狼は……この村自体に恨みがあるってことか?」


「左様。そして人狼の資料を教会から盗んだ者、この旅籠のおかみや従業員は何者か? おそらくは、サヴォイア騎士団の末裔ですぞ」


「おかみは、魔女狩りとか人狼狩りを使命にしているってことか?」


「そうでなければ、人狼に対するこれだけの興味や観察眼を持つはずがありません。何故目撃しただけで人狼とわかるのでしょう?」


「なるほど、さすが教授だ、全てがつながったぜ!!」


 なんて、なんて歴史を感じる、壮大なシナリオだ!!

 まったくそんな事、GMの俺も考えてなかったぜ!!


「この村の歴史自体が、人類の歴史の裏の部分ですぞ。この村の人々は、人知れず人狼と闘い続けていたのですぞ!」


「なるほど、それが第三次世界大戦の意味か!!」


「フフ、興奮してつい、派手な言葉を使ってしまいました」


「早速この事を、アナスタシアにも知らせようぜ! あと旅籠のおかみさん達はどうする? オレたちと目的を同じくするなら、オレたちの持っている情報をおかみさんたちにも知らせたほうが良くないか?」


「いえ、彼らは人狼を目撃した我々も抹殺しようとする可能性があります。彼らの歴史の暗部にふれることになりますからな」


「そうか、これは大変なことになってきたぜ教授」


「その通りです。一歩間違えば、命を失うことになるでしょう」


 お前らは既に命を失わせてるけどな。


 ともかくなぜかサスペンスが最高潮になった。

 展開は完全に迷子だが、逆に好都合だ。


 これからおかみさん達は「サヴォイア騎士団残党」として動かそう。

 これはこれで、なんか面白くなりそうだからな。


 シナリオが面白くなるなら、設定が変わってもかまわないだろう。

 プレイヤーのアイデアを取り入れ、話が劇的になるなら、その方が良い。

 実際、かなりのサスペンスが生まれているしな。


 後はそうだな。教授の説を多少補強してやるか。

 こういうのはきっと、わかりやすいほうが良いよな。


GM:では教授はここで「観察」を使ってください


PL1:おっ、ダイスを振りますぞ。成功ですな。


GM:すばらしい、ではこのような感じに――


GM:教授が旅籠の中を見回すと、たしかにサヴォイア騎士団にゆかりを感じさせる品がありますね。盾、タペストリ、甲冑などがあります。


GM:そして教会から盗み出したであろう、人狼の資料もありますね。真新しい紙にまとめられた資料のほか、どこか魔術的なものを思わせる、怪しげな図案の書かれた、古めかしい羊皮紙も見つけ出しました。


GM:教授はキャラクターの所持品に「人狼化の魔術書」を追加してください。


PL1:ほう! これはこれは!


PL2:ついに出るもんが出てきたな。


「これは……人狼に関する資料と、魔術書のようですな。ひとまずこれを頂いていきましょう」


「まるで泥棒だな、警察に黙ってたら単位くれるか?」


「ホッホ!ちゃっかりしておりますな。もちろんですぞ!」


「やったぜ!」


GM:では次に君たちはどうするかな?


PL1:ひとまずは洞穴に向かいたいところですが、細工しておきますか。流石に彼らも、資料が無くなったら人狼の関与を疑うことでしょう。彼らの追跡を妨害しておきたいですぞ


PL3:たしかにそうね。でもいったいどうすれいいのかしら?


PL2:ひとまずガス栓でもひねってそのままにしておくか? うっかり火をつけて、旅籠が爆発してくれたら、連中の対処はそれで解決するぜ!


PL1:良いアイデアですな。ついでに蛍光灯や電球を外して、ライターを近くに置いて、火を使って明かりとするように仕向けましょう。


 やってることが完全に悪役なんだよなぁ……。

 まあいいか。今後、旅籠は登場するか怪しいし、爆破でもいいや。


 ……なんか俺も連中に毒されている気がするが、気のせいだろうか。


 その後、探索者達は、破裂するのを待つばかりの死のタマゴを旅籠の中に残し、アナスタシアと合流して、洞穴へと向かった。


 エンディングに向かって、展開は加速している、いるのだが……。

 俺の頭の中では、まったくその未来予想図が立たない。


 マジでどうなるんだろうな?

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