第27話 王都で遊ぶ

「さあ、フィーネ出かけようか」


 そういうノアは顔を半分だけ隠す仮面をつけた。そうすると端正な面立ちの男性の顔が現れる。火傷のないノアの左側半分は美しい。服装はいつものぞろりとしたローブ姿ではなく、黒の上下でいかにも貴族の好青年という感じだ。


 ノアはいろいろな開発をしているのに、やけどの跡を消す薬は作らないのかと不思議に感じた。

「ノア様、綺麗です」

 フィーネが素直な感想を述べると、ノアが途端に赤くなる。


「な、なにを言っている! そんなわけないだろうが!」

 本人は嫌なようだ。人に好かれるのも嫌がり、容姿を褒められるのも嫌がるとは……。


「ノア様は変わった方ですね」


「お前もいい勝負だ。では行くぞ」

 ノアが、フィーネにエスコートの手を差し出した。


 フィーネは男性のエスコートされるのは初めてでちょっぴりドキドキした。ノアの差し出された手に、ぽんと手に自分の手を重ね、馬車に乗り込む。ノアはフィーネを実験体と呼ぶくせに、まるで貴婦人のように大切に扱う。そして願いをかなえてくれる。彼はいつもでも紳士だ。


「遅ればせながら、ノア様、いつぞやは暴漢から助けてくださって、ありがとうございました」

 フィーネが深々と頭を下げる。彼女が初めて参加した仮面舞踏会のときの話だ。


「ふん、気づいていたのか」

 ノアが馬車の中でフィーネの向かい側に座り、そっぽを向く。


「ああ、やっぱり、ノア様だったんですね」

「おい! かまをかけたのか」

 フィーネの言葉にノアが気色ばむ。やはりこの人は騙されやすいのではないかとフィーネは思う。


「あのように親切な方は、早々はいませんからね。そういうノア様も私だと気づいていたのでしょう?」

「気づいていたも何も、お前、あの時、仮面が外れかけていたぞ」

「ええ! 本当ですか!」

 フィーネは赤くなり、頬に手を当てる。


「それで馬車まで送った時ハウゼン家の人間だと知った。主催者に聞けば、ミュゲ・ハウゼンが出席したと言っていた。だから、お前と会う気になったんだ」


「え? そうだったんですか?」

「ああ、俺は社交に疎くて、あの時も、お前と姉が入れ替わっていることに気づかなかった」

「では、姉が素直にノア様の元にいっていたらどうしたんです?」


「叩き出したにきまっているだろ」

 即答だった。

「はあ……」

 しかしフィーネは、優しいノアがそんな真似できるはずがないと思った。


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