第41話 勝ちヒロインへの道(+みんなでお茶会)

 ガタガタ……。

 ガタガタッ!

 ガラリ!


「脇谷!」


 引き戸が開いた。

 俺と栞が揃って、ひい、きゃあと叫ぶ。

 と同時に、中から男がひとり登場して――あれ?


「……田名部?」


「田名部くん?」


 奥から出てきたのは、なんと同じクラスの田名部だったのだ。


「くそっ、この引き戸、相変わらず立てつけ悪いな。……それよりも、脇谷に鈴木さん。今日、草むしりにバイトが来るとは聞いてたけれど、まさか二人だったとはな! いや、びっくりしたぜ!」


「驚いたのはこっちだよ。なんで田名部がここに」


「知らなかったのか? ここ、俺の親戚」


「へ」


「寺の名前は鍋田寺なべたでら。オレの苗字は田名部たなべ。ひっくり返しただけなんだけどな、間違いなく一族なんだよ」


「そんなオチかよ……」


「びっくりしたね~……本当にオバケかと思った~……」


 俺と栞は、ふたり揃って座り込んでしまった。

 そこへ、「孝巳、ここ?」「……気配がする」と言いながら、歌音と瑠々子まで建物の中に入ってくる。そして、田名部と目を合わせ、「田名部!?」「……級友」と、二人それぞれの反応を示し、ってか瑠々子、クラスメイトの名前くらいは呼ぼうぜ。


 田名部は、歌音たちの登場に目を丸くして、


「脇谷、やっぱりお前さんは、モテまくりなんだな……」


 半泣き半笑いの顔で、俺の肩を何度も叩いた。

 なにも泣かなくても。




「ふへっ……福岡まで行くための旅費ねえ。そのためにみんな揃ってバイトしてたのかよ」


 草むしりが終わったあとである。

 駅ビルの中にあるカフェ『スターフォックス』にて5人が勢揃いして、それぞれ冷たい飲み物を飲んでいるのだ。ちなみに俺はいつも通り、エプシコーラね。


 田名部には、事情をすべて話した。

 驚いた田名部だったが、その後、立ち話もなんだからという流れになって、俺たちはみんなで駅ビルに来たってわけだ。


 けっきょく、バイト代の一部が消えてしまったな。

 さすがにこうなったときのエプシ1回くらいは許されるだろう。


「へっへー。孝巳、見てみて。あたし、エプシ。エプシ」


「見りゃ分かるよ。ってか、歌音はいつだって俺と同じエプシだろ」


「そうそう! どんなときでも同じよ。あたしたち、やっぱり相性抜群ね!」


「……。……孝巳くん。私はキャラメルラテ。……可愛い?」


「瑠々子にしては珍しい飲み物だな。美味そうだけれど、可愛いかどうかって言われると……別にどっちでも……」


「失敗。女子力アピールしたかった。昨日読んだ本には、男子受けはやっぱりキャラメルラテだと」


「さ、参考文献シリーズだったか。いや、正直、飲み物程度で男受けはしないと思うぞ」


「たかくん、るるちゃんの努力だよ。可愛いって言ってあげないと~」


「あ! そうだ、栞。ウヤムヤだったけれど、アンタ、お寺の中で孝巳となにしてたの? 抜け駆け!? ねえ、抜け駆けでなんかやらしいことしたでしょ!?」


「べ、別に~? あ~あ、アイスルイボスティー美味しいなあ~」


「……ごまかしている。……これはなにかあった」


「そうよ、なにかあったわね!? だから余裕かましてるのねアンタ! 白状しなさい、なにをしたの! なにがあったの!!」


「騒ぐなよ、みんな。店のひとがこっちを見てる。……あれ、どうした、田名部」


「放っておいてくれ。オレはいま、ショックで打ちのめされているんだ。真っ白に燃え尽きているところなんだよ。……ちくしょう、なんでオレはこのメンツといっしょにカフェなんぞに来ちまったんだ? みじめだ……恐ろしく、みじめだ……」


 田名部はヤケ酒ならぬヤケアイスコーヒーをガブ飲みしながら、がっくりとうなだれていた。おお、本当に真っ白に燃え尽きている。


「ちくしょう、脇谷よ。お前さん、こんなに女の子がいっぱいいるのに、なんだって遠距離の彼女なんかにそうこだわるんだ。いいじゃねえかよ、誰かと付き合えば」


「田名部もそう思うでしょ!? 遠くの彼女より近くの女の子でしょ。もっと言ってあげてよ、孝巳に!」


「かのちゃん、その話はもう済んだから……。福岡に行っておりちゃんと会わないと、たかくんは絶対に次に行けないんだから……」


「私は個人的に、織芽さんともう一度会いたいけれど」


「……はあ。まったく羨ましい関係だな。モテてるだけじゃなくて、中学の関係がずっと続いてよ。オレなんか、昔の友達とは早くも疎遠だぜ。中学の仲間なんか、いまなにをしているんだか……。……ああ、オレのことはいいな。とにかく夏休みに福岡行きだって?」


「ああ」


「どうやって行くんだ? 高速バスか? 新幹線か? まさか飛行機じゃないよな?」


「実は、それはまだ考えてないんだ」


「はあ? 考えろよ。それによって貯める金額も違うだろ。……聞いた話だけどな、高速バスは安いけれどキツいらしい。行くなら新幹線がいいんじゃねえか?」


「まあ、この町から九州までバスで行こうとは思ってなかったよ。行くならやっぱり新幹線かな」


「よーし、このあたしがいまから調べてあげるわ。ふふふ、このあたしが仲間にいることを感謝しなさいよ」


「なんだよ、天照台。さっきまで遠くの彼女より近くの女の子だってオレに賛成してたくせに」


「そこがかのちゃんのいいところなんだよ、田名部くん。とっても根は優しくていい子なんだから」


「まったく同感。中学のときも、孤立していた私を仲間に引き入れてくれたのは歌音さん」


「…………。……はい、計算終了! さすが優秀なあたしね。ネットによるとしんきゃっせ――新幹線自由席では片道5時間、料金は22,000円。つまり往復なら44,000円ね! ……なにニヤニヤしてんのよ、アンタたちは!」


 照れた。

 歌音はめっちゃ照れた。だから噛んだ。

 俺と栞は思わずニコニコしてしまったが、歌音は顔が真っ赤である。……可愛い。


 もとい。

 歌音の計算によると、旅費の往復がその値段なら。

 あとは宿泊費が1泊5,000円で、2泊だとすると10,000円で。


 食費や雑費も計算に入れると、かかる費用は60,000円くらいか?

 だとしたら――


「いける。……プールのバイトに古本屋に、今回の草むしり。これに俺のこづかいを合わせれば、いける。どうやらいけそうだぞ、福岡に!」


 俺はエプシをぐっと飲み干して、拳を握った。

 会える。きっと会える。このままいけば、織芽とまた会えるんだ! きっと!


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