第46話 いざ新幹線。主人公、九州へ(勝ちヒロインとの再会フラグその2)
7月。
放課後。
4人揃って、駅ビル内のファミレスにて。
「見ろ、テストはばっちり、黒点だ!」
「赤点じゃないのを黒点っていうの? ま、でもよかったわね」
「たかくん、おめでと~」
期末テストが終わり、答案が返ってきた。
その結果、俺は全教科で平均70点! ……まあ、素晴らしい成績とはいえないが、少なくとも赤点ではない。補習も追試も受けなくていい!
「孝巳くんが補習にならなくて、よかった」
「これもみんなのおかげだよ。本当にありがとう」
俺は心から礼を言った。
そして、
「これで福岡行き決定だ。新幹線で北九州に向かって、2泊3日、福岡に泊まる。まずは織芽の前の住所に向かって、手がかりを探し、そしていまの織芽の家に向かい、彼女と再会する。それが俺の計画だ」
「いまさら止めはしないけれどさ、本当に織芽を見つけ出せるかどうか、分からないのよ? バイト代が吹っ飛ぶだけで終わるかもしれないのよ?」
「覚悟の上さ。とにかく織芽ともう一度、出会わないことには、俺の気持ちがおさまらない」
「きっとまた会えるよ。たかくん、こんなに頑張ったんだもん」
そう言った栞の顔は、どこか寂しそうだった。
……そうだよな。栞からすれば、必死に俺に気持ちを伝えたのに、それでも俺は福岡にまで彼女に会いに行こうとしている。複雑な気持ちになるのも当たり前だ。
栞だけじゃない。
歌音も、瑠々子も。
俺のことが好きなのに、それでも俺と織芽が再会することを応援してくれている。
いいやつらなんだ。
可愛くて、優しくて、最高の仲間たちなんだ。
俺は、結論を出さなくちゃいけない。この福岡行きが終わるまでには、彼女たちの態度をどうするか。どうすればいいのか。俺は――
「ところで、福岡に2泊するって、どうやって泊まるの? 高校生だけでホテルや旅館に泊まるなんて、予約をするの難しくない?」
「そこは大丈夫だよ。父親に『福岡まで旅をしてみたい』って話したら、父親の名前でシティホテルを一部屋、予約してくれることになった。……さすがに彼女を探しにいくとは言えなくて、旅行に行きたいってことにしたんだけどな」
「おじさん、物わかりいいね~。普通、学生だけの旅行、それも九州まで行くなんて話、許してくれないよ~」
「いや、最初は父親もダメだって言おうとしていたよ。でも栞がついてくるって言ったら、なら大丈夫だって許してくれたんだ」
「へ~。さすが栞は幼馴染ね。孝巳のお父さんにも信頼されているわけだ。羨ましいわね」
「ところで、予約されるホテルが一部屋ならば、私たちはどういうふうに寝るのか。床に雑魚寝?」
「「「えっ」」」
瑠々子が何気なく発したその言葉に、俺たちは固まった。
一部屋? ……一部屋。……そうだ、一部屋。父親は言った。一部屋でいいな、と。
「ち、ちょっと待って! え、一部屋にみんなで泊まるわけ!? ひとり一部屋じゃなくて? 無理無理無理、そんなの無理よ! 孝巳がいるじゃん!」
「……驚かせて申し訳ない。思ったことを口にしたまで。私の発言は忘れてほしい」
「忘れて解決する問題じゃないよ~! たかくん、そのへんどうなってるの~」
「ま、待て、落ち着いて思い出してみる。……つまり、父親とこう話したんだ。福岡に行きたい、ホテルを予約してほしい、なに言ってるんだ、栞ちゃんも一緒か、うむなら仕方が無いな、気をつけていってこい、部屋はひとつでいいな、なにしろお前と栞ちゃんだからな、はっはっは――。……ヤバい、父さんは俺と栞がふたりで行くって思ってるんだ!」
「なに考えてるの、アンタのお父さん! 高校生にもなった男女がふたり旅で同じ部屋って、その時点でアウトでしょ!」
「まあ、でも、わたしとたかくんはお互い部屋もフリーパスだから~。それの延長だと思えばわたしは全然オールオッケー。……どう? たかくんは」
「う。い、いや俺は、ハハハ、栞がいいなら俺は、構わな」
「いまのセリフ、織芽に伝えてあげるわ。あーあ、これじゃまとまる話もまとまらないわね。ざーんねん」
「いや、そんな汚物を見るような目はやめてくれ。冗談、冗談だ。部屋はふたつにしてくれうよう、父さんに頼むから。な、な、な」
「私も一部屋のままで無問題だったけれど」
「瑠々子、いま話が冗談でまとまりそうだったんだから、ぶり返さないでっ! 無問題なわけないでしょ。ダメよダメ、一部屋なんてするくらいなら、孝巳だけ外に放り出すわよ。野宿よ、野宿」
「俺だけ外かよ!?」
――などとファミレスで盛り上がりながら、俺たちの福岡行きは確実に迫ってきていた。
けっきょく俺は父親に話して、部屋をふたつにしてもらった。
俺はシングルルームにひとりで泊まり、栞たちはトリプルルームに宿泊だ。
これでいい。これが当然だ。栞とふたりだったらシングルにふたりで泊まっていたことになっていたのか。本当、なに考えてるんだ、あの親父は。
「部活がなかったらウチも行きたかった~。お土産買ってきてね、絶対ね。とんこつラーメンね」
かえでからのそんなお願いを聞きながら、俺たちは夏休みに突入し――
「よし、行くぜ!」
7月24日の午前8時。
キャリーバッグを引っ張りながら俺たち4人は、光京駅の新幹線用ホームに立っていた。
私服姿の俺、栞、歌音、瑠々子。九州の小倉駅まで約5時間だ。
「なんか、すごくわくわくするね~」
「4人で旅行なんて初めてだものね」
「私は新幹線自体、初めて……」
はしゃぐ栞たち。
俺も、俺なりに浮かれていた。
仲間たちと旅行をするのは、楽しいもんだ。
けれど。
俺には目的がある。
織芽ともう一度、会って、話したいという大目標が。
織芽……。
俺は織芽の笑顔を思い浮かべた。
俺は絶対に、君と、再会してみせる!
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