第6話「妹ハルコと同級生ヨウタ②」【猫のクトゥルフ編】

小春日和【猫のクトゥルフ編】

エピソード6「妹ハルコと同級生ヨウタの小猫日和②」


家族写真とは大事なものだ

その一枚を撮影したときは

幸せそのものに違いはないが

それが続いたかは知らない


ハルコ「家族写真みせてみろ」

ヨウタ「なんだよ突然、まあ、いいけど?」

ハルコ「ありがとー、ヨウタすき」

ヨウタ「読み終えたら戻しとけよ?」

ハルコ「了解です!」

ヨウタは優しい子だ

私は太陽の子エステバンを思い出す

太陽のような優しさが好き


ヨウタ「ジュースもってくる」


わたしは曇りよりも晴れの日が好き

日陰よりも日向が好き

化け物よりも人間が好き

異常よりも普通が好き

じゃあ太陽が好きなのはどうして?


それは私がヨウタくんの太陽とは遠くかけ離れた

ブラックホールのような存在だからに違いないんだ


ヨウタ「ハルコのことは嫌いだ」

秋野万次「なんでだ?いつも一緒だろ?」

秋野凛「そうだぞぉヨウタ~、まあヨウタは素直じゃないから、そこがあの子にとって可愛いんだろうね」


死体よりも生物が好き

地獄よりも天国が好き

汚いものよりきれいなものが好き

そんなの当たり前だ

けど俺はハルコが鬼であることを知っている

人間よりも鬼が好きになった俺は

もうとっくにおかしくなってるんだ

母さんのいった通りだ

それは俺が誰よりも素直じゃないからだ


ヨウタ「じゃあ約束どおり、お前の家族写真を見せてみろよ?」

ハルコ「うん、いいよ!じゃーん!」


そこには宇宙服を着たような

大根やマンドラゴラもしくは高麗人参のように太くて枝分かれした、楠の木のぶっとい根っこようなもの枝が、透明な球体のガラスの中にある


ヨウタ「またか…変なのが見える」

ハルコ「また心霊写真が見えるの?」

顔をよくみると木の幹は女の子の顔に見える

ハルコ「じー…」

わたしはヨウタくんと接触事故を起こして

片玉を潰してしまったことがある

男の子の根性ためしで、滑り台をジャンプしてヨウタくんに、ちょうど下を通り抜けた私の鬼の角にぶつかったのだ


ヨウタくんは痛くて痛くて股間から血が止まらなかった

なんだか私はすごく興奮してて

いとおしくなった


命あるものを潰すのは

こんなに気持ちいいんだって


ハルコ「ヨウタくんは変なものが見えるんだね」

ヨウタ「ああ、なんでだろうな」

ハルコ「じゃあこの手とかさ、この足とか、この顔はどう見えてるの?」

ヨウタ「…ふつーだよ、ふつーよりのブスだわな」

ハルコ「なにそれー!もう!」

ヨウタ「可愛い方だと思うのが、おかしいんだろうな」

ハルコ「むきー!いやな感じ!」

ヨウタ「お前と付き合うのは俺くらいだもんな」

ハルコ「ヨウタくんは、素直じゃないなー」


あの事故以来は、おれは潰れた片方の金玉を摘出した、だから片玉のヨウタだ

ハルコはそれ以来は急にしおらしくなり、なぜか俺に付きまとうようになっていった


でも俺には

ハルコは明らかに木の幹の枝の釘人形に見えるが、そのことを黙っている

ハルコの触れる手や指は、ちぎれた雑巾のようにボロボロとしている、例えるならタコかな、パイレーツオブカリビアンに出てきたタコの船長だ

そういうことを直球で言うと、ハルコは嫌そうにするから

その木の幹のような得体の知れない何かに愛らしさを感じる

つまり俺は人間よりも鬼が好きになったんだ


普通よりも異常なものをうまく認識できてないなら

それは俺がハルコにおかしくされてしまったと気がついた頃には

學校中のクラスメイトをミンチのような肉塊にしか見えなくなった、ハルコは前よりも可愛らしく見えるが

たぶんそれは素直じゃないからだ


ハルコ「ねえわたしの指って綺麗?」

ヨウタ「干からびた人参みたいなものに見える」

ハルコ「私の足は?」

