6回目
18
「どこか気に入らないところがあればそう言ってくれればいいのに、どうして私に黙って話を進めるのかしらね」
「これは黙っていたというかですね、言おうとは思っていましたよ。それが今だっただけで」
「私はね、どうして最初に言ってくれなかったのかと言っているの。その話の内容からして、私が最初に聞くべきではなくて?」
サークルのシナリオ担当にして現役プロ作家の霞詩子こと霞ヶ丘詩羽先輩。
俺が三題噺の話を恵美(仮名)の個別ルートのイベントとしてこねくっているのを英梨々と同じようにスクショを見せて話をしたのだ。
「シナリオはある意味で構造物なのよ。あとから増築や減築をしようとすると全体へのバランスに影響があるし、その部分だけ浮くといわゆる『取ってつけた感』が悪目立ちしてクオリティが落ちるのは倫理くんだって嫌というほどわかってるはずよね」
「評判が良かったからって調子に乗って二期を作って爆死したタイトルは数え切れないですね。あえて出さないけど、一瞬で五タイトルは浮かびました」
今日の先輩はとてもご立腹で、俺は厳しい叱責を受けた。
確かに俺の見切り発車が原因で先輩は何も悪くなかった。
出さないと言ったけど1つだけ挙げるなら『探偵ウスノラダイムの失策』で、冴えない私立探偵のウスノラダイムが持ち込まれる数々の案件に悉く失敗るコメディ系のタイトルだった。最初は浮気調査や失せ物探しで探偵系あるあるをギャグを絡めながらテンポ良く話が進んだのが、二期になってある巨悪に挑むみたいなスケールを大きくしてしまったために、ギャグが少なくなり考証が甘くなって視聴者にツッコミを受けるなど散々な結果に終わったのだ。
「納得のいく説明を求めるわ。どうしてあの負けフラグ(さわむらさん)より後になったのかをね」
「そっちですか!?」
「不本意だけど、ストーリーが引き立つなら外部からの意見を取り入れるのだって吝かではないわよ。でも、ストーリーあってのイラストでしょ。本来は上下なんてないけど、これは別問題ね」
わかってはいたけどこれは根深い。前の活動での俺を諌めてやりたいくらいに。後悔はしないけど二人とも、もう少し仲良く……
「今度からミーティングで話すようにするから、それで収めてくだい」
「本当ね? ちょうどいいから仕切り直しをしましょう」
こんなとき加藤がいてくれれば先輩も目を気にして押さえ目にしてくれただろうが、生憎と今日はいなかった。
「まずは企画から確認ね。ここではなんだから倫理くんの部屋へ行きましょう」
お題はというと? 棚上げにはなったけど反対しなかった。さすが先輩。
他意はないよ。ほんとだよ。
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