第23話 王都へ

 マーサの言う通り王都まではあっという間だった。


 ノアの研究棟へ行き、二人で手を繋いで魔方陣にで作られた転移装置に乗る。酔うから目を閉じるように言われて、しばらくすると、周りの空気が変わったことに気が付いた。

「目を開けてもいいぞ」


 繋いでいた手が離れ、フィーネは目を開ける。すると白い箱のような部屋の中にいた。


 水晶玉が魔方陣を囲むように五か所に配置され、その真ん中にフィーネとノアは立っている。


「ノア様、ここはどこですか?」

 フィーネはきょろきょろとする。さっきまで石造りの堅牢な研究棟にいたのに、ここはまるで違う場所だ。


「王都のタウンハウスの一室だ」

「え?」

 ノアに連れられ、半信半疑で白い部屋を出ると、毛氈が敷きつけられた長い廊下があった。


 そして、目の前に執事服を着た男が一人立っている。

「ノア様、お帰りなさいませ」

「ただいま。フィーネ、彼はフェルナンだ。ロイドの兄で、このタウンハウスの執事をしている。用があるときは彼に言いつけるといい」

 ノアがフィーネに紹介する。フィーネも挨拶を返したが、心ここにあらずだった。


 一瞬で王都についてしまうなど、フィーネは見たことも聞いたこともない。半信半疑だった。


 フィーネは天井からクリスタルのシャンデリアが下がる豪華なサロンに連れていかれた。


 大きく張り出した窓から、外の景色を見た。


 すぐそばに王宮も大聖堂も見える。ここは間違いなく、王都だ。

「ノア様、すごいです!」


 驚いてノアを振り返る。じわじわと王都へ来たのだという実感がわいてくる。


「画期的な発明ではあるが、まだ実用段階ではない」

「え?」

 フィーネは首を傾げた。


「あの魔方陣を使うには膨大な魔力がいるのだ。使える者は限られる」

 そう言ってノアは、ポーションを二本出した。

 一本はフィーネの分で、もう一本はノアが飲んでいる。


「あの、私までついてきて、ご負担だったのでは?」

「お前ひとりくらい問題ない」

 二人が話している間にもフェルナンがお茶の準備をしてくれる。

 目の前にアツアツのスコーンが置かれ、クロテッドクリームにイチゴのジャムが添えられる。

 フィーネは好物のスコーンを手に取った。


「お茶を飲んで一休みしたら、さっそくフィーネの服を買いに行こう」

 ノアが紅茶を飲みながら提案する。


「は?」

「これから、一週間ほど王都に滞在する予定だ。訪問着が、それ一着では不便だろう。なんといっても大切な実験体だからな。お前の気に入った服や宝飾品をなんでも買ってやろう」

 ノアの言葉に、フィーネは目を丸くした。


 なぜだか、ノアはフィーネが望んでもいないことまで、かなえようとしてくれる。


「あのノア様、私は書店とカフェに行きたいだけです。あとは植物園へ。いくらなんでも、甘やかし過ぎです……」

 フィーネは自分の望みだけを口にする。


「安心しろ、もうすぐ死ぬお前に贅沢を教えてやるだけだ。着飾る楽しみを覚えるといい。お前は好きなだけ強欲になれ」

 きっぱりと言い放つノアを見て、フィーネは唖然とした。


(ちょっと口は悪いけれど、とんでもなく良い人なのに、どうしてあんなひどい噂が流れているのかしら? むしろ人が良すぎて心配だわ)


 フィーネは甘やかされることに慣れていなくて、どきどきしてしまう。


 初めはアップルパイが食べたいだのなんだのとリクエストしていたが、ノアがこの程度でいいのかと、どんどんフィーネの欲求をエスカレートさせようとするので、願いを口にするのが怖くなってきた。


「あの、ノア様いままで人に騙されたことありませんか?」


 不安そうに首を傾げるフィーネを見て、ノアが不敵にほほ笑んだ。



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