第26話 魔塔 ユルゲン・ノーム
ユルゲン・ノームは子爵家の三男に生まれた。子供の頃から賢い少年で、八歳で王立魔導学園初等科に首席で入学した。
それほど優秀なのに、父は容姿も能力も凡庸な長兄に後を継がせようとしていて、次兄もそれを是としていた。ユルゲンは長兄が家督を継ぐことに納得がいかなかった。
素晴らしい才能を持った自分こそ継ぐべきだと考えたのだ。
そして中等科へ進学した時、父親の元へ直談判にいった。このまま首席で中等科を経て高等科を卒業したら、長男に変わり自分に家督をつがせてくれと頼んだ。
だが、父は頑なに拒んだ。二年にわたり説得した結果。渋々ながら、やっと父は折れてくれた。
だが、そのせいでほかの兄弟との折り合いが悪くなる。なぜか家族は皆、凡庸で取り立てて才能のない長男の味方をするのだ。妹と弟までも。
だが、それもユルゲンが魔導士学園を首席で卒業するまでだと思っていた。
ところが高等科になった17歳の時、その目論見は見事に崩れ去った。
この国の第二王子と、魔導の天才と名高い公爵家の嫡男が入学してきたからだ。
高位貴族は初等科中等科の内容は家庭教師について勉強し、高等科から入ってくる。それ自体はよくあることだ。
だが、この二人が入学したことにより、ユルゲンは二度と首位をとることはなくなった。
そればかりか、ほかにも成績優秀な者が出てきて、5位以内に引っ掛かるのがやっとというところで、下手をすると二桁になることもあった。
ユルゲンは後から来た者たちに追い抜かれていく。
これにより、家督を継ぐことは絶望的になった。いくら成績優秀だと父親に訴えても、ユルゲンの願いは聞き入れられなかった。
毎回首席のノアは顔が醜く、常にフードを目深にかぶり、顔を隠していた。
うっかり彼の素顔を見てしまった者から話を聞くと、それは恐ろしいものだったという。
ノアは陰気臭くて、口が重く、魔導にしか興味がない不気味な学生だった。
それに比べて、ユルゲンは初等科から中等科までは常に首位で、頭も顔もよく、人気者だった。
ところが、高等科になった途端、途中から入って来た高位貴族たちにその立場は奪われた。
彼らは皆優秀な家庭教師について、幼いころから英才教育を受けているのだ。下級貴族がかなうはずもない。
この国の第二王子に人気が集中するのはわかるが、なぜか顔が醜く陰気なノアの元にも信奉者が集まっていた。
そのうえノアは醜いにも関わらず、妙に女子生徒にもてる。聞けば、公爵家は驚くほどの金持ちだという。醜くても陰気でも、金と地位があればもてるのだと知った。
そのうえ、第二王子とノアは幼いころからの付き合いで、二人はよく一緒にいる。
いくらユルゲンが第二王子に近づこうとしても、さほど裕福でもない子爵家の三男では、王族の取り巻きになることすらできない。
次第にユルゲンの中で、ノアはこの世の不公平さの象徴となっていった。
その後、この大陸の最高峰である魔塔を志したが、卒業時少なくとも5位以内の成績でなければ入れない。ユルゲンには厳しい条件だった。
しかし、ユルゲンは初等科からの人脈を駆使し、教授にとりいり、どうにか魔塔に潜り込めた。
これでとりあえずエリートの仲間入りはできた。ユルゲンはその途端実家を見下し始める。
だが、魔塔に入ってからも、学園での序列はそのまま続いた。
そのためユルゲンはノアに対抗しようと、派閥を作り始める。そして、夜会や茶会のたびにノアに関するおかしな噂を流し始めた。噂はすぐに広まった。
しかし、それにもかかわらず、大きな名声を得た彼の元には縁談が引きも切らないという。貴族家の三男のユルゲンの元には、ろくな縁談が来ないというのに。
あわよくば高位貴族家への入婿を狙っていたが、彼にそのような縁談は来なかった。
なんとか魔塔で功績をあげ魔法伯の称号を得たいと願っていたのに、ノアのせいで自分の成果がかすんでしまう。
そのうち、ノアは画期的な魔導具を作り、国を豊かにしたということで叙勲し、報奨金まで得た。
この時ユルゲンの嫉妬は頂点に達する。
そんなある日、ノアが魔塔から去るとのうわさが、社交界に広まった。
真相は研究拠点を魔塔から、自領に移しただけであるが、それでもユルゲンにとっては好都合だった。
ノアが王都を留守にしている間に、ユルゲンが成功を収めれば注目が集まるだろうと考えた。
幸いシュタイン公爵家の領は辺境にあり、片道はひと月ほどかかる。その間にノアの派閥の人間の中から、協力者を得ようと考えた。
ノアは孤高を気取ってはいたが、魔塔には彼の派閥が存在している。
派閥があれば、そこには必ず裏切る者や寝返る者がいるはずだ。
ノアの不在はユルゲンが名を上げるための千載一遇のチャンス。必ずやノアを引きずりおろし、名を上げるのだ。
ユルゲンは自分の輝かしい将来に思いを馳せた。
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