シナリオの導入


 俺は今日、とある市民会館の一室を借り切って、3人の仲間を目の前に、とあるTRPGをプレイする。


 そのTRPGは「何とかの脅威」というゲームだ。


 「何とか」とは、ずいぶん適当な名付け方だと思うが、本当に「何とかする」というコンセプトで作られているゲームなのだ。


 「何とかの脅威」は、サスペンス、ホラー的なストーリを遊ぶための汎用的なシステムで、おおよそ1990年代から、2000年代初頭の現実世界の職業、道具をデータ化している。敵はトランシルヴァニアの吸血鬼でもいいし、暴走する殺人コンピューターでもいい。非常に何でもできる、懐の深いシステムなのだ。


 この「何とか」は、「吸血鬼の脅威」でもいいし、「殺人ロボットの脅威」でもいい。実に休日に集まって遊ぶには都合のいい、手軽なシステムなのだ。


 気軽に遊べるぶん、ルールを知っているゲーム人口も多いから、参加するプレイヤーも見つけやすい。


 俺は3人のプレイヤーを目の前に、シナリオの導入を描いた紙を読み上げる。

 まあ、映画の紹介みたいなもんだ。


「人狼教会殺人事件」


 舞台は2000年代、夏。


 探索者たちは、リトアニア、ヴァレナ近郊にある村「ビノス」を訪ねる。


 君たちはこの村に、文化的な研究を目的にしてやってきている。

 その研究のテーマとは、「人狼伝説」だ。


 この村はリトアニアの僻地、森林で隔絶された地域にあり、ウォッチャー3のような中世を題材にしたゲームに出てきそうな、歴史的な風景が広がっている。


 しかしこの地には、そういったフィクション作品に見られるごく一般的な、狂暴で邪悪な狼男とは、すこし異なった伝承がある。


 この地では狼男は恐怖や禁忌の対象ではなく、むしろ農民たちの味方であり、収穫の実りを狙う悪魔や魔術師と戦って豊穣を取り戻す、狼男、狼女の伝説があるのだ。


 これは古来の農耕儀礼の伝承であると同時に、この地に北方十字軍を名乗り侵攻し、植民地化を行った、「サヴォイア騎士団」らに対する文化的抵抗でもあった。


 彼らは支配者であり、魔女狩りの執行者でもあったからだ。


 人狼に代表される獣人化現象は、キリスト教圏では神学者によって、悪魔の仕業、邪悪であるとされたが、他の文化圏では異なる解釈がされている。


 東アジアや南北アメリカにおいては、獣人化現象は神聖な血筋と関連付けられることが多く、トーテム崇拝の文化を持つアラスカやインディアンには、狼の氏族を持つ部族も多い。トンカワ族を始め部族そのものが「狼」を意味するものさえある。


 しかし、リトアニアをはじめとしたバルト三国、ウクライナなど、スラヴ文化圏に属する国家は、長年政治的安定とは程遠かったので、人狼に関してのまとまった研究はないのだ。


 しかしソ連が崩壊してロシア連邦が安定期に入った今は、(と言っても20年以上前だが)文化研究の絶好の機会であった。


 さて君たち探索者は、民族のルーツに根付いた人狼伝説の文化的研究、そのフィールドワークの為に、この村「ビノス」を訪れる。


 それはアルカス神父という人狼伝説を個人的に研究している者に、現地で会うためであった。


 しかしプレイヤーの操る探索者たちは、この地である事件に巻き込まれる。

 中世さながらの因習が未だに息づくこの村で、彼らは何を見るのだろうか?


 ――さて、説明はこんな所でいいか。


 次に、このシナリオに参加するプレイヤーの自己紹介をしてもらおう。


 3人はどんなキャラクターを用意したのかな?


 作った本人たちに、紹介してもらうとしよう。

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