第三次世界大戦だ

 ぱーどぅん?

 いま妙な言葉が聞こえたような……旅籠を消し去るとか?


 まてまて、俺の聞き間違いの可能性もある。

 発言をもう今一度聞いてみよう。


 GM:すみません、聞き逃した気がするのでもう一度お願いします。


 PL1:おっとこれは失敬。早口で喋りすぎましたな。どうにも性分でございまして……あの旅籠を完全にこの世から消し去ると、そう申し上げました。


 間違いだけど!! 間違いじゃなかった!!


GM:ちなみに、どういった推理からそういう結論に?


PL1:おそらくあの旅籠は人狼の住処ですぞ。おそらく神父はそれに気付いて、この私にコンタクトを取ろうとしたのです。教会に閉じこもっていたのは、時間稼ぎのため。しかし、人狼にサツガイされたといったところでしょう。


 ふむ、こうして言われてみると違和感はない。

 明らかに間違っているのにかかわらず、筋が通るのはなんか怖いな。

 きっと戦争って、こういう感じで起きるんだろうな―。


「だけど教授、証拠が必要だぜ。証拠は炎に包まれた教会の中だ」


「ドミトリーの言うとおりですわ。証拠はすべて、あの炎の中。……きっと人狼は、それを見越していたのかもしれませんわね」


「くっ、何という戦略眼でしょう。抜け目ない連中ですな。たしかに直接的な証拠に関しては、我々は手詰まりといっていいですな」


 お前らの放火を予測するのは、エスパーでも無理だよ!


「ですが皆さん、冷静に考えてみれば、証拠は旅籠にあるはずです。彼らが持ち去ったのであれば、その証拠は今も旅籠にあるはず」


「さすが教授だぜ! 旅籠の中を探索して、見つけた証拠を連中に突きつけてやれば良いんだな」


「そのとおりですぞ」


「きっと教会の炎を見て、財閥の機動部隊が出動しているはずですわ。もし戦闘になった時はウチの執事とメイドにおまかせあれですわ!」


「ホッホ!頼りにしていますぞ」


 流れがかなり不安になってきたが、先に進めるか。進めるのか?

 次に何が起きるのか、まったく予測がつかなくて恐怖しか無いぞオイ。


GM:では探索者達は旅籠に再び戻ってきました。「笑う子犬亭」の前ではおかみさんと従業員、そして客が炎上している教会を不安そうに見ていますね。


「ほう、これは好都合ですな」


「何がだ教授?」


「旅籠の中にいる者たちが外に出ているなら、会話術でこの場に引き付けることで、安全に旅籠の内部が探索できますぞ」


 なるほど、頭いいな! その手があったか!


「なら、その役目は私がいたしましょう。社交界で鍛えた『会話術』で、外にいる人たちを釘付けに致しましょうですわ」


「ホッホ!アナスタシアの話術なら間違いありますまい」


GM:では「話術」で外の人たちの注意を引けるか判定しましょう。数値は当然のように99ですか。ハイ成功です。


 こんなの失敗しようがないからな。サクサクいこう。


「じゃあ、俺と教授で中に侵入するぜ」


GM:侵入ですか、では「潜伏」の技能で――


PL1:お待ち下さいですぞ、GM、たしかこの旅籠には消防法に基づいた非常口があるはずです。真正面の入り口ではなく、そこから侵入しますぞ!


 クソ! すっかり忘れてた! そういえばそんなのを創り出していたなコイツ!

 まあいい。旅籠に入るくらいなら普通に入れてやろう。


 問題はどうやってプレイヤーに神父の手がかりを与えるかだが……普通におかみのメモか走り書きをでっち上げて、部屋の中に置いておくか。

 それが一番無難だろう。


GM:ではドミトリーと教授は旅籠に非常口から侵入した。次にどうするかな?


PL1:もちろん「観察」で中を調べますぞ。きっと教会から盗んだ何かが、この旅籠に存在するはずですぞ


 完全に旅籠を敵のアジトか何かだと、教授たちは思い込んでいるな。

 うーむ……また放火でも始める前に、旅籠は今回の事件に対して関係がないことを明示しないといけないな。おかみさんたちの命が危ない。


 すでに放火と殺人が一件、発生しているしな。

 これ、事件が終わった後に教授たち、普通に逮捕されるだろ。

 

GM:では「観察」のロールをどうぞ。成功ですね。では旅籠の中を見回した教授ですが、なにやらおかみさんが残した走り書きがありますね。


「ほう、その走り書きを確認してみましょう。なんと書いてあるのですかな?」


GM:走り書きの内容は「教会から何者かが走り去っていくのを見た。村外れの洞穴に向かったようだ。まさか伝説の人狼ではないか?」といった内容です。


 これだけあからさまな証拠を出せば、さすがにそちらに注意が向くだろう。

 そうでないと困る!

 頼む!シナリオをちゃんと先に進めてくれ!


GM:洞穴の場所、その特徴もメモには書かれています。このメモの内容から、教授はビノスの村外れに洞穴があることを知りました。走り書きの内容は以上ですね。


「むむむ……これを見てください、ドミトリー!」


「このメモは、どういうことだ教授!」


「どうやらおかみは人狼の姿を目撃したようですな。この人狼は教会で殺人を犯したものと同じと考えられます。そして、村外れの洞穴に逃げ込んだ……」


「ってことは、人狼は今も外をうろついているってことだな?」


 よし、これでようやく本筋に戻ってこれたぞ……。

 まったく、何でこんな苦労を――


「もうこの村はおしまいです!第三次世界大戦ですぞ!!」


「「な、なんだってーー?!」」


 プレイヤーと俺の叫びがハモった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る