家探しタイム

GM:では君たちは死体を見つけた教会の中を探索するということでいいんだね?


 俺はプレイヤーたちに、念のため確認する。

 これはプレイヤー同士で、意志の統一が取れているかどうかを確認するためだ。

 取れてないと、あとでトラブルや言い合いのもとになったりするからな。


 まあ、やっててもなる時はなるんだが。


PL1:うむ、まずは手がかりを探しますぞ

PL2:犯人の手がかりか、神父が何かやらかしたのか、それを調べないとな

PL3:秘密教団の証拠を手に入れたら、財閥の機動部隊の投入ですわね!


 最後がちょっとひっかかるが、まぁ進めよう。


GM:君たちは教会のホールを見回す。ホールの左右には奥の説教壇を見るように、10以上のベンチが並んでいる。説教壇のこちらから見て左側に扉が一つ見えた


「ふむ、奥に扉が見えますな。あの扉の奥に行ってみましょう」


「勝手に歩き回って大丈夫か教授?」


「ドミトリー、これは事件ですわ!事件は解決せねばなりませんわ!」


「ってもアナスタシアよー、これって警察に任せるべきじゃね?」


「何を言ってるんですか! こんな面白いこと、警察に任せられますか!」


「ホッホッホ、そうですぞ二人共、何事も経験ですぞ」


 正気とは思えんことを言っているが、コレでも常人よりも正気なのだ。

 果たして君たちの正気は何処の誰が保証してくれるのか?

 そんなマンガのキャラのセリフを思い浮かべながら、俺は室内の描写を始めた。


GM:扉を開け、部屋の中に入った君たち。どうやら扉の向こうは書斎だったようだ。部屋の中央に机が有り、その後ろには大きな本棚が並んでいる。


GM:その他、細々とした生活に必要な家具がある。ここはアルカス神父が生活するのに使っていたスペースのようだ。


PL1:なるほど、では早速調べてみるとしましょう。


GM:ではダイスを振り給え。


 俺はプレイヤーたちに家探しに成功したどうかの判定をさせるために、再びサイコロを振らせた。さすがにあれだけ上下に振れた後は、平均的な出目におさまり、プレイヤーの操作するキャラクターたちは、順当に探索に成功した。


GM:では教授は本棚から神父が残したであろう日誌を発見したぞ。この場で日誌に書かれている内容を改めるか?読み終えるまでに数時間かかるぞ。


PL1:では流し読みだけにおさめますか。


GM:了解。


 ここで俺はいつもの「テクニック」を使うことにした。

 TRPGでは、ゲームルールにもよるのだが「時間の流れ」というものがある。

 ~~の行動は何時間。怪我を治すには何時間。そういった類の、一種の不便さを感じるルールだ。しかし俺はあまりこれが好きではない。

 なのであるテクニックを使うのだ。


GM:日誌には神父の普段の生活の記録が書かれていますね。教会のどこそこが壊れただとか、あれを買いに行こうだとか、そういった内容です


GM:しかし、日誌を読み進めていくと、突然、文字の乱れたページが見つかりました。何か非常に急いで書かれた内容が続いています。


 これは俺のよく使うテクニックのひとつだ。


 このTRPGでは、本を読むにはルールによって決められた時間がかかる。本のボリュームにもよるが、3時間から6時間かかってしまう。常識的に考えて、そんな事をいちいちプレイヤーにさせていられない。


 考えてみて欲しい。6時間もキャラクターを拘束したら、その間、他のキャラクターは何をすれば良いのだ? 時間つぶしに他のキャラクターが探索に出掛けでもしたら、その間、本を読んでいるキャラクターは物語から退場してしまう。

 だからこうして目立つ、異常なページというのをプレイヤーに見せて、ここだけ読めばいいんだな、とさせて、無駄な時間を短縮するのだ。


GM:さてページの内容ですが――


 このページには、神父が遭遇した事件についての詳細が書かれている。

 この手掛かりを得たことで、シナリオは大きく動いていくのだ!!


「おっと、どうやら書き損じのようですな。」


PL1:教授はそのページを破り取ると、丸めて捨てましたぞ


 おいいいいいいいいいいいいい!!!!

 何してんだ!!それ手掛かり!手掛かり消えたよ今!

 探索者の手によって、手掛かりが消えたぞオイ!!


「何してんだよ教授、ポイ捨てなんかして」


 よし、良いぞドミトリー!回収してその内容を確認するんだ!

 そうしないとお前らこの先の展開が迷子になるぞ!


「ゴミはちゃんと燃やさないといけないだろ」


PL2:ドミトリーは所持品のライターで火をつけて、丸めたページを焼き払うぜ☆


 証拠隠滅しやがったああああああ!!!!

 消えた!はい消えた!展開が完全に消えたよ!!


PL3:燃やしちゃってよかったんですの?


PL1:おそらくですが、神父の正気度が減るような、異常な内容が書かれていたんでしょうな。ここは燃やしておくに限りますぞ


PL2:だな!安全のためには、念入りな行動を取らないといけないぜ!丸めただけじゃあ、安心できないぞ


PL1:ホホホ、助かりましたぞ!


 助かってね―よ!

 むしろ非常事態だよ!!次の展開が完全に消えたぞ!!


 クソ!どうすれば良い!考えろ、考えるんだ……!


 ――そうだ!コイツラ変な行動ばっかしてるから、一旦自警団かなんかに捕まえさせよう!そこから本筋に戻していこう!


 まだ行ける。しかし俺の抱いたこの淡い希望は、この後連中が始めた行動で、あっさりと打ち砕かれることになった。


「では教会に放火しましょう!!」

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