ヨウタ「大根かな、冗談でもなくマジで」

ハルコ「もう!じゃあ私の顔は?」

ヨウタ「ぶっとい木のねっこみたいなのが、球体のガラスの中にパンパンに入ってる、もしかして宇宙服着てる?」

ハルコ「…」

ヨウタ「ごめん、冗談」

ハルコ「じゃあ、どんな幽霊を見たの?」

ヨウタ「…」

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

ヨウタ「そうだな、キスしてもいいくらい可愛い茶髪の子がいるわ」

ハルコ「私より可愛い?」

ヨウタ「やっぱ可愛くないわ、お前くらいかな」

ハルコ「なにそれ?」

ヨウタ「キスしてもいいか?」

ハルコ「うん、して」

ヨウタ「本当はさ…いやなんでもない」

ハルコ「本当はなに?」

ヨウタ「本当はすきなんだ俺も」

ハルコ「それは嘘かなぁ~」


ヨウタ「ハルコ、本当は…まだお前のことが少し怖いんだ」

ハルコ「もっと慣れないとね、私もヨウタが美味しそうにしか見えないことがある、少し怖い」

ヨウタ「そっか」

ハルコ「うん」

ツーと血が垂れる

ヨウタ「俺の口、おいしかったか?」

ハルコ「ちょっとまずい」

ヨウタ「じゃあ噛むんじゃねえよ!」

ハルコ「うそ、美味しかったです」

ヨウタ「あっ、じゃあ治るまで唇噛むの禁止な」

ハルコ「えー!ほめたのに?」

ヨウタ「うそだよ、敬語使うときは大体適当なこと言ってるし」

ハルコ「バカ!しねしねしね!」

ヨウタ「おい枕投げんな!」


ヨウタ「あーいってえ…しばらく味噌汁飲めねえじゃん…」

タコのような木の枝が蠢いている

ハルコの輪郭を感じる

俺にはそう見えてる

見た目は化け物でも

心のなかは可愛い女の子に見えてんだ


ハルコ「おーいニカホー!」

ヨウタ「出てこーい…ん?なんだこれ」


ゴウン…ゴウン…

宇宙船の中には

写真が貼ってあった

キッチンのみえる食卓に

家族が写っている


ヨウタ「この写真は…」


ハルコ「これなんだろー」


ハルコはまだ遠くで遊んでいる

この写真は一応ポケットに突っ込んでおこう

グシャ…

ヨウタ「あのさ、前に家族写真を見せてもらったことあったよな」

ハルコ「うん、あったねー、でもなんで今その話するの?」

ヨウタ「そのときさ、本当はお前のことさ」

ハルコ「うん、化け物に見えてたんでしょ」

ヨウタ「知ってたのか」

ハルコ「目でわかるよ、やっぱ見えてたんだね」

ヨウタ「…」

ハルコ「…」

二人は沈黙する


ヨウタ「あのさ」

ハルコ「あのね」


ハルコ「そっちからでいいよ」

ヨウタ「うん、あの、お前がもしも宇宙船のエイリアンとか化け物だったとしても、俺はお前のことがすきだから、その、これさ…さっき見つけたんだけど」

ハルコ「…うん、見てたよ、なんか壁から剥がして隠してたの」

ヨウタ「隠すつもりはなかったんだ、けど他人にどうしても見せたくなくて、お前もツノとかじろじろ見られるの嫌だろ?」

ハルコ「わかった、みせて」


ヨウタ「やっぱ似てるよな、タコみたいな形のところとかさ、木の根っこみたいな?」

ハルコ「あー、私と同じだね」

ヨウタ「だよな、あ、お前の方は何を言いかけたんだ?もしかしてなんかやばそうなの見つけたとか?」

ハルコ「実は…なんもないです」

ヨウタ「なんだそれ?」

ハルコ「なんも見つかりませんでした」

ヨウタ「お前が敬語を使うとき大抵なー」

ハルコ「…」

ヨウタ「そっか、なんもなかったんだな」

ハルコ「うん、ニカホも居なかった」

ヨウタ「じゃもう帰るか、猫も家に帰ってるかも…」


スッ

ヨウタ「あれ?」

ハルコ「あ、ニカホ!」

ニカホ「にゃ~」

気がついたら家に瞬間移動していた


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る