状況を整理しよう

 さて、吐き気がしそうだが、一旦、ここまでの状況を整理しよう。


 まずシナリオ全体を俯瞰ふかんしてみる。

 全てが順調に進んだ場合、このシナリオはどう進むのか?


 用意したチャートで見てみよう。


 ・旅籠でアルカス神父が教会にこもっている情報を入手


 ・教会で身元不明の死体を発見


 ・教会にあるアルカス神父の日誌から、アルカス神父を狙う男の存在と、最近村にきたよそもので、アルカス神父と親しくなった男の事が明らかになる。


 ・日誌の情報から、アルカス神父と親しい男とコンタクトを取る


 ・ここで人狼が本当に存在することが明らかになる。


 そして教会にあった死体は神父ではなく、教会に盗みに押し入った村人のものだった。村人は人狼化した親父を見て、騒ぎ出しそうになったので殺された。


 神父と知り合った男は、村人に神父の服を着せ、神父を死んだことにすることにした。彼の存在を隠そうとしたのだ。


 ・現在神父は人狼と化し、村の外れに隠れている。彼の人狼に対する興味は、自身の人狼化を治療したいというのが動機だったのだ。そしてそれはもうすぐ実現するところだったのに、今回の事件が起きてしまったのだ。


 ・不本意とは言え、神父が殺人を犯したのも事実だ。


 探索者は人狼化した神父をどうするか?

 彼の魔術に協力して治療するか?

 それとも……?


 そしてステージ設定として、魔術に使用する物品が村の資料館にあって、それをどうにかして手に入れないといけないとか、人狼化した神父が見つかりそうになり、その危険をどう退けるか!みたいなイベントが有る。


 うん、チャートの内容は以上だ。


 現在の状況としては、アルカス神父が生存。展開のキーになるNPCの神父の友人が、探索者たちの手によって特に理由なく抹殺された。


 つまり神父を探すための手掛かりは完全に途絶えたことになる。神父と対話するルートは、もはや無いだろう。探索者たちは、彼の友人を殺害したわけだし。


 もう神父敵対ルートに入ったと見なしていいだろう。


 一応、人狼化したアルカス神父との戦闘は可能だ。戦闘用のステータスやスキルのデータは用意している。


 こんな形で神父と敵対関係になるとは、思っても見なかったが。


 考えろ、ゲームマスターとして、この次どう動けば良い?


 方向性としては、神父と探索者を引き合わせる必要がある。

 人狼化した神父の目撃情報あたりを、旅籠のおかみに言わせてみるか?


 そして引き合わせて、戦闘、おしまいにするのがいいだろう。


 ぶっちゃけ、もうこれくらいしかもう思いつかない。

 人狼と戦えば、一応シナリオが終わった感は出るから、それでお茶を濁そう。


 そもそもの話、基本的に映画や物語の登場人物と違い、プレイヤーというものは、感動とか葛藤なんて、理解しないものだ。目に入るもの、触れるもの全てを興味本位で破壊しようとするのが、プレイヤーという生物だ。


 プレイヤーは破壊者であり、ゲームマスターはいかに気持ちよく破壊できるものを用意するか、それが仕事だ。うん、そう思わんとやってられるかこんなの。


 クソ!もう二度とコイツラとはプレイしないからな!!


 ラストに持っていくには、神父と探索者たちを引き合わせる必要がある。

 普通に考えれば旅籠のおかみさんを出すべきだが……しかし、安易におかみさんをここで出すことはできない。


 こいつらの前にNPCを出したら、予測不能、回避不能の致命の一撃を繰り出すというのが先ほど行動でわかったからだ。


 下手に登場させたら、その場でおかみさんも始末される可能性がある。


 ううむ、ひとまず描写をして連中の行動を見守るとしよう。

 そしてその場に旅籠のおかみさんがいたことにするのがいいだろう。


 こちらから出したら、警戒感から探索者達はNPCを攻撃するが、その場にいるだけなら問題ないよな? なんかもう扱いが危険動物みたいだが、仕方ない。


 この村に警察がいないことが、逆に事態を悪化させてしまった。

 好き勝手するコイツラを止める存在がないぞ……?


 GM:えーっと、炎上する教会を目の前にしている探索者たちですが、次はどうしますか?時間は……色々行動したので、午後2時くらいですね。


 PL1:むむ、困りましたぞ、手掛かりが途絶えてしまいましたな?


 そら、きみたちが握りつぶした上で灰にしたからね?


 PL2:けっこうアクティブに動かないと、情報が集まらないシナリオっぽいな。


 嫌な予感がする。

 たのむからこれ以上アクティブに行動しないで欲しい。


「ひとまず、教会が炎上していることを、旅籠の人たちに伝えるとしましょうぞ。我々が訪れようとしたら、自然と発火したことにしましょう」


「そうだな教授。ところで気になるんだが、神父は教授と人狼の研究をしていたんだよな?」


「そうですな、詳しくいろんなことをやり取りしていましたな」


「あの書斎にそういった内容の書籍はあったか?あそこにそういう関係の書物が無かったなら、誰かがそれを持ち出したんじゃないか?」


 そのとき、GMである俺の頭に電流が走った。


 本棚の中身についての描写で、人狼に関係する書物に触れなかったのは、単純な描写ミスだ。しかし、これは使えるかもしれない。


 GM:「おっいいところに気が付きましたね。そうですね、神父の使っている資料を、誰かがどこかへ持ち去ったのかも知れませんね」


 本来ならこういったアイデアをひらめくかどうかも、判定でやるものなのだが、まあこういうこともある。よしよし、この気付きを誘導していこう。


「ふむ……その可能性はありますな。ドミトリーに単位を差し上げましょう。


「やったぜ!」


「しかし一体何者が持ち去ったのでしょう?私達が出会った人たちに、そういった資料に興味を持ちそうな人はいなかったですわ」


「ふむ、それもそうですな。いや、おりますぞ!」


「どういうことだ教授?」


「考えても見てくださいですぞ、皆さん。あの旅籠の看板はそういった学術的興味がなければ作り得ないもの。つまり旅籠のおかみが、その資料について、何かを知っている可能性は大いにありますぞ」


「なるほどですわ! 流石は教授といったところですわね!」


「ホッホッホ!手掛かりは旅籠にありですぞ!行きますぞみなさん!」


「「おう!」」


 よし、勝手に探索者たちが行動を始めてくれた。

 これならなんとかラストまで持っていけるぞ……!


 しかし俺のそんな甘い考えは、次の言葉で消し飛ばされた。


「そしてあの旅籠を、この世から完全に消し去るのです!!」

